デビューシングル完成
「どうや? 自分で書いた歌詞、自分で歌った曲を聴いてみての感想は」
え、っと、何とも言えませんよ……? 言葉にならないってこういう事を言うんですかね……?
「まぁその反応も分からんでもないけどな? アーティストとしては、今のその感情を言葉にして、形にして、また曲に出来るようになってほしいもんやな」
アーティストて。僕はあくまでお断り屋のプレイヤーで、歌手なんてのはたまたま担ぎ上げられただけの事ですもん。
「……、こんなん言うてますけど、どないですか社長」
「まぁいいじゃないの。彼のアーティスト人生は始まったばっかりなんだからね」
殺魔さんに呼び出され、完成した俺のデビューシングルの音源を聴かせてもらった。呼ばれたその場には当然のように高畑社長もいて、ニヤニヤしながら俺と殺魔さんのやり取りを見ていて、嫌な雰囲気を感じていた。
が、その音源を聴かせてもらったらもう何かどうでも良くなって来て、達成感というかやってやった感というか、カタルシスと言うのだろう感情に飲み込まれ、呆然として反応出来なくなってしまった。
「私からすればとても良い反応に見えるけどね」
「ん~、まぁ悪くはないけどね? これからや言うことやな」
そうそう、このデビューシングルをお断りリアル迷宮の中のミニライブで使わせてほしいって話をしないと。ちょうど高畑社長もおられるし、話が早く済みそうだ。
「殺魔さん、高畑社長、折り入ってお願いがありまして……」
俺が態度を改めたのを見て、お2人も聞く体勢を整えて下さる。真剣な表情で、俺が何を言い出すのかとじっと顔を見ておられる。
「実は、私の本業のお断り屋業界で、大きなイベントを催す計画があるんですが……」
高畑社長はもちろん知っているとはいえ、殺魔さんには一から説明しなければならない。お断り屋とは何ぞや、プレイヤーとは何ぞや、アクトレストは何ぞや。
俺が普段どんな仕事をしているのかを詳しく説明し、その上で一大イベントを企画している事、そのイベントを高畑社長にマネージメントしてもらっている事まで丁寧に話した。
そして、そのイベントの中で俺がミニライブをしたいと考えていた事を打ち明ける。元々乗り気ではなかった、というか自分に出来るとは思っていなかった音楽の仕事。どうせやるならばと自分の仕事にも関わりがあり、一石二鳥になれば必然的にやる気も使命感も上がるだろうと考えて作詞を行った事。
隠し事一切なしのぶっちゃけトークで想いを伝えた。
殺魔さんは腕組みして無表情、高畑社長はいつものヘラヘラした表情とは打って変わって真剣な表情で聞いて下さり、俺が話し終えるまでずっと黙っていてくれた。
「ですので、この歌をリアルダンジョン内で使わせて頂きたいんです、お願いします!!」
全ての想いを伝え終え、俺はお2人に深々と頭を下げた。後はお2人がどう言われるか。気持ちだけではなく、この場合は権利関係や発表されるべきタイミングなどが関わって来る。
俺の熱意が伝わったとて、ビジネスとしての好機がなければ見送られるだろう。それでも、この想いを伝えないと全ては始まらない。
「話は分かりました。して、殺魔君としては如何かな?」
腕組みしたままの殺魔さんに、高畑社長が問い掛ける。うん、よくよく考えると芸能事務所社長としての高畑社長には曲を使っていいとかダメとか言う権限はないよね。聞くなら殺魔さんだけで良かったかも知れん。
いやいや、リアルダンジョンのマネージメント責任者としてはミニライブをやるというプランを聞いてもらう必要はあったか。
「う~ん、あのなぁ紗丹」
「はいっ!!」
殺魔さんが口を開いた。さて、何を言われるか。権利関係の事なのか、発表時期に対してのシビアな話なのか、それともイベントで使う際の楽曲使用料についてなのか……。
「ミニライブって言うたよな?」
「はい、ミニライブです」
「お前さ、ミニライブやのに1曲だけで終わらせるつもりか?」
ん……?
