デリバリー専門店
映画の撮影の合間を縫って、スペックスへ戻ってプレイを受けたり瑠璃達とハイスペックスについての打ち合わせをしたりと、忙しい毎日を送っている。
「はいお疲れ様です。ではでは参りましょうか~」
本日の撮影が終わった後、俺の俳優業でのサブマネージャーである花蓮さんが控え室まで迎えに来てくれた。
以前宮坂三姉妹とくっ付きながら街を歩いていたのを誰かに見られたらしく、SNSに発信されたそうな。
別に今さらだろ。と思ったのだが、芸能界に片足を突っ込んだ以上は気を付けないとダメです! と注意され、花蓮さんに自宅と現場の送り迎えをしてもらう事になったのだ。
お断り屋のプレイヤーとしては別に見られてもいいが、新人俳優としてはダメだという事だ。理解出来るのでツッコミはしない。エミルの恋人として売り出すうんぬん言っていた人がいたが、気にはしない。
スタジオの地下駐車場へ連れられる。花蓮さんは免許を持っていないらしいのでいつもはタクシーなんだが、そのタクシーが待機していない。
これから呼ぶのかな? と思っていると、見慣れた車が駐車場奥からすぅ~っと出て来て、スタジオの地下玄関前で停まった。
「お疲れ様です、ご主人様」
「いつの間に知り合ったんだ……」
見慣れた車のオーナー、美代が運転席から出て来て後部座席を開ける。
「私の方から接触させて頂きました。もちろん牡丹さんの了解は得ております」
「いやぁ、最初はビックリしましたよ? 知らない番号からの着信を取ったら紗丹さんの配下だって言われたんですもん」
配下という言い方、もっと相応しいワードないのだろうか。
確かに俺の秘書という言い方をすると牡丹が拗ねそうだし、愛人と言ってしまえば聞こえが悪いし。
ビジネスパートナーと言えば聞こえは良いが、実際はもっとドロドロした付き合いだし。
会社組織としてみみを雇っている訳ではないので部下でもない。
あ、花蓮さんと一緒でいいじゃん。
俺と花蓮さんはみみの車の後部座席に乗り込み、みみが車を出す。
「みみ、次に俺とみみの関係を言う必要がある時は、俺のプレイヤー業でのサブマネージャーって名乗るようにしてくれ」
そうすれば当たり障りないような気がする。
「非常に光栄なお話なのですが、私の動き方からして正式にサブマネージャーと名乗るのはリスクが高いと思われます」
ん? みみからお断りされるとは思ってなかったな。どういう事だろう。
「実は今回花蓮さんに連絡を入れ、お時間を頂いたのと関係するのですが、以前から懸念していたDesireについてお話がありまして……」
運転しながら今日俺に会いに来た本題を話し出すみみ。
ディザイアとはお断り屋協会に所属する、デリバリープレイを主として展開しているお断り屋だ。俺はお断り屋協会の会合に出た事がないので、書類と聞いた話でしか把握していない。
以前みみに依頼して調査してもらった結果、プレイヤーとお客様のプレイ場所が自宅やホテルなどの密室である事が多く、ボディータッチやそれ以上の事が行われているという調査結果を聞いた。
なおかつ、警察関係者も風営法違反の疑いありとして注目している、という話だった。
「確か紗雪にお断り屋協会として対処が必要だと伝えたよな」
「はい。ですので紗雪さんと連携を図り、ディザイアの営業実態を調査致しました。調査結果としては紗雪さんへお渡ししておりますが、端的に報告すると完全にアウトでした」
完全にアウト。なるほど、女性が頼むデリヘルのようなサービスになっていた、と。
みみは瑠璃の了承を得て、スペックスの優待券をチラ付かせてディザイアの常連アクトレスから証言を集めたらしい。
曰く、あのプレイヤーはヤれる。
曰く、提携先のホテルを指定される。
曰く、チップを弾めば大抵の事をヤってくれる。
アクトレス資格を剥奪しない代わりに、今後一切全てのお断り屋でそのようなオーダーをしないと誓約書を書かせ、その上でスペックスの優待券を渡したそうな。
大丈夫か? スペックスの風紀が乱れないだろうな?
