第180話 ランクアップ
「いや、なんか俺の職能が『ランクアップ』っていうのが出来るようになったみたい」
(……は?)
春風が言ったその言葉を、水音は理解出来ないでいた。
(な、何だよ、『ランクアップ』って……?)
と、水音が心の中でそう疑問に思っていると、
「「なぁにぃいいいいいいい!?」」
と、驚いた表情のウィルフレッドとヴィンセントが、もの凄い勢いで春風に詰め寄ってきたので、水音は思わず
「うわぁ!」
と、小さく驚きの声をあげた。
その後も「今のはどういう意味だ!?」と言わんばかりに春風に詰め寄る大国の主2人。そのあまりの興奮ぶりに、
(え、えぇ? ちょっと2人共どうしたんだ?)
と、水音がドン引きしていると、
「あ、あのぉ、一体どうしたのですか? 雪村の身に起きた事は、そんなに珍しい事なのですか?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ねてきたので、
「当然だ! 何せ進化する職能など聞いた事がないからな!」
「おうよ! 帝国も長い事職能について研究していたが、『ランクアップ』なんて初めて聞いたからな! これが興奮せずにいられるかってんだ!」
と、ウィルフレッドとヴィンセントは興奮した様子のまま……というか、寧ろ更に興奮した様子でそう答えたので、その答えに水音や春風達が戸惑っていると、
「2人共、落ち着いて」
「「ぎゃあああああ!」」
と、キャロラインに背後からガシッと頭部を掴まれたので、2人は同時に悲鳴をあげた。
その後、キャロラインは2人が大人しくなったのを確認すると、未だ困惑している様子の水音達に向かって口を開く。
「あのね、みんなが持ってる『職能』って、レベルが上がると色んな『恩恵』が与えられるって話は知ってるわよねぇ?」
(うん、それは知ってる)
「まぁ、『色んな恩恵』って言っても、ようはレベルアップする事で身体能力が強化されたり、持っている『職能』にちなんだスキルが与えられるってだけで、『職能』そのものが進化するなんて、聞いた事がないのよぉ」
と、そう説明したキャロラインに、
(え、そうなんですか!?)
と、水音が大きく目を見開くと、
「……その通りです。私も教主になってからも、何人もの人が『職能』を与えられるところを見た事があります。しかし、その誰もがキャロライン様が言うように、レベルが上がると身体が強化されるか、新たなスキルを覚えるくらいで、『職能』自体が『ランクアップ』するなどというものは聞いた事がないのです」
と、暗い表情をしたジェフリーもそう説明したので、
(え? それってつまり、この世界の人間でも知らなかったって事? 春風、大丈夫なのか?)
と、それを聞いた水音は不安に満ちた視線を春風に送った。
すると、
「さて、春風ちゃん」
と、キャロラインがいきなり春風に声をかけたので、それに春風が「は、はい!」と返事すると、
「春風ちゃんは、どうしたいのかな?」
と、キャロラインが真剣な表情でそう尋ねてきたので、それに水音が「う……」となる中、春風は自身の目の前に出てきたウインドウ画面をジッと見つめて、
「そんなの……決まってるじゃないですか」
と、ニヤリとしながら返事すると、
「勿論、2つの世界を……俺の大切なものを守る為に! 俺は、ランクアップします!」
と言って、ウインドウ画面に記された「はい」の部分に手を触れた。
それを見て、
(は、春風……一体、どうなってしまうんだ!?)
と、水音がゴクリと唾を飲んだ、次の瞬間、ブワッとその「はい」の部分……否、正確にはウインドウ画面そのものから黒いエネルギーようなものが噴き出てきて、春風の全身を包み始めたので、それを見た水音は、
(い、いけない!)
「春風ぁ!」
と、すぐに春風のもとへと駆け出そうとしたが、
(え? な、何で動けないんだ!?)
と、何か強い力が働いているのか、その場から動く事が出来ずにいた。よく見ると、それはレナや歩夢達も同様で、彼女達も水音と同じように、その場から動けずにいたので、それを見た水音が、
(ど、どうしよう、このままじゃ春風が!)
と、焦り募らせていたまさにその時、
「私が行きます!」
(え、グラシアさん!?)
と、ループスとの戦いの前に外に出されていたグラシアが、春風のもとへと飛び立った。
その後、あと少しで春風が黒いエネルギーに完全に包まれるところで、
「春風様!」
と、グラシアも一緒に黒いエネルギーに包まれてしまった。
そして全てが終わった後で残されたのは、
「は、春風! グラシアさん!」
漸く動けるようになった水音達と、春風とグラシアを包み込んで、まるで大きな卵のような形になった、黒いエネルギーだけだった。




