電子書籍版公開記念SS第四夜:姫子
7月27日金曜日に電子書籍版お断り屋が公開される事を記念致しまして、六夜連続投稿致します。
電子書籍版の詳細情報につきましては私の活動報告からご確認願います。
第四夜は姫子です。
『うちをエキストラ扱いするてええ度胸してんなぁ姫子!!』
スマホの向こう側で叫んでいる夏希を無視しつつ、俺にべったりと抱き着いて離れないひめ。
「今日はあのコ、お仕事してんでしょ~?
ちょ~っとくらい優希の事、ううん、ゆーちゃんの事、借りてもいいわよね~?」
いつもとは違う口調、声質で話すひめにゾクッとする。ゆっくりと横向けに身体を押され、正面からひめの顔を見る形。
いつもはポワポワとした雰囲気の無表情。まるでお人形さんのように整った顔も合わせて、ドライ寄りのクール、といった印象だが、実はとても天然キャラ。
そんなひめの顔が妖しく、そして薄く笑みを浮かべている。小悪魔というような可愛げはなく、何の躊躇いもなく人の男を寝取ろうとする魔性の女独特の冷たい美しさを感じさせる。
スペックスは、結城エミルが所属している大手芸能プロダクション、高畑芸能事務所と提携している。
ひめは俺がスペックスにスカウトされ、プレイヤーデビューするその前から受付嬢として働いていた。
受付嬢はお客様とプレイヤーがプレイする際にエキストラを務める事もある関係で、新人女優やまだデビューしていない女優の卵が派遣されて来る。
その中の1人として、橋出姫子が受付嬢としてスペックスにいた。もっとも、ひめの目的は別にあったんだけど。
ちなみに現在は改めて本業と決めた女優業に精を出しており、ひめが受付嬢としてスペックスへ出勤する機会はほぼない。
逆に、将来を期待されている新人女優、もしくは売れているけどまだ演技経験が少ない女優に対して、ある程度経験を積んでいるプレイヤーが演技練習のお相手を勤める事がある。
これが俺の夏希が再会するキッカケの1つとなった訳だ。
『……………………』
ひめの雰囲気が変わった事が、スマホ越しの夏希にも伝わったのだろうか。通話状態のままだが、夏希からの声は聞こえない。
ってかマジでこの状態でおっぱじめるつもりか!?
「ほぉらぁ、ここにいないコの事なんて考えないで、ね? 目の前の女を見るの」
ひめの手に誘導され、俺は仰向けに寝転がる。
広いベッドに横たわる俺。そして俺の上に覆い被さるように跨るひめ。クイッと手で長い髪の毛を耳に掛け、額と額がくっ付く。
睫毛と睫毛がさわさわと触れ合い、くすぐったい。反射的に目を閉じたタイミングで、キスが落とされる。
俺の頬に両手を添え、啄むようにキスをする。少しずつ激しさを増して行くキスと共に、ひめの息も甘くなっていく。
これは女優としての演技なのか、それとも女としての豹変なのか。クラクラする頭では判断が付かない。
ひめは結城エミルこと夏希に対して、女優としての対抗心を燃やし始めた。
最初は仕方なく舞台女優として高畑芸能事務所に所属していたひめだが、俺と出会い、宮坂三姉妹と出会い、そして夏希との出会いがひめを変えて行った。
女として負けていられないという想いは当初よりあっただろう。しかし、俺達のハーレムはそれぞれが属性を持っており、そのキャラが被る事はない。
まぁあえて被せて俺を翻弄しつつ楽しむ事もあるにはあるんだけど。
嫁仲間と打ち解け、ハーレムの中で生活をするうちに、ひめは夏希に対して女優としても負けていられないと思うに至った。
キッカケは俺と2人きりのデート中。不意に夏希からの邪魔が入った。夏希本人が預かり知らぬ所で。
夏希は邪魔をしようとした訳ではない。それでも、2人きりのデートに水を差された形となった。ひめは俺の嫁としてのプライドと女優としてのプライドを同時に刺激され、それまでそこそこ程度に頑張っていた女優業に、本格的に挑もうと決意したのだ。
ゆっくりと、ゆっくりとひめの手によって俺の身体を蹂躙する。近付いては離れ、触れては通り過ぎ、もどかしいような思いをさせられつつ、俺は受け身を貫く。
「さっきから黙ってばっかりね。するよりもされる方が好きなの?
でもね、どうされたいかくらい教えてくれてもいいんじゃなぁい?」
責める、ではなく攻めるかのような目つき。どちらかの一方的な攻めよりも、お互いがお互いを攻め合う肉弾戦へと持ち込もうとしているひめの言葉。
挑発しつつ、ひめは俺の出方を窺う。
だがひめは気付いていない。俺が時間稼ぎに徹している事を。
ガチャッ!!
「主演女優参上っ! はいはい脇役さん間女さんエキストラさん噛ませ犬さん、それうちのやしどいてなぁ~。残念やったな~、時間切れやわ!
はい、おしっまい!! ここからは主演VS主演の時間やしな、ゴメンやでぇ~~」
「えっ!? 何で……」
「何でも何もないやんか、うちがこの家に着くまでの間にゆーちゃんと電話してたってだけの話やん。
今日はあのコ、お仕事行ってるんだよね? ちょっとくらいゆーちゃんの事、借りてもいいわよね?
ハイちょっとだけ貸しました、もう返して下さいぃぃぃ」
夏希がひめを引き剥がし、代わって俺の上へと跨る。ゴロンッ、と脇へ追いやられた呆然自失のひめ。あ、ハイライト消えてる……。
ひめよ、立ち上がれ! 俺のアイコンタクトに早く気付くんだっ!!
「……、え? ……、あれ?」
そうそうそれそれ。しばらくぼーっと考えていたひめが、呆けた顔からいつもの無表情、やや企み顔に変わったのを確認。俺の口内を貪るように吸い付いている夏希の背後へ回り込んだ。
「先輩。主演女優の座、貰います」
カチャッ、カチャッ。
「えっ!? 何コレ、ハァッ!!?」
「よくやったぞ、ひめ。一緒に意地悪な先輩をとっちめような」
コクリとひめが頷く。俺はクローゼットに仕舞い込んであった手錠を取って来るようひめにアイコンタクトを送り、そして見事作戦は成功した。
もちろん手錠はフワフワしたファーで手首が保護されるタイプ。万が一にも傷跡が残ろうものなら、ここまで送ってくれた石田チーフマネージャーから夏希がここに来る事を禁止されてしまうからな。
「なっ、2人して謀ったんか!?」
「違う、これは私達の愛の形。敬愛する先輩に、私達の仲を見ていてほしいの。お願いしますね?」
ひめはすっかり立ち直ったな。闇落ちしてヤンデレキャラになったらどうしようかと少し心配になったわ。
上手にベッドボードを通した上で施錠された手錠を見て、夏希がさらに声を荒げる。
「ちょっと待ってってや、これやったらホンマにエキストラやんか!
それはちょっとヒド過ぎるやろ!?」
「どっちが主演女優か分からせてあげるからね?
脇役さん間女さんエキストラさん噛ませ犬さんただの幼馴染さん。そこでゆっくりと、見てて?」
え~っと、2人とも演技やんな? 大丈夫やんな? 仲がいいからこそのじゃれ合いやんな……?
「ゆーちゃん!!」
「優希?」
はいはい、じゃあ今日はトリプル主演という事で。
第五夜は明日22時投稿予定です。
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