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第31歩:VICIOUS ANGEL-2

 いや、この所驚きの連続だ。世の中、仰天することはまだまだ沢山あると実感した。

 何せ、家の中に広々とした道場があるのだ。離れなどに作ればいいのにわざわざ家の中に作るなんて何とも無駄というか、豪勢というか。もしかすると、探せば屋内プールとかテニスコートとかあるかもしれない。

 道場があるという事実を知っていると言うことはそこに一度行ったことがあるから。でも今回初めてこの地にやってきた。つまり、今現在道場にいるわけ。

 夏雪さんがジャージを着ていたのも納得できる。これから道場に行くのに着物を着ている方がどう考えてもいびつだ。

 ところで夏雪さんについてきたのは良いが、いったい何を始めるのだろうか。道場に来たからにはやることなんてある程度限られてはくる。だけど、それでも僕は気になって仕方なかった。


「あの……」


 僕はできるだけ響かぬよう低い声で夏雪さんに話しかけた。努力とは裏腹に静かな道場に声は響いたが、夏雪さんの耳にはしっかりと届いたらしく、こちらを振り返って一言だけ形の整った唇で僕に喋りかけた。


「そこで少しだけ待っててくださいね」


 それだけ言って夏雪さんは奥にある倉庫らしき部屋に入っていった。

 この場所を見ているとまるで学校の体育館だと言う印象がわく。用具庫まで完備と来たら本当に言うことなしだ。


「お待たせしました」


 幾秒かして夏雪さんが戻ってきた。


「はい、どうぞ」


 これまた夏雪さんにそぐわない物を持って。

 夏雪さんが持ってきて、差し出したのは木刀。差し出した反対の手には木の長い棒を持っている。僕のみ間違いでなければあれは棒術に使う練習用の奴だ。


「これで何をしろと?」


 思わずタメ口を聞いてしまう程、僕は対応に困ってしまった。とりあえず木刀を受け取ったのは良いもののそれを眺めるしかできず、僕は固まる。

 そんな僕をみて夏雪さんは笑いながら当然のように言った。


「手合わせしましょう。お互いの実力をみるために」


 所々夏雪さんって榎凪さんに似ている気がしてきた。容姿的にも髪が綺麗だし、根がしっかりしてそうなところとか特に。


「大河君は私を信用してないみたいですから。私も弱い人に背中を任せたくありませんから」


 ばっさり言われた。ものすごくきっぱり言われた。

 もしかしたら、榎凪よりキツいかもしれない。それでも理にかなってるし手っとり早い。

 初めにあったときは清楚で大和撫子というイメージを受けたが、今やものすごいがっちりした感じだ。特にさっきの発言は偏見かもしれないが、かなり男っぽい。


「それじゃあ、始めましょうか」


 強制のようだ。

 夏雪さんは棒を構え、僕は木刀の切っ先を棒と交えた。

 僕の中では久しぶりのリアルな戦闘。怪我のリハビリもかねて僕は本気になることにした。


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