キングサイズのベッド
今年も1年ありがとうございました。
年内最後の投稿です。
風邪をひいたら入院させられた。俺は今、だだっ広い個室、いや特別室のベッドで横になっている。
外界から隔離されたようなこの部屋に響くのは、シャリシャリとリンゴを剥いている音だけ。
「はい、出来たよ」
夏希の手によって何と、リンゴがうさぎさんに!?
「あぁ、ありがとう」
起き上がって皿を受け取る。夏希がベッドのリモコンを操作してもたれられるようにしてくれる。
「何だかなぁ……」
「ん?」
「いや、ただの風邪でさ、こんな部屋に入れられてさ? 絶対安静ってなぁ~」
あれだけ働かせておいて、倒れれば絶対安静って。しかも本当にただの風邪。
「……、本当にただの風邪だよな?」
あはっ! と笑い出す夏希。いやいや、否定をしろ否定を。
「まぁ、優希に無理させ過ぎたって思ってるから余計にじゃない?
もしくは、これからも頑張ってもらわないと困るから、とか」
ん~、どっちもかな。
それは別にいい、俺も納得している事だし、元から分かり切っている事だから。
それよりも倒れる前に何とかしてくれよって話。
今は夏希だけだが、それぞれみんな時間がある時にお見舞いに来てくれる。昨日なんか紗雪が泊まり込みで看病してくれた。しかもいつものメイド服を着て。
いくらこの病院が宮坂グループ系列だって言ってもやり過ぎだ。
病院内で秘密の看病ごっことか言ってナース服にコスプレチェンジするのは止めたけど。
「でもぼーっとする時間もなかったんでしょう? ちょうどいいじゃない。
はい、あ~ん」
「あ~ん」
このうさぎさん美味しいな……。
そんなバカな事を考えていないと、夏希と2人きりの状況に耐えられそうもない。
何とこの人気女優、前述した紗雪が持ち込んだナース服を着て俺の付き添いをしている。俺に止められないようにわざわざ女子トイレで着替えて帰って来やがった。
しかもそれ専用の為、座っているだけでミニスカートの奥がちらっちらするのだ。
ちなみに色は純白。まさに白衣の天使である。まぁナース服の色はまっピンクなんだけど。
「あ~ん」
「あ~ん」
俺はただの風邪、それも熱も下がり病状は落ち着いているので、そわそわとする気持ちを抑えている。
それにも関わらず、ボタンが外された胸元が視界に入るようにあ~んをして来るもんだから、どうしても意識をしてしまうのだ。
「あっ、うさぎさん落っことしちゃった。ごめん優希、取ってくれない?」
女優とは思えないほどの棒読みで、胸の谷間にリンゴを落とす夏希。取ってくれない? って言ってもさ、自分で取れるよな?
いやいやいや、谷間を俺の口元に寄せるな! 何か、口で取れって言ってんのか!?
「ほぉ~らぁ~、あ~んは?」
「あ、あ~ん」 パシャ!
シャリッ、何とか口だけでうさぎさんを救出する事に成功した。まぁ咀嚼するんで確実に死んでしまうんですけどね……。
俺が夏希の胸の谷間にいたウサギさんを救出する写メを撮られた。あぁ、だから手が塞がって自分では取れなかったのか~(棒)
「送信っと。
あはっ、紗雪と姫子、悔しがるだろうなぁ」
悪い女や、悪い女がおるでぇ……。
「牡丹さんから優希が入院したって連絡あった時はどうしようかとパニックになりかけたけど、よくよく聞いたらただの風邪で、休養も兼ねての入院だって聞いてほっとしたんだから。
だからちょっとくらいイチャイチャしてもいいでしょう?」
こんなキャラやったっけ、夏希って。何か頭がぼーっとして来て考えられなくなって来た。
「ほらほら、食べたら寝る! はい、ベッド倒しますよ~」
ウイ~ンとベッドをフラットに戻され、仰向けになる。ただの風邪とはいえ、無理は禁物って事か。
夏希の行動にドギマギさせられているとはいえ、下半身の反応は思わしくない。やはり疲れが溜まり、体力が落ちていたのかも知れない。
「おっ、さーちゃんが自分が用意した衣装なのにぃぃぃ、ってめちゃくちゃ悔しがってるっ♪」
楽しそうだなぁ~。
「なぁ夏希、芸能界に仲の良い友達は出来たのか?」
「えっ? あー、それは難しいよ。現場でしか接点がないし、役柄に入り込んでたら仲良くするどころかピリピリする人もいるし。
まぁいない訳ではないけど、お互い忙しいから電話でちょっと喋るとかその程度かな?」
それにプライベートも大事にしたいし、と夏希はほほ笑む。
夏希は俺以上に忙しい身でありながら、こうして俺のお見舞いに来てくれた。貴重なオフの日を潰してしまって申し訳ないなと思いつつ、その気持ちがとっても嬉しい。
こいつと幼馴染で、恋人になれて良かったなぁと実感する。
「瑠璃さんはさ、すごいよね? 瑠璃さんと牡丹さんとさーちゃんでさ、優希を囲い込む事も出来るのに、その輪に私とひーちゃんまで入れてくれてさ。
その上で、みんなが出来るだけ平等に優希との時間が取れるように調整してくれて。あと美代さんもか。
ここまでされたら勝てないよねぇー」
負けるつもりはないけど。言葉にはしなかったが、そんな事を思っていそうな夏希の表情。
瑠璃は誰かに勝とうとかは思っていないだろう。みんなで楽しくハーレムを、そう思っているだけ
。逆にみんなを巻き込んでいる形だから、何も負い目を感じる必要もない。
はぁ……、ちょっと眠たくなって来た。
「夏希、ちょっと寝るわ」
「うん、お休み」
こうやって気ままに眠るのも久しぶりかなぁ……、と意識が落ちる前に、特別室の扉にノックがされた。
「はい、どうぞ」
いや夏希、どうぞじゃないだろうに。お前その格好をリアル看護師さんに見せるつもりか!?
「失礼します。桐生さん、お加減はいかがですかな?」
扉を開けて入って来たのは、白衣に身を包んだひめだった。
ひめ、お前もか……。ご丁寧に首から聴診器をぶら下げている。意識して出した低い声が可愛い。
「先生、ちょうど桐生さんは寝ようとされていたところでしたので、今はちょっと」
「そうか、では私が添い寝をしてあげよう」
「いやいや先生、それでしたら私が」
ちょっとゆっくり寝れそうにないな……。
「失礼致します。旦那様、添い寝でしたら私が」
うわぁ、紗雪まで来たよ? もうゆっくり寝るとかそんなん無理やん。
結局4人でお昼寝しました。特別室のベッド、めっちゃ大きいですね。
たまにはほのぼのとしたお話をと思い、こんな感じに仕上がりました。
来年もどうぞ、よろしくお願い致します。
良いお年を!




