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第47歩:絲状災厄3

 

 ―V.S.夏雪・葵・茜―


「まったく、なんだというのでしょう」


 儀礼様のように美しい薙刀を構える夏雪。


「きゃはは!いっぱいいっぱいー!」


 身の丈に不釣り合いに長い棍棒を構える茜。


「また、同じものたちが……よくも御兄義様を……」


 持てるのが不思議なほどの日本刀を構える葵。

 対峙するは不気味なまでに増殖した、不気味な容姿をした、猿を模した……鬼。


 ギッギ、ギッギ、ギッギ


  ガッガ、ガッガ、ガッガ


 ギッハ、ギッハ、ギッハ


 理性など存在しない。

 本能など存在しない。

 ただ、目の前にあるものを蹂躙する。

 だから、それらはこんなにも喜んでいるのだろう。役目を果たせることを。役目を一度果たしたこの場所で。

 まだ、血の臭いがとりきれていない。

 戦場には、申し分ない。

 ただ、彼女達は知るまい。それらが時雨と和湖を殺したということを。だが、知る必要はない。知らなくとも予想ぐらいついた。

 だからといって、彼女達は何も感じない。

 夏雪も……感じない。

 一匹が踊り来る。持っている武器は……戦斧!

 だが、どんな武器を持っていても関係無い。そんなものが届く前に、


「ハッ!」


 一息に、夏雪は薙刀で首を刈り取る。無だな動きなど欠片もない。絶対的なリーチの差を持って、無傷の勝利。

 首の刈り取られた胴体が倒れる。

 それを開始の合図としたかのように、我先へと踊り来る。死に急ぐ。

 三人はお互いに邪魔をしないように距離をとって、敵を倒す。


   ―●―


 とめどなく溢れる敵。

 とめどなく溢れる血。


「セヤァ!」


 夏雪に上から襲いかかる猿鬼を首を跳ね飛ばして、体が自分と激突しないように、切った勢いでそのまま回転、薙刀の柄に引っかけて別の猿鬼と衝突させる。

 柄を振り下ろした勢いでまた回転、背後から剣で斬りかかろうとしていた猿鬼を縦一文字に両断。

 構えなおすなんて悠長な事をしている暇はない。流れに任せて、最短距離を持って隣にいる構えてもいない猿鬼を斜めに切り上げる。

 切り上げるといっても、完全には上げきらず、自らの腰辺りで方向転換。猿鬼に深々と刺さっているなど感じさせない、勢いに任せて、横に一回転。倒れること、八体。

 未だに彼女に武器を届かせる圏内に入ったものはない。

 漆黒の髪を踊らせて、血しぶきを敵にあげさせている姿はまさに――堕天使『ファースト』!

 天賦の才を持って、彼女は薙刀を繰る。

 軌跡さえも描かないほどの超高速連撃。

 先の連撃にかかった時間はわずか二秒。

 途切れる事ない……連撃。

 終焉する事ない……暴力。


   ―●―


 グキリという鳴ってはならない音。

 グシャリという響いてはならあい音。


「キャハハハハハ!」


 この場にそぐわない無邪気な笑い声。

 だが、茜のしていることはこの上なく、この場に沿うものだった。

 純然たる力による破壊。

 考えもなく、技巧もなくただ棍棒を振るう。

 真っ赤に染まった棍棒と茜の四肢。返り血なんて気にしない。あって、ないようなもの。

 元々紅い髪はより赤く。紅よりも赤い朱へ。自分の色を塗り替えて、突き進む。

 棍棒を一度振るっただけで、一体死ぬ。二度振るえば、二体死ぬ。一撃必殺の攻撃。

 右へ振るえば左へと返し、

 左へ振るえば右へと返す。

 たまたま、地面に棍棒が当たる。途端、アスファルトが弾けとんで、猿鬼達に直撃する。単なるアスファルトの破片でさえ、彼女の手にかかれば弾丸となり、破壊の道具として扱われる。

 アスファルトが刺さっただけで、猿鬼達は死んでいく。

 あまりにも脆い、脆すぎる《失敗作》のように。


   ―●―


 攻撃しては避けて、

 避けては攻撃する。


「フッ!」


 短い呼吸音と共に、長い日本刀を猿鬼の胸に突きたて、返り血を浴びる前に、離脱する。

 派手さなんて欠片もない。

 狂気なんてどこにもない。

 ただ、事務的に殺す。

 怒りを持って事務的に。

 静寂な……戦場。

 日本刀の長さという長所を使わずに、急接近、急離脱を繰り返す。

 夏雪とはまったく別種の速さ。武器が見えない高速さではなく、体そのものをとらえさせない、特殊な速さ。

 客観的にみればそれほど速くはないが、接近戦において、視界をかいくぐり、死角に入り込む状態把握の早さ。

 何にしろ、普通の人間からしてみれば、十分な速さではあったが。

 背中に回り込み、突きたてる。

 腹部に潜り込み、突きたてる。

 猿鬼の体構造は人間と大した差違はない。むしろ、劣るぐらいだ。骨が足りなかったり、筋肉が欠けていたりと。

 弱すぎる。あまりにも。

 だが、葵にとってそんなことはどうでもよかった。ただ、憎むべき、彼を傷つけた憎むべきそれらを、ひたすらに殺していく。


   ―●―


 終わることなく跋扈する。

 終わることなく蹂躙する。

 無限に現れるそれらを。

 元をたたねば意味がないと知りながらも、彼女達はひたすらに殲滅する。

 彼女達に与えられた使命はここで戦い続けること。

 磨耗してもなお、

 疲弊してもなお、

 この場でひたすらに戦うこと。

 無限に続くと思われるような、この戦いを。

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 誰が終わらせてくれると信じて、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 愛すべきものたちを守るために、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 始まったばかりの戦いを続けて、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 無事に一柱の神を輪廻させる為、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 殺し、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 守り、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 待ち、

 ひたすらに、

 ひたすらに、

 ひたすらに…………

 彼女達は――愛し、戦う。


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