第2歩:OUTSIDE-2
少年は手を前に差し出す。同時にあきらめた口調で、
「探してきますからお金を出して下さい」
とだけ言った。
榎凪は何を思ったか少年に一度近づきお金を取りに行く為か離れる間際に小さく耳元で、
「さすが私のハコだ。かわいい」
と囁く榎凪。その行動に言いようのない敗北感を少年は覚えたがどうしようもない。何をどうしても榎凪にはかなわずいつもいつも従ってしまう。
榎凪が部屋の奥に行って十数分、大きな財布を鞄に入れながら無地のTシャツとジーンズに着替えた榎凪が出てきた。かなりラフだがこの女性の明快さにはちょうど良く似合っていた。
「何してるんですか?」
不思議に思い少年が訪ねると、
「何してるって一緒に行くに決まってるだろう?」
と当然のように榎凪は返す。心底少年は脱力しきり肩を落とした。そうして気を取り直し叫ぶように声を張った。
「だったら一人で行けばいいじゃないですか!」
「デートに一人で行くバカがどこにいる」
確かに一人でデートができる器用な人は早々いないだろう。
他愛のない言い合いはまだ続く。
「酒を買いに行くだけでしょう!」
「デートっていうのは好きな異性と出かけることを言うんだ。だからこれは立派なデートじゃないか」
定義はそうかもしれないがこの場合ただの買い物だ。
こうなれば、もう負けだ。これ以上話していても屁理屈で良いように少年が丸め込まれるだけなのだから。
「ところで……」
少年は話題を変え思案深げに言った。
「ん?なんだハコ?」
「『今日の名前』は何でハコなんですか?」
少年は榎凪に毎日名前を変えられると言う不思議な境遇にいる。境遇と言うよりは榎凪の単なる性癖だが。
「それは私の大事な箱入り息子――もとい、箱入り恋人だからな」
「…………何時になったら名前の日替わりを止めてくれるんですか?」
「それはハコに一番にあう名前を見つけたらだ」
榎凪は心底楽しそうに少年に笑いかける。この世は楽しいことで溢れていて辛いことが全く無いと言わんばかりに。
それより後、少年は終始無言で榎凪の隣をあるいた。
榎凪は少年の細い腕に自分の腕を強く、強くそこにいるのを確かめるように絡め満面の笑みを浮かべる。
「さぁ、行こうか」
少しだけの沈黙。それもまた心地よく流れた。
少年は顔をほんの少しだけ赤らめ、しかし抵抗することなく榎凪の歩幅にあわせて歩く。
端から見ればただの兄弟だが、周りの目を榎凪は気にしない。自分さえよければいいのだ。
これほど単純明快な人は他にいないだろうし、こんな奇妙な関係の二人もまた他にいないだろう。
本当に今は、今だけ世界の何処より世界の何より二人の関係は楽しかった。
第二歩目です!前話を見て次の話に目を通して下さった方々、どうもありがとうございます。心よりの感謝を述べます。
次回も見ていただければ幸いです。




