旧トプステの運営方法について
昼食後、何とか入浴を回避して再び応接室へと戻る。
「では続きと行こうか。トプステ買収完了後の営業方法についてだな。
いくつか案は出来たか?」
賢一さんの問いに、用意していた資料をそれぞれに配布しながら答える。
「はい、大きく分けて3通りのパターンを想定しています。
まず1つ、通常のお断り屋ではなく、アクトレスとして登録されているお客様のみが通えるトレーニングジムに作り替える案。
これは本物のジムを用意して、本物のジムとして運営します。そこへ、必ず複数のプレイヤーを配置しておくようにする。
本格的にトレーニングをしながらプレイヤーとのプレイを楽しむ事が出来ます」
「スペックス内にジムスペースがあっただろ?」
「ええ、ありますがあれはあくまでもメインはプレイ。そして今回の案はメインがジム。プレイはサブです。
プレイヤーはランダムでシフトを組み、アクトレスと同じく利用客という形でジムにいます。
仕事帰りにたまたま重なっただけ、というプレイも出来ますし、プレイヤーとプライベートを共にする、という事も可能です」
その他、ジムの利用方法や会員制度、利用料金からプレイヤーの報酬について、提出した書類を踏まえて説明を行った。
「ん~、花江はどう思う?」
宮坂三姉妹の母親、花江さんはAランクのアクトレスでもある。当然旧トプステがジムになった際には招待状を送る対象アクトレスだ。
アクトレス視点で自分が実際に通うかどうかという意見、これも大切な判断材料になる。
「そうねぇ~、ジムの場合は指名が出来る訳ではないのよね? プレイ相手になった事がない、新人のプレイヤーと一緒になったとしても、それほど嬉しいとは思わないんじゃないかしら。
それとは逆に、例えばだけれど優希君がこの日にジムに来ますよって告知したとすると、ジムとして営業出来ないレベルでアクトレスが殺到すると思うのよね。
だからちょっと使い勝手が悪いんじゃないかしら?」
なるほど、おおむね宮坂三姉妹と同じ意見だ。ただ、経営者目線で見た場合はこのプランが一番収益性が高い。その為に候補の一つに残していた。
しかし、宮坂三姉妹はあまり収益性を気にしていない。自分達のしたい事を思いっ切りしてみた結果、ものすごく収益を得る事が出来た、という結果論的な商売の進め方。
そこで俺は、まず収益性を重視したプランを立てた訳だ。まぁそれがアクトレス目線でいう所の、使い勝手の悪いサービスと判断されたんだけれども。
「との事だ。恐らく優希は収益性の高さを優先してプランを立てたのだろうと推測するが、結果客入りが悪ければ収益も何もないからな。この意見は貴重だぞ?」
「はい、理解しています」
「そうか、なら問題ない。では次のプランを聞こうか」
賢一さんに促され、次のプランに関する資料を配り、説明を始める。
先ほどとは違い、興味を持った表情でやり取りを見つめる姫子と夏希。まぁ夏希はさっきと一緒だけど。
「さっきのプランとやや似ていますが、今度はジムではなくホテルです。プレイヤーが従業員になり、宿泊客であるアクトレスをおもてなしします。
日頃の疲れを癒すサービス、お泊りでのプレイも出来ます。
さらに特別プランとして、病院に一日入院プレイというものも考えてみました。医者、看護師に扮したプレイヤーとのプレイが楽しめます。
病院スタイルは完全事前予約、完全指名制とし、その分料金は高額になりますが、より濃密な時間を過ごして頂く事でご満足して頂けるサービスになるだろうと思っています」
「ダメよっ! 絶対ダメッ!! ホテル!? 病院!? ベッドがある環境なんて、期待するに決まっているじゃないの!!?
あなた襲われたいの?」
花江さんから猛烈に反対されてしまった。いや、アクトレスは一線を越えるような行動はしないはずだけどな……。
「優希、それは私もどうかと思うよ? ベッドがあるから、じゃなくて、夜を跨ぐのはダメだと思う。病院なら形だけでも巡回するんでしょう?
