怖いお兄さん達のいる事務所
11/1 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
受付カウンターでプレイ終了の報告をする。受付嬢からすでにお客様から評価が入っている事を告げられた。
俺にしては珍しく演技表現力・物語対応力の評価が共に1である事が気になったらしい。明らかにうさぎちゃんの嫌がらせである。
俺も後で最低評価を入れておこう。うさぎちゃんはAランクだからあまり意味はないかも知れないが。
オフィスに戻ると誰もいなかった。
紗雪はまだ大学で授業を受けているにしても、瑠璃と牡丹がいないのは何であろうか。
あ、そう言えば姫子もいないな。ひめに関しては受付フロアにもいなかったし、もしかしたら2人が1フロア上にある家の中を案内しているのかも知れない。
今からどこへ出掛けるのか、変に説明する必要なく外に出られるので良しとしよう。外出すると言うと必ずどちらかがついて来るって言うからな。
エレベーターで1階へと降り、従業員用の出入り口を出るとすでにうさぎちゃんが待っていた。
黒い革のジャケットに白いミニスカート、さすがにバニースーツから着替えたようだ。
「オーナー達と会わなかったでしょ? 依頼主が手を回して店から離れなければならない状況を用意したの。勘付かれても困るものね」
わざわざご説明ありがとう。路駐されたワゴン車へ乗るよう促される。
「行き先はすぐに分かるわ、気にせず座ってて頂戴」
離れた場所で待っていたのか、俺が車に乗り込んだ後に2人ガラの悪い人達が乗り込み、俺の両脇を掴んで来る。逃げられないようにという事か。
スーツのポケットに入れていたスマホを没収され、電源もオフにされる。手慣れている感が実に怖い。これは誘拐って言ってもいいんじゃないだろうか。
運転席にも怖いお兄さんが乗り込み、うさぎちゃんが助手席に乗り込んだ後に車を出す。
色仕掛け・金・脅しという方法で引き抜き交渉をすると言っていたが、金を通り越して先に脅しを持って来るとは。
さっきのやり取りで本気でうさぎちゃんを怒らせたみたいだな。プライドがズダズダになったんだろう。可哀そうに。
いや、人の事言ってる場合じゃないな、どうやら油断し過ぎたようだ。
「さぁさ降りて降りて」
連れて来られた場所は、お断り屋の店舗があるとは思えない雑居ビル。消費者金融や何とか企画という看板がある小汚い雰囲気の建物だ。
階段を前後挟まれた状態で上がって行く。先頭を歩く運転をしていた男の後ろを、うさぎちゃんが機嫌良さげに鼻歌混じりで付いて行く。先ほどのストレスを発散しようと思っているな?
俺は今からどんな目に合うのだろうか。かなり不安になって来た。
「着いたみたいよ、さぁさぁ入った」
ドアには大友企画という無愛想なプレートが貼ってある。何か映画で見たような気がするな。
中に入ると予想通り強面のおじさんやお兄さん達がこちらを見て来る。
「おい、誰だお前ら。ここがどこか分かってんのか?」
「すんません兄貴、ちょっと奥の部屋使わせてやって下さい」
俺の右腕を掴んでいる男がソファーでタバコを吸っている人にペコペコしだす。
この人がうさぎちゃんに脅されて協力させているらしい事が分かった。前もって上の人間に話付けとけよ。
「すみませ~ん、ちょっと準備するんでここでこの子待たせてあげてくださ~い」
うさぎちゃんが先に奥の部屋へと入って行く。俺だけここで待たせられるのか。
味方じゃないにせよ知り合いがいなくなると怖いね、こんな所だと。両腕をしっかりと掴まれた状態で、立ったまま待機しなければならないみたいだ。
「お前何したの? あの女も見た事ねぇが、ここに連れて来られるって分かってたのか?」
座ったまま、こちらを見てそう問い掛けるソファーのお兄さん。テーブルに足を投げ出して、口は笑っているが目が笑っていない表情。怖ぇ~よ……。
「いえ、え~っと……、ちょっと引き抜きを断ったら無理やりここに連れて来られまして。僕も何が何だか分からないんです。
あっ! この人もあのお姉さんに脅されてるみたいですよ!!」
何とか状況を変えようと試みるも、右側の男に胸倉を掴まれ今にも殴られそうなさらに悪い状況へ変わってしまった。
「てめぇ!? 何言ってやがるこのクソが! 痛い目見てぇのか!!」
「止めろ」
ソファーに座っている一番偉いっぽい人の一言で助けられる。胸倉から手が離されるが、だからと言ってこのまま逃げるのは難しそうだ。
「あんちゃん、引き抜きってぇとあんちゃんはホストか何かかい?」
「あ~、ホストではなくお断り屋ってとこで働いてます」
プレイヤーです、って言っても伝わらないだろうな。
ちゃんと事情を聴こうとしてくれている事がすごく意外に感じられた。
でもこちらを見る目が冷たく、1つ間違えばどんな目に合うか分からない状況。わずかに膝が震えるのを止められない。
「お断り屋か、最近景気いいみたいだなぁ。あんなねぇちゃんに誘われたら断れねぇだろ」
「いえ、お断りするのが僕の仕事でして、いつも通りお断りしたら何故かこんな状況になってしまいまして……、僕どうなるんでしょうか?」
「さぁどうだろうな……、おめぇ脅されてんのか? あの女に」
ジロリと俺の右側の男を睨む怖いおじさん。
男は親分違うんですとか何とか喚いている。その取り乱し方だとバレバレだと思うけど。
「女に舐められるとはなぁ、姐さんの言い付け破ったのを見られたとかだろ」
姐さんの言い付けって何だろうか、ってか姐さん? 俺が知っている姐さんと同じ人だったら、このピンチ切り抜けられるんじゃないか!?
