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壊れゆく日常

 目覚めるとそこは横たわる下らない世界だった。

 斑な蒼き奈落と波打つ茶色い天蓋。たったそれだけ。

 気づけば逆転している。斑なのは空で、波打っていたのは大地。そこにただ横たわっていた。

 熱い。熱い、熱い。熱い熱い熱い。極度に熱せられた砂は溶解した鉄板みたいで本当に熱い。でも耐えれないほどじゃなかった。

 それでも立ち上がる。こんな下らない場所にいたくないわけではない。向かうべき場所があると知っていたから立ち上がる。

 身の回りを見回すと、自分と同じように横たわっている一振りの剣。

 重さで断ち切る西洋剣で、その大きさは大体百六十センチ程度。自分の身長よりも大きかった。

 剣を手にする。やけに冷たい刀身だ。

 まるで、何かを拒絶するかのように。

 まるで、何かを否定するかのように。

 ひたすら冷たい刀身だった。だが自分には関係ない、冷めているなら温度調節に利用すればいい。

 片手で持ち上げてみると重さは感じなかった。なおさらいい、持っていくのにはそれに越したことはない。

 剣は大きすぎたので引きずっていくことにした。

 一歩。また一歩。憎しみに駆られて前へと一歩。

 砂漠の越え方など知らない。夜を越えてその先へ。

 大会の渡り方など知らない。夜を越えてその先へ。

 残していくものは足跡と剣で引いた直線。足跡からなにが生まれようが関係ない。それは所詮、過去。必要ないから置いていく。

 たとえ、残したものから自分が傷つけられても知ったことではない。結果がすべてだった。

 進む。ただ進む。目的を果たすために進む。

 過去に追い抜かされても。夜を越えてその先へ。

 未来が遠ざかっても。夜を越えてその先へ。

 見つけた。やっと見つけた。これでようやく終着点が見えてきた。

 あの白い頭。間違えない。自分の過去たちはとっくの昔に遭遇している。でも、そんなことはどうでもいい。

 狂喜乱舞する。ようやく自分の存在意義が見えたのだ。無理もない。

 さぁ、壊そう。全て壊そう。嫉妬、羨望、憎悪、憧憬、自分の全ての対象だったあいつを壊そう。

 だから、ばれないように呟いた。


「よぉ、《失敗作》」


 そうして深い眠りについた。


   ―●―


 驚いて飛び起きた。

 また、夢だ。こんな風に何の意味も持たない、誰が主人公かもわからない夢をこの一ヶ月何度も見た。大体、二日に一回程度。

 夢を見るだけなら、いくらだって構わない。だけど、夢から覚めた後にやってくる偏頭痛はどうにかならないものだろうか。

 まぁ、そんなことは置いておいて。

 この一ヶ月、大地さんの家にずっと居た。いや、もうどちらかと言えば住んでいるといった感じだ。

 とりあえず今の所、事に大きな進展はない。目立った侵攻はないし、明らかになった情報もない。さすがに『神々の墓守』相手では侵攻に慎重になるのはわかるが、情報が一つも明らかにならないのはなんとも不思議だ。

 かといって、この現状もなかなか悪くない。

 榎凪は一人でフラッとどこかに行く、

 葵の敬語癖は直らない、

 茜は騒がしい、

 大地さんは本を読んでいる、

 夏雪さんは大地さんに寄り添う、

 和湖さんは遠くを見ている、

 時雨さんはシニカルに笑ってる、

 鏡は家事をしている、

 由愈は眠たげ、

 明さんは榎凪と喧嘩してる、

 麻紀さんは喋り捲ってる、

 朝熊さんは頼りない。

 それが当たり前の日常。変わることのない当たり前。

 いつまでも終わらない、そう思っている僕が居る。

 だけど、



 壊れるのは簡単だと、

 壊れるまで気づかなかった。


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