多分気になってゆっくり寝れないし、余計疲れるんじゃない?」
夏希はこの案をこの場で初めて知った訳だけど、夏希も同じく反対らしい。襲われるどうのこうのではなく、あくまでアクトレスの日頃の疲れを癒すという趣旨を理解した上で、興奮して疲れるだけだ、という指摘。
それぞれ違う視点での意見を貰って、なるほどと2人の指摘をすんなりと受け入れる事が出来た。
瑠璃と牡丹はあくまで案ですよね? と念を押していたから採用されにくいだろうとは思っていたけど、そういう事ね。
ひめはもし自分がアクトレスだったら添い寝してほしいって言ってたな。紗雪はナースコール押しまくるって言ってたが、それは俺と紗雪の間柄だからだと思ってたけど。
まぁジムにしてもホテル・病院にしても、反応は今一つって事だな。次に行こう。
「では次のプランです。現在僕達はリアル迷宮の計画を進めている訳ですが、迷宮内ではプレイヤーはお断りされる側に変わります。
それについて、事前にデータを取る必要があると思ったので、この際旧トプステをお断られ屋として運営するのはどうだろうと考えてみました」
リアル迷宮にて、アクトレスへと次々にお誘いを仕掛けて来るプレイヤー扮するモンスター。そのモンスターへお断りをしながら先へと進んで行く冒険者扮するアクトレス達。
お断られダンジョンを開催するにあたり、本当に上手く行くのかどうか、事前データが一切ない。そういうプレイを経験した事のあるプレイヤーもいるかもしれないが、運営である俺達は一切情報として把握していない。
そこで、この際旧トプステをお断られ屋としてオープンし、営業をしてみるのはどうだろうかと考えた。
「データを取るだけならモニターを募集すればスペックスでも出来るだろう」
賢一さんからすかさずツッコミが入る。これも宮坂三姉妹に言われた内容と同じだ。賢一さんの隣で、花江さんが頷いておられる。
「ええ、その通りです。お断られ屋をオープンする事前準備としてスペックスでモニタリングが出来ればいいなと考えていますが、恐らくアクトレスは普段言い寄るプレイばかりなので、たまには言い寄られて振る、お断りする立場になりたいんじゃないかと思います。
あくまで独立したサービス形態にする事で、より気分が入るのではないかと思います」
賢一さんがうーんと唸りながら腕を組んだ。イメージがしにくいのかも知れない。実際にプレイして見せるのがいいかも知れない。
賢一さんご夫妻の背後に控えている芹屋さんに向けてプレイを仕掛ける。
「芹屋さん、俺……、芹屋さんとゆっくりお話したいと思ってたんです……」
バッ! と一斉に俺の顔に向けられる動揺した嫁達の表情。事前に何も伝えていないからな。でも宮坂家のメイド長なら、俺の意を汲んでくれるハズ……!
「そ、そんな……、旦那様の前でそんな事を申されても、こ、困ります……」
おお、芹屋さんがモジモジし出した。なかなか雰囲気を出すのが上手いな、さすが有能なメイド長。
「賢一さんの前だから言うんです! 賢一さんではなく、俺だけのメイドになってもらえませんか……?」
「ええっ……!? そんな……、でもっ!」
チラッ、チラッ、チラッ、と芹屋さんが宮坂三姉妹の表情を窺っている。メイド服の上から着ているエプロンを握り締めて、モジモジする芹屋さん。その目に賢一さんが映っていないのが非常に気になるんだけど……。
応接室内が昼ドラのような雰囲気が広がる中、その雰囲気を壊したのはひめの一言だった。
「優希、芹屋さんと打ち合わせ、したの……?」
「え……?」
「したの……?」
怖い。いつかの美代との浮気プレイを咎められた時のような、冷たい表情のひめ。
「してないけど……」
「お義兄ちゃん、芹屋さんはアクトレスとしてプレイした事ないんだよ?
突然フリースタイルプレイなんて仕掛けたら、本気にするに決まってるじゃない!?」
うわっ、紗雪もマジで怒ってる……。
「え、ぷれい……?」
芹屋さんがポツリと呟き、見る見る顔が真っ青になりオロオロし出す。
「だ、だんなさま、ももももお申し訳ご」
「構わん。実際に優希のプレイヤーとしての能力を見る事が出来た。なるほどな、人気があるのも頷ける」
賢一さんは芹屋さんを振り返らず、真っ直ぐに俺の目を見つめておられる。
その目が語っている。“これは貸しだぞ”と。コクコクと頷くしかない……。
「これで分かりましたか? アクトレスが本当にお断りするかどうか」
瑠璃もちょっと怖い。
「あくまでリアル迷宮の際はイベントですからね。店に通ってのプレイとなると、こうなる可能性も十分にあると想定出来ます。
今分かって良かったですね」
牡丹はまだマシだが、それでもちょっと言い方に棘があるな……。
「はい、次のプランどーぞ♪」
ひめ、今その満面の笑みを浮かべられても、恐怖しかないよ……!!
「つ、次が本命のプランになります! その名も、ハイスペックス!!!」
いつもありがとうございます。