「ええ、ミニライブなので、1曲だけ新曲の発表という形でどうかなと」
はぁ……、と大きなため息を1つ。そして再び殺魔さんが口を開く。
「確かにミニライブ言うて、1曲だけで終わったとしてもライブである事に代わりはない。
でもな、その場に集まってくるアクトレスとやらはお前の歌を目当てに来てくれんにゃろが。1曲だけではいおしまい、あんたらのイベントもこれでおしまい、で満足して帰ってもらえると思うけ?」
……、ダメだろうか。俺のミニライブ会場に集まって下さるアクトレスはみな、俺のファンだと考えていいと思う。俺のファンなんだから、俺の歌を聴ければそれで満足してくれるんじゃないか?
「だいたいな、お前はライブ観に言って、アンコールぅ! 言うて叫ばへんのけ?」
アンコール……、確かに! ライブが1曲で終わる訳ない。最低でもアンコールの1曲がプラスされるもんだろう。
「それにな、1曲だけで満足してくれるやろうって考えるんは、ちょっと思い上がり過ぎなんちゃうか?
ライブなんやから、流れがあるやろ。1曲目で盛り上げて、2曲目でさらに雰囲気を繋げて、3曲目で爆発させて、って盛り上げて行くもんや。
ライブなんて歌ったらそれでええんやろって思ってんちゃうやろなボケぇ!!!」
「ひぃっ!!? いえ違うんです! 元々メインはリアルダンジョンでモンスターに扮したプレイヤーの誘いをアクトレスサイドからお断りしてもらうというイベントでして、ですのでミニライブはメインではなくサブイベントと言うか……」
「アホかお前!! メインステージであろうがサブステージであろうが全力で殺るんがプロやろが!!!」
いえ僕は歌のプロじゃないです。違うんです。
「紗丹君、デビューシングルを発表する以上、君は立派にプロなんだよ」
止めろ、そのニヒルな微笑みを止めろ!! これ以上俺に何をしろと言うつもりだ高畑社長!!?
しまった、自分が書いて歌った曲が完成したせいでテンションがマックスになってた。流されるな、むしろミニライブの案を取り下げよう。他にも魔王としての演出なんて考えれば出て来るはずだ!!
「それにこのシングルは君の主演映画とのタイアップが決まってるからね。もっと大きなサプライズにしないとインパクトが足りないね」
いやいや初耳やから。映画の主題歌が俺の歌? はぁ~~~!!?
「ミニライブという事は殺魔君、何曲必要かな?」
「せやな、アンコール入れてあと2曲は最低でも欲しいところやな」
しもた、手遅れや。この2人にミニライブの事を言うた以上この展開からは逃げられへんかったはずや。何を考えてんにゃ俺は。詰めが、いや考えが甘かったか……。
「おし、紗丹。あと2曲、いや3曲作ろ。曲はすぐに書き上げたるさかいにお前はまた歌詞付けろ。んで出来た曲から順次レコーディングや、分かったな?」
いやえっと、その、何て言うかですね……。
「返事わい!!!?」
「はい分かりました!!!」
くっそ、ニヤニヤすんな社長!!
「と言う事で紗丹君、デビューシングルのMVの撮影と3曲分の作詞です。映画の撮影もまだ続くでしょうが平行して頑張って下さいね」
ん? んんん? MVって何ぞ。聞いてないぞ。
「MVってのはミュージックビデオって意味でして……」
「いやさすがにそれは知ってますけどね!!?」
「MVの半分以上が映画のシーンの流用の予定だからね、大丈夫だよ」
だからそのニタニタ顔止めろて言ってるやろが!!!
ネバーエンディングバッドエンドを乗り越えろ! ~諦めたらそこで世界は終了です~
公開しております。
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よろしくお願い致します。
現在8話目まで公開しております。
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