藁にも縋る思いで親分と呼ばれた人に話してみよう。
「すみません、間違ってたら申し訳ないんですが、姐さんって道子さんっていう方じゃないですか?」
「……、何であんちゃんが知ってんだ? 知り合いか?」
「僕のお客様です」
ドカッ! 殴られたのに気付いたのは、衝撃で吹っ飛ばされて壁に頭を打ち付けた後だった。
「いい加減な事言ってんじゃねぇぞゴラァ! お前みたいなんが姐さんのお相手出来るわけねぇだろうがぁ!!」
床に投げ出された俺の腹に向けてさらに蹴りを入れて来る。ボケが、お前覚えとけよ……。
「おい、そいつ止めろ」
親分待って下さい! 違うんです! など叫びつつも、3人掛かりで押さえ付けられる男。
くそ、滅茶苦茶痛い。少しは加減しろよ、絶対許さねぇ。
「確かにうちの会派の姐さんは道子って名前だ。けどあんちゃんが本当に知り合いだっていう証拠はあるか?
もし嘘だったら洒落にならねぇぞ」
証拠ならあるさ、姐さんから直接貰ったこの金属で出来た名刺が。
何とか身体を起こし、スーツの内ポケットから財布を取り出した。
道子さんから貰った名刺を親分と呼ばれたおじさんに手渡す。その名刺を確認してすぐに親分が道子さんへと電話を掛けた。
「はい、はい、申し訳ない。これから出向きますので、いえ、ええ、分かりました、こちらで待機します。はい、確保します。ご足労をお掛けして申し訳ない」
親分が電話を切り、取り押さえられた男に向き直るや、置いてあった灰皿で頭を殴った。ピッと血しぶきが飛び散る。
「素人に手ぇ出すなって言われてんだろがよぉ!!」
男がガクっと崩れ落ちた。
うさぎちゃんから脅されたとはいえ、姐さんを怒らせる方がよっぽどマズいのだろう。殴られた衝撃で意識が朦朧としているようだ。
「お待たせぇ~、さぁ優希君入って入って~」
先ほどのバニースーツに身を包んだうさぎちゃんが奥の部屋から顔を出して手招きしている。
親分の指示でうさぎちゃんが取り押さえられ、ソファーへ無理やり座らせられる。
「おい、うちの若いのにどうやって言う事聞かせたのか知らねぇがな、ねぇちゃんちょっと調子に乗り過ぎたな。ここで座って待っとけ」
空気を読めないにもほどがある。うさぎちゃんは何でここを選んだんだろうか。男と怖い人達の事を舐めきっているとしか思えない。
それほど今まで男にちやほやされて来たのか、もしくは多少痛い目を見ても問題ないと思っているのか。
残念ながら俺はこの状況で助けてあげられるほどのヒーロー体質を持ち合わせていない。
この場に相応しくないバニーガールが男達の視線を一身に受けている。一応俺のお客様である事に変わりはないんだが……、どうしたものか。
「何? 私はちょっとお部屋貸してほしいだけなんだけど」
バシンっ! と頬をビンタされるうさぎちゃん。
「部屋が必要ならラブホでも行くんだったな」
叩かれても動じず、男を睨み付けたまま目を離さない。
その目つきたまんねぇなぁと、男がバニースーツの胸元に手を掛けた時、事務所の扉が開きぞろぞろと黒服姿の男達が入って来た。
事務所内にいた者達が立ち上がり、一斉に頭を下げる。
「「「「「お疲れ様です、姐さん」」」」」
男達の後ろから、道子さんが顔を出した。
いつもありがとうございます。
次話は明日22時頃に投稿予定です。
「ヒーローに憧れる俺は正統派ヒーローに敗れて仲間になる悪役ヒーローになりたい。」も合わせまして、よろしくお願い致します。
10/4 誤字修正 スーツの内ポケットから財布から取り出した。 → スーツの内ポケットから財布を取り出した。
表現が変になっているのを訂正しました。
10/6 頂いたコメントを参考に、優希が車に乗り込む箇所の描写を修正しました。ありがとうございました。
誤字修正致しました。




