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第18歩:BLEAKFAST-2

 肌がチリチリするぐらいのプレッシャーがこのリビングに渦巻いている。しかも僕の真横で。

 膠着状態の続く国々の国境にでも立たされている気分だ。宣戦布告の準備も万端。後はことを待つのみ。第三者の僕から見ればたまったもんじゃない。

 大地さんと夏雪さんはわれ関せず、葵と茜は僕同様に扱いかねて困っていると言った具合、鏡は鏡でどっちつかずな態度をとっていた。


「はよぉ〜」


 軽快な口調で右手を挙げながら誰かが戸を開ける。

 救いの手か悪魔の手かどちらになるか分からないが誰かがやってきてくれた。もう進展してくれるならどっちでもいい。

 僕は完全な物臭な態度で傍観を決め込んだ。


「いやぁ〜、お腹空いた空いた!あれ、ご飯は?」


 この人は超絶的に空気に鈍感らしい。そのおかげか空気はほんの少しだけ柔らんだ。

 見覚えのあるその人は昨日僕を押さえつけた人。顔と似合わぬ変な敬語もとれ枷が外れたかのようなマシンガントークを始めようとしたのをすんでの所で大地さんが言葉を重ね制止させた。よかった。このままだと会話の一方通行が成立するところだった。


「そいつは風間(カザマ) 麻紀(マキ)だ。うるさいがよろしくやってくれ」

「誰がうるさいって!そんなに人を貶しちゃダメだよ!」


 腰に手を当てかわいげのあるポーズで怒った真似をした。

 軽率に反論した時点で大地さんに軍配が上がっている。

 大地さんとの会話に飽きたのか今度は目線のあった榎凪に話しかける。


「やっほぉ〜、榎凪!元気してたぁ?こっちは相変わらずドタバタしてるよ。あ、その顔はまた明ちゃんと喧嘩したのね。もう子供じゃないんだから」


 クスリと口に手を当てて笑う麻紀さん。完全独走状態だ。

 麻紀さんの話し相手を捜す目は一部始終をすべてみていた僕にも当然目が合う。


「君は昨日の!私のことは麻紀でいいよ。昨日はゴメンね!あぁしないと君突っ走って転けちゃいそうだったから。本当にゴメン。許して!ね?ね?」


 次々と目で追えないような速度でジェスチャーしながら話す麻紀さん。最後には合唱しながら迫ってきた。

 相手がポカンとなるほどよくしゃべる。そしてうるさい。その中、僕は分かりました、とかろうじて声を絞り出した。それにありがとう!、と麻紀さんは目一杯の反応をした。

 大地さんはやっぱり嘘は言わない。言葉を返す暇さえない程うるさい。

 しかも喋る相手に向かってずいずい、どんどん近づいてくるから質が更に悪い。

 麻紀さんはごく日本人的な黒目黒髪、小顔で小柄な短髪の活発少女という言葉であらかた説明つく。

 パジャマのままの明さんと違ってしっかり着替えた麻紀さんは明さんの隣に腰を下ろす。

 今度は斜め前の葵と茜に話しかける。その大半は長い長い意味不明な質問ではい、かいいえ、だけ聞いて話をいきなり転換させる。話を続けようにも余りに強引なのでどうしようもないのだ。

 間に挟まれている鏡に心より合唱。


「鏡、残りの三人を起こしてきてくれ。なかなか話しも始められないから」

「分かりました」


 大地さんの助け船のおかげでその場から脱出できた鏡は少し疲れたような顔で部屋を後にした。

 その大地さんも夏雪さんに少し何か言い、うなずいたのを確認してから鏡の後ろから部屋を出た。

 直後部屋は大騒ぎになった。大地さんという枷をはずしたため今まで少しにセーブしていた感情が爆発したようだ。

 まるで学校の教室が先生が忽然と消えてしまったのと同じような状態。つまり無法地帯化だ。

 まず榎凪は明さんと喧嘩を始める。バックに龍と虎が見える。このまま魔術を駆使した大合戦なんかにならなければよいのだが。

 麻紀さんは押し倒さんばかりに葵と茜に詰め寄る。今にも鼻がぶつかりそうな距離なのに本人は全く気づいていないかのように話し続ける。

 なぜか僕は取り残されたかのようにポツーンと座っていた。平和が一番。

 かすかに何か音が耳に届いた。

 幻聴が聞こえてくるほど精神が参っているのか?それとも昨日の後遺症でまだ疲れが?

