第154話 対決前夜・4
「私は……優に戦ってほしくないと思ってる」
と、真剣な表情で優に向かってそう言ったエヴァン。
その言葉を聞いて、「ええ!?」と大きく目を見開いた水音達を他所に、
「な、何を言ってるの?」
と、優は頭上に「?」を浮かべながら、エヴァンに向かってそう尋ねた。
そんな優を前に、
「言葉の通りだ。明日の戦い、優は出ないでほしいと言ってる」
と、エヴァンは真剣な表情を崩さずにそう答えた。
優は自分が何を言われてるのか理解出来ず、エヴァンの言葉にポカンとしていたが、すぐにハッとなって首をブンブンと横に振ると、
「待ってよ、何でそんな事言うの!?」
と、エヴァンをキッと睨みつけながらそう尋ねた。勿論、隠れて話を聞いていた水音達も、
「「「「そうだそうだ! 何でそんな事言うんだ!」」」」
と、皆、小声でそう叫んだ。
しかし、それでもエヴァンは表情を変える事なく、
「それは、優には『戦う理由』がないからだ」
と、真っ直ぐ優を見つめながらそう答えたので、それを聞いて、優だけでなく水音達までもが「え?」となった。
それから少しして、
「戦う……理由?」
と、優がそう呟くと、
「り……理由なら、あるよ。だって私……」
と、自身の答えを言おうとしたが、それを遮るかのように、
「『勇者だから』か?」
と、今度はエヴァンがそう尋ねてきたので、
「そ、そうだよ、私、『勇者』なんだから……」
と、優はそう答えようとしたが、
「それは、周りが押し付けた『理由』であって、優自身の『理由』じゃないだろ」
と、エヴァンにそう遮られてしまい、優は「う!」と唸ったが、
「そ、それだけじゃないよ。先生やクラスのみんな、何より雪村君も戦うんだもん、なのに私だけ戦わないなんて……」
と、どうにかして言葉を絞り出した。
すると、エヴァンは少しだけ顔を顰めて、
「『雪村君も』、か」
と呟くと、
「申し訳ないけど……優、君も、君の仲間達も、彼……春風とは違う」
と、再び真っ直ぐ優を見てそう言ったので、
「……何が違うの?」
と、優は再びキッとエヴァンを睨みながらそう尋ねた。
その質問に対して、エヴァンは優を見つめたまま答える。
「多少ではあるが、春風がどういう人間かは理解している。彼には明確な『戦う理由』があったんだ。『故郷を守る為』と、『この世界で出来た大切なものを守る為』、だ。だけど優、君と君の仲間達にはそれがない」
「そ、そんな事は……!」
「ある! 明日のループス様との戦いだが、恐らくループス様の1番の目的は、その『理由』の他に、戦いにかける『想い』と、『覚悟』を見定める為だろう。近い将来、春風だけでなく、君も仲間達も、『真の敵』と対峙する事になる。『理由』がある春風は多少は大丈夫かもしれないが、逆に『理由』がない優達は、これが致命的な弱点になってしまうんだ」
そう説明するエヴァンに対して、優は顔を真っ青にしたが、
「……だから、私に戦ってほしくないの?」
と、それでも何か言わなくてはと考え、再び言葉を絞り出した。
その言葉を聞いて、
「ああ、そうだ……」
と、エヴァンは表情を歪ませながらそう答えようとしたが、すぐに首を横に振ると、
「いや、これは『建前』だな」
と言って、
「本音を言うと、先ほども言ったように、私は優に戦ってほしくないんだ」
と、また真っ直ぐ優を見てそう答えた。
その答えに優が「どうして?」と尋ねると、エヴァンは少し悲しそうな表情を浮かべて、
「明日の戦いは、きっと普通の戦いじゃない。恐らくだが、我々が今崇める『神々』も何か仕掛けてくるに違いないだろう。その為に、もしも優の身に何かが起きてしまったらと考えると、私はとても耐えられないんだ」
と、下を向いた状態でそう答えた。
その言葉を聞いて、優が「エヴァン……さん……」と、声をかけると、
「優!」
と、エヴァンはすぐに顔を上げてそう言い、「うわ!」と驚く優を無視して、彼女の両肩をガシッと掴んで、
「私は、優を失いたくない! 私は……俺は優が……!」
と、叫ぶようにそう言おうとしたが、
「やめて!」
と、優がそう叫んだので、それを聞いたエヴァンは「うっ!」と唸って彼女の肩から手を離した。
そして、エヴァンが改めて優の表情をみると、
「お……お願い……そこから先は……言わないで」
と、優は全身をブルブルと震わせながら、これまた震えた声でそう言ったので、ハッとなったエヴァンは、
「す、すまない。思わず焦ってしまった」
と、本当に申し訳なさそうな表情で、優に向かって謝罪した。
その謝罪を聞いて、
「う、うんうん、気にしないで。私の方こそ、ごめんなさい」
と、優も申し訳なさそうな表情で、エヴァンに向かってそう謝罪した。
それから少しの間、エヴァンと優はお互い見つめあった後、
「……部屋まで、送ろう」
「……うん、ありがとう」
と、そう言い合うと、ゆっくりとその場から歩き出して、中庭を出て行った。
そんな2人の背中を、
「「「「……」」」」
水音達はただ、黙って見てるしか出来なかった。




