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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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塾の生徒と講師シチュ:リクエスト

1周年記念SS、リクエストシチュエーション回その4です。

プレイに入り込んだアクトレスの視点でお送り致します。

 とうとうこの日が来てしまった。明日、私は志望大学の入学試験を受験する。滑り止めの大学の受験はすでに終わっており、満足の行く手応えを感じていた。


 でも、私は大学へと進学する事に少し、いやかなり躊躇してしまっている。


 高校生という社会的に守られている立場が終わってしまうから。

 仲の良い友達とバラバラになってしまうから。

 様々な分野の講義を取らなければいけないから。

 

 そんな事が理由ではない。理由はたった一つ……。



吉野(よしの)、今日くらい家に帰ってゆっくりしてろ。明日全力を出す為には今休む事も必要だぞ?」


「先生、もうちょっとここにいたいんです」



 好きな人と、今までのように会えなくなってしまうから。



 塾へ通い始めたのは、単に友達も通っているからという理由だったと思う。志望する大学もふんわりとしか決まっておらず、自分のレベルで無理のないところへ進めばいいかなと思っていた。

 私の兄が大学へ通っているので、「あなたも行きたい大学へ行ったらいいからね」と両親から言われていて、私も大学行くんだなぁと他人事のように考えていた。

 みんなが行くと言うから、両親が行ったらいいと言ってくれたから、それだけの理由で大学進学を希望し、そして友達が通っているという塾へ通い始めた。


「吉野さんのレベルならこことか、ここらへんかな?

 で、君自身は何を勉強したいの?」


 最初は何を言っているんだろうと不思議だった。何を勉強したいって、どういう事? 学部って? 専攻って?


 先生に詳しく説明してもらうまで、大学ってどこでも同じだと思っていた。どこの大学へ行っても同じような内容の授業を受けるんだと思っていた。 

 大学によってはもちろん、学部によっても受ける講義が違って来るという、今思えば当たり前のような事から丁寧に教えてくれる先生。

 私が知らないって言っても、馬鹿にせずに一から全てを話してくれる。


 私のどんな小さな疑問も漏らさず、根気強く説明してくれる。

 それが先生のお仕事なんだって言われればそれまでだけど、私はその当たり前という感覚に着いて行けてない事にも気付き、先生を通して自分を振り返る事で、ぽわぽわとしたおバカだった私を成長させてくれたと思う。



 私、先生が好きだ。


 そう自覚してからの私は人生でこれ以上ないってくらいに勉強をした。毎日塾に通って自習室で勉強をした。

 先生と同じ建物、同じ空間にいるんだと思うだけでやる気に満ちて来る。家ではしなかったのかというとそうでもなく、家でも勉強を続けた。

 先生が教えてくれた教科だからと数学に打ち込み、先生が大事だぞと言っていた物理、俺も苦手だからものすごく勉強したよと話してくれた生物……。要するに受験に関する勉強は何でも苦痛を感じる事なく打ち込んで来た。

 その成果なのか、志望校のレベルを上げる事になり、そして先生が通っているという有名私学を合格圏内に捉える事が出来た。

 出来たのっ!!


 私が大学に受かりさえすれば、同じキャンパスに通う事が出来る。今までと同じように、毎日でも先生に会う事が出来る!



 でも……。


 最近分かった事だけれど、先生はすでに四年生で、卒業に必要な単位を取得済み。そして、国立大学の院へと進む事が決まっているそうだ。


 同じ大学へ、一緒に通う事は出来ない……。

 その事が、先生だけがやる気の源だった私の心に冷や水を浴びせた。



「はぁ……、私は何の為に頑張ったんだろう……」


 幾度となくため息を吐き、ついには独り言まで出てしまった。明日に控えている有名私学の受験。こんな気持ちのままで試験に臨む事が出来るんだろうか。


「吉野、お前は何の為に頑張って来たんだ?」


「えっ!? 先生……」


 先生がいるのに気付いていなかった。独り言を聞かれ、ついポロッと本音が出てしまった。


 私が勉強を頑張ったのは、勉強をしていて苦にならなかったのは、先生が丁寧に大学とは何かを教えてくれたから。

 そして、先生と同じ大学に通いたい、一緒にキャンパスライフを送りたいと思ったから。

 だから、つい何の為に頑張ったのかと聞かれて、『先生』と答えてしまった……。顔から火が出そう、真っ赤っかになっていると思う。


「遅くまで残っているのは、今まで自分が何の為に頑張って来たのかを確認する為だったんだな?

 そういうメンタルトレーニングも確かに大事だけど、さすがにもう時間が遅い。俺もちょうど帰るところだから、途中まで送ろうか」


 あ、気付かれなかった……。ちょっと残念だけど、ちょっと安心。



 塾を出て、駅までの道を先生と2人で歩く。今までなかった事なので、すごく緊張する。


「緊張してるのか?」


「えっ!? は、はい……、こんな経験初めてで……」


「ん? 滑り止めはもう受けてるだろ?