 はぁとゆっくりため息をし、視線を落とした。現実から逃げた訳じゃないがこれ以上近づきたくないのもまた事実だ。逃げたと言われても仕方ないかもしれない。

 何気なく手を胡座の中央に手を入れるとチクッとした。不可思議に思って、手を眼前まで持ってきた。

 首を傾げる。指から流れるのは赤い体液が滴り落ちている。どういうとこだ、これ?

 下を見て原因を認識するまでの四秒半、あたりは完全な沈黙に包まれた。

 それはもう恐ろしいまでの静寂だ。背中に冷や汗がつつと流れるのが音として聞き取れるのではないかと思うほどの静寂は地の果て極寒の地に飛ばされるのと同感覚の恐怖と言えばわかってもらえるだろうか?

 前触れ無く榎凪が爆発した。


「貴様ぁっ!!大河にぃぃっ!!」

「ワアァァァァ!!事故っ!これは偶然にも起きた不幸な事故っ!!」


 手を榎凪に突き出しながら必死に明さんは抑止を試みる。恐怖が伝わったようだ。


「問答無用!!」


 結果的に明の行動は無為に終わった。

 何処のマンガだよっ!この展開!

 飛来した原因は明さんが榎凪に向かって投げた手投げナイフだった。そのナイフの流れ弾が偶然にも僕の股の間に刺さったようだ。

 榎凪は何処から出したのか真剣を構えている。指先切っただけなのに真剣使って喧嘩するか、ふつー?

 ってそこで明さん!しっかり小太刀両手に持って応戦しないで応戦しないでくださいよ!!

 心の中の叫びは誰にも通じなかった。

 ジリジリとだんだん詰め寄る二人は真剣な顔そのものだ。だから何でそこまでするんだ?激しく疑問。

 ハイトーンの耳をつんざく音が耳に届いた。

 その音が聞こえたのは榎凪の方からでもなく、明さんの方からでもなく、ちょうど真ん中から。

 二人とも弾かれてつんのめった様子でその手にはまだ武器が握られたまま。しかし新しく鈍光りするものが現れていた。

 長刀―――それが武器の名。儀礼的なもののように無駄な装飾などはなく、担い手にすべてを任せるように限界まで研ぎすまされた刃が不相応な木の棒から生えている様は何とも滑稽、のはずが絶対的な強さを醸し出している。銃口なんかとは比べ物にならないそんな物体がこちらを向いて待機。

 木の棒を辿るとそこには手がしっかりと握っていた。

 今度はその手を辿ると当然のように体がついて、体の上には頭がやっぱり当然乗っているわけで―――にっこり笑っている。

 誰かに似ているのは気のせいだろうか?でもこれは間違いなく夏雪さんの顔だった。

 おもむろに口が開いた。


「ここでは争いは禁止のはずですけど。理解できてないのですか?それなら精神科か脳検査の必要がありそうですね。今から行きます?」


 鉄のように笑いは崩れない。

 怖いっ!とんでもなく怖いっ!この世の終わりをみた気分だ。

 それは皆同様のようでその必要はない!、と力一杯否定した。それが失敗だったのだ。


「ということは故意にやったということですね?」


 榎凪と明さんの顔に青筋が走る。

 夏雪さんの話術はなかなかなのかもしれない。少なくとも僕よりは上だ。


「罰を与えます」


 冷淡に一瞬。凍る様な刹那。それで決まってしまった。

 明さん、榎凪、麻紀さん、三人ともが長刀の柄のほうで頭に直撃を受け動きを止めた。止められた。息も止まってないようだ

 しかしなぜ麻紀さんまで?、なんて聞く勇気は僕にはなかった。


「じゃあ少し席を外すけど喧嘩しちゃだめよ」


夏雪さんは優しく微笑む。

 それだけいって三人を引きずりながら部屋から出ていった夏雪さん。さようなら、あなたたち三人のことは一生忘れません。どうかお元気で。合唱。

 ポツンと残されてた僕らになにをしろというのか?喧嘩なんかするはずない。できるわけない。

 とりあえず、硬直して時間を過ごすしかない人間外の三人だった。



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