「そこで奥様、牡丹さん、紗雪さんが話し合われた結果、ディザイアの経営者へお断り屋協会からの追放通告を出しまして」
まぁそうなるわな。瑠璃と牡丹が思い描いたお断り屋像からはかけ離れている。
スペックス内でもそれに近しい事、裏オプションというグレーゾーンはあるものの、少なくとも風営法に引っかかるようなプレイ内容はないはずだ。
言い切る事は出来ないが、だからこそのグレーゾーン。スペックスとプレイヤーとアクトレスとの三者間での信頼関係と暗黙の了解の上で行われているのが現状だ。
「その追放通告を盾に買収交渉を行い」
またトプステの時と同じ流れか。ディザイアをスペックスへと吸収してしまい、お断り屋協会全体の健全化に努める、と。
トプステはスペックスへと吸収され、高級路線チャネルとしてハイスペックスへと生まれ変わった。トプステに所属していたプレイヤーはスペックスへ転属している。
じゃあディザイアはどうする。デリバリーというと聞こえがよろしくないので、派遣部門という名目で新規部門を立ち上げるか?
「私が非常に安価な金額で株式譲渡を受けて筆頭株主に、そして社長へと就任致しました」
え、みみが社長!? 女社長キャラが被るんだけど大丈夫?
「トプステを買収し、スペックスがお断り屋業界で単独トップの売上になっております。その上で次はディザイアか、となると業界全体への影響が大きいだろうという事で、不肖ながら私がディザイアを任せて頂く事となりました」
そりゃあ帳簿上は別会社になると思うけど、目に見えない実質支配関係としてはスペックス系列になるだろう。税務署あたりに探られれば痛い目を見るリスクは……、ないか?
誰が株式を持っているか、どれだけ持っているか、誰の金で買ったのか。そのあたりまでの深い追及はされないだろう。多分。
確かトプステの一件がなかったとしても、お断り屋業界全体から見たスペックスの売上は50%以上を占めていたはず。資本関係のない相手の意向に左右される会社なんて五万とあるし、問題ないような気もするが。
まぁあの3人が話し合った上ならば大丈夫か。機会があれば賢一に確認してみよう。
「で、結局紗丹さんと美代さんの関係は何と表現するのが適切なんですか?」
「う~ん……」
結局は魔王の配下ってのが適切なような気がする。四天王の1人? え、あと3人集めないとダメじゃん。千里さんがいるからあと2人?
「妾でも下僕でも奴隷でもお好きなようにお呼び下さい」
いやダメだから。
「みみがディザイアのオーナーになる。ディザイアっていう店名は残る。アクトレスと肉体関係を持ったプレイヤーは全員契約解除してプレイヤー登録抹消、までは把握した。
で、どういう方針で営業して行くかまでは決まってんの?」
「密室や1対1の場でのプレイは受けない。料金を高めに設定してより高品質のサービスを受けられるようにする。これらは基本的な経営方針です。
営業内容としては、以前ご主人様が提言されたと聞きまして……」
みみが話した営業内容、ディザイアの営業スタイルは、確かに俺が前に誰かと話していた内容だった。
喫茶店でわざとプレイヤーに振られるところをアクトレスの意中の相手へと見せる。あわよくばアクトレスがフリーになった、もしくは思い人(に見せかけたプレイヤーだが)に振られた場面を見せる事で、相手の気を引く作戦。
でもそれってそんなにしょっちゅうあるシチュエーションだろうか。
「そのシチュエーションに限定する訳ではないです。例えば複数のアクトレスがおられる自宅のような場所でプレイを楽しんだり、捨てられプレイの末、高級レストランに1人残されるという羞恥プレイを楽しんだり」
ん? そんなハードなプレイを望まれるアクトレス、いるの?
「紗丹さんがスカウトされたきっかけである彼氏の友達に告白するプレイにチャレンジするとか」
詳しいな、花蓮さん。
「当然調べましたから」
そうですか。
などと打ち合わせのような報告のような、そんな事を話している間に次の現場へ到着した。
さて、今日は12.5歩の皆さんを前にしてのレコーディングだ。
気合いを入れよう。ついに俺は、デビューシングルの収録に臨む。