 あ、本命の受験がって意味か」


 そうじゃないけど、今の私にこの恋心を先生へ伝えるほどの勇気も元気もない。頷いておこう。


「そっか、まぁ本命だからっていつも以上に緊張するのは分かるよ。

 でもな、緊張し過ぎて本来の力が出ないと困る。帰ったら勉強はとりあえず置いておいて、リラックスして過ごすように。

 大丈夫、今まで頑張って来たのを俺は見てる。吉野なら受かるよ」


「はい、分かりました!!」


 あぁ……、我ながら単純過ぎる。好きな人に認めてもらえて、嬉し過ぎて死んでしまいそうだ。

 でも、例え受かったとしても、もう先生と会えなくなってしまう事に変わりはないんだ……。


「あの、先生……。もし志望校に受からなかったらもう1年、先生と勉強したいと思います」


「え~っと、それは滑り止めの大学に行くんじゃなくて、本命を受験する為に浪人するって事か?」


 先生の目を見つめたまま、コクリと頷く。多分先生は気付かない、私が浪人する本当の目的には……。


「うん、その気持ちは大事だ。とにかく大学へ行く、ではなく行きたい大学へ行って、したい勉強をする。これが一番大事なんだ。

 だからこそ、来年の事を考えるよりもまず明日の事を考えるんだ。

 まだ明日は終わってないんだ、やる前からダメだった時の事なんて考えてちゃダメだぞ」


 うん、違うんだよ先生。違うんだ……、私が浪人しようって思うのは、先生ともう1年……


「それに、俺はもうすぐ講師のバイト辞めるからな。もう1年吉野の勉強を見る事は出来ないんだよ」


「はぁっ!?」


「うっ!? 吉野、どした……?」


 どうした~、じゃないし! 何で!? 講師辞める? 来年からはいないって事? 何でよっ!!!」


「ひぃっ!!」


 ハッ! 最後の方声に出してしまっていたらしい。先生が怯えて目で私を見てる……。


「あ、あのな? 俺はもうすぐ大学を卒業して、院に進むって前に言っただろ? 院に進むとなると研究や論文で時間が取られて、とてもバイトをしている時間なんてないんだ。

 だから、大学在学中のうちに塾の仕事を目いっぱい入れておいて、お金を貯めておきたかったんだ」


 あ、だからいつ行っても先生が塾にいたんだ。


「で、な? 俺の彼女は俺の4つ年上なんだけど、院に進んで今は留学してイギリスにいるんだ。

 元々俺が行ってた塾の講師で、そこで出会ったんだけどさ。僕はあなたと同じ大学に進むんだって言ったら、その頃には私は卒業してるわよって言われてさ。それはそれは凹んだもんだ。

 で、まぁ同じ大学に行ったわいいけど、彼女は国立の院に行ったから離れ離れな訳。

 それで、どうしても付き合いたかった俺は……」


「ちょっと待って! 何で先生と彼女の出会いの話になってるんですか!! ノロケなんて聞きたくないです!!!!!」


「ご、ごめん!! 明日受験本番なのに、こんな話聞いてる場合じゃないよな……」


 スマン、と先生が頭を下げて来る。

 でも、スマンでは済まん! さらっと私失恋したんですけど!! 無自覚にお断りされたんですけど!! 失恋なう!!!

 明日本命の大学受験するんですよね~私。何考えてるんですか先生、ってか先生鈍感過ぎる……。

 確かに私は面と向かって告白した訳じゃないけど、それとなく好意は伝わっているって思ってた。だから今日も途中まで送るよって言ってくれたんだと思ったのに……。



 もういい、分かりました。

 はぁ? 彼女は今イギリスですって? 彼氏をほったらかして? いいんですか? 日本に残されたあなたの彼氏は今、狙われてるんですけど大丈夫ですか?


 私は絶対に先生を振り向かせてみせる。同じ時期に在学している訳ではないとはいえ、大学の後輩というステータスを手に入れて先生に今よりも近付いてみせます。

 受験? はっ、余裕でパスしてみせますよ。

 せいぜい外国で研究しておけばいいじゃないですか。この鈍感な先生を、私は絶対に振り向かせてみせますから!!!



「先生、私は絶対受かってみせます。

 だから、受かったらご褒美にデートして下さい!!」



ツイッターにて頂いたリクエストは以下の通りです。


・塾のバイト先の生徒(高校生)

・受験日前日の自習室

・挑戦校への受験直前に不安になってしまったヒロイン。「もし落ちてしまったらもう1年付き合ってください」→ごめんなさい


あれ? 今リクエスト見直したらニュアンスが違うな……。

ごめんなさい、こんなん出来ました。


頂いたリクエストは出し切ってしまいました。

次の本編の投稿までにリクエストを頂くか、もしくは思い付いたシチュエーションがあればもう1話……、あるかな?


電子書籍版お断り屋もよろしくお願い致します!!!

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