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第19歩:BLEAKFAST-3

 取り残された僕ら三人は一応他人の家なので勝手に物色するわけにもいかず、特に何もすることなくただただ座っているしかなかった。

 窓から見える風景は広い庭に幾つか見える葉が落ちきってすっかり茶色くなってしまった枝だけの木と薄く高い雲をちりばめたような空、この家が一段高いところに示すように見える色とりどりの疎らに広がる屋根。

 木枯らしで舞い散る枯れ葉さえもないその風景は何処か空寒い。

 さっきいた位置から移動して葵と茜の近くに腰を下ろした。さすがに股の間にナイフが刺さったような場所で朝食は食べたく無い。かといってナイフをそのままにしておくわけにも行かず、左手で軽く引き抜き右手に持ち変えて軽く弄んでいた。

 くるりくるりと回る銀色。

 投擲用ナイフのためなるだけ軽くしてあった。これならばいくら持っても苦にはならないだろう。だからって明さん、持ち歩かないでほしい。

 三人だけの時間もそう長くは続きはしなかった。

 まず大地さんが帰ってきた。昨日の朝熊という人に電話してきたらしい。そうして元いた席へと戻る。慣れているのか、ただ興味がないのかどうかはこの人の場合計り知れないが僕たちだけになった理由は尋ねてこなかった。

 それを追うようにして夏雪さんも戻ってくる。目を薄く閉じしっとりとした感じで部屋に入ってきたものの後ろに引き連れられた人々のせいでただのホラーなものでしかなかった。後続の人々のことについてはあえてコメントを控えようと思う。

 これで鏡以外のもとのメンバーはあっさり帰ってきた訳だ。

 木擦れの音。鏡も帰ってきたようだ。鏡が残りの人を起こしてきたのならばこの家にいる全員がそろったことになる。皿の数から数えると十二人が一つの部屋にいるわけだ。部屋が広くあっても何故だか圧迫感を感じるような人数である。

 鏡の後ろには大地さんと同年代の男性が二人と少女が一人いた。

 入ってきた順番はまずわりかし普通っぽい感じの少年だ。何というか優しげな面もちではあるが、明らかな一般人オーラがでている。寝起きがいいのか眠たげな感じを少しも見せていなかった。

 次に入ってきたのは普通より少し格好の良い少年だ。しかし寝不足なのか目の下には濃い隈が出来ている所為でそれが台無しになるどころかただの不健康な人というイメージしかわかせない。

 最後に入ってきたのは年端もいかぬ少女だ。鏡と同年齢ぐらいの筈なのだが、鏡とは対照的に年相応といった外見だ。まだ眠いのか頻りに目を擦っている。

 それにしても子供が多い。十二人中僕を含めて年端もいかないのが五人とは異常だ。僕や葵、茜は榎凪によって作意的に作られたからよいにしろ、他の二人は現状に役立つのだろうか?


「始めに入ってきた順に間宮(マミヤ) 和湖(ワコ)希崎(キザキ) 時雨(シグレ)浅辺(アサベ) 由愈(ユユ)だ」


 横から淡々と大地さんが説明してくれた。相変わらず少しも動きはしない。ただ琥珀色の瞳が動くだけ。

 無関心に時雨さんと由愈はそのまま席に着いたが和湖さんは僕たちの近くまで歩いてきて握手を求め、右手を差し出してきた。異様なまでのこの落ち着いた全員の反応は何だろう。慣れているのか?

 和湖さんの握手にに右手で答えようとして右手にまだナイフを持っていることに気づいた。ナイフを左手に持ち変え改めて右手を差し出した。

 あまり強く握らず儀礼的な交わり。が、その手からはしっかりと温もりが伝わってきている。

 僕の右手から手を離し、隣の葵、茜と順に握手の相手を変える。

 その間、和湖さんは一言も声を発さずただ笑いかけるのみ。一番好印象を与えるようなシチュエーションの筈なのにどうにも好きになれそうになかった。


   ―●―


 食事は至って静かなものだった。

 原因の大部分は騒ぎ立てていた三人が完全に沈黙し、機械的に箸を動かしていたせいだろう。今まで榎凪がここまで言葉を発しなかったことがあるだろうか?いや、まず無い。

 そんな苦々しい沈黙の中でも朝ご飯をおいしく感じられたのは本当においしい料理であったのと、久しぶりの食事だったおかげだろう。

 それにしても間延びしている時間は絡みつくように動きを鈍重にする。おかず一つとることまで一苦労だ。

 このときばかりは大地さんや夏雪さんも助け船や話題を出さず黙々と料理に箸をつけては口に運んでいた。もしかしたら二人にとっては食事は静かな方が好きでいつもそうなのかもしれない。だがそれでも少しは現状打破してくれると期待していた。その希望も完全に打ちのめされ、今やただの絶望へとなり果てている。どうにも出来ない僕は少し、いややっぱりだいぶ情けない。

 そんな中、一種異才と言っても良い程浮いていたのが由愈だ。年齢のせいか鈍感なのかはいざ知らず、場の空気など気にせずスプーンで飯を笑顔で書き込んでいる。由愈の存在がなければさらに、それこそ戦場の様に殺伐とした風景になっていただろう。

 しかし由愈は遙か遠く、テーブルの反対端に座っているので全体的には変わっても僕付近は大した代わりはない。むしろ目前に榎凪たち三人がいるので空気が荒んでいる。とんでもなく恐ろしい。もうどうにでもなれってんだよ。



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