正妻とメイド
クリスマスイヴの狂宴の後、しばらくこの熱気が続くのかと思われたが、意外にも瑠璃から救いの手が差し伸べられた。
「今夜は私の部屋へと来て下さい」、そう言われた時はまだ身体が重いんだけどなぁと思ったものだけど、瑠璃のベッドへうつ伏せで寝るよう促されて、全身をマッサージしてくれた。
「大事な身体ですもの、これも正妻の務めです」
優しく、そして力強く身体を揉みほぐしてくれるその手の温もりを感じながら、いつの間にか寝入ってしまった。
気付くともう朝、カーテン越しの朝日を浴びて目が覚める。隣には穏やかな表情で眠る瑠璃の顔。その後、添い寝の形で瑠璃も寝たようだ。
思わず抱き締め艶やかな長い髪の毛を撫でる。高級そうなシャンプーの香りに、昨日丁寧に揉みほぐされてリフレッシュした身体に熱を感じる。
起こさないよう気を付けながら、そっと瑠璃の背中を撫でる。シルクのパジャマ越しに感じる瑠璃の柔らかさを楽しむ。バスローブに似た羽織るタイプ、パールホワイトのパジャマがキラキラと輝いて見える。
羽毛布団の下で腰紐を探す、あった。スルスルッ、と紐が解け、パジャマの内側から地肌の背中へと手を伸ばす。
「ふふっ」
優しく目を開き、瑠璃が笑いかける。
「起きてたのか?」
「ええ、アナタが起きる少し前に。起きたらどんな行動をされるのか気になったもので、寝ているフリをしました。ごめんなさい」
全く悪びれていないその顔に、おはようのキスをする。
「おはようございます、アナタ」
「うん、おはよう。昨日はありがとう、すっかり身体が軽くなったよ」
「そう? それは良かったわ。どうします? もう起きますか?」
返事代わりにもう一度キスをする。挨拶ではなく気持ちを伝える情熱的なキス。ササッとパジャマをはだけさせ、その身体を堪能する。
瑠璃の吐息を楽しみつつ、羽毛布団に潜り込み「コンコンコン」……、紗雪かな?
瑠璃に返事をするよう伝え、羽毛布団の下に隠れたまま俺は続ける。
「はい、どうぞ」
「失礼致します。奥様、おはようございます。旦那様はご一緒では……?」
「優希君はまだ寝ているわ、私ももぉう少し横になって、いるわ」
わずかに反応を漏らす瑠璃に、紗雪は気付いただろうか。
「そうですか、もしよろしければこちらへお2人分の朝食をお持ち致しますが」
「そうねぇ、そうしてくれる、かしら?」
畏まりました、と紗雪が部屋を出て行く。
「アナタ、私はとっても恥ずかしい思いをしました……」
瑠璃にはさゆのような変わった属性はないらしい。その割には俺の求めている展開に気付き、それに乗っていたような気がするけど。
「それよりも、すぐにまた紗雪が来るな。どうする? 先に食べる? 後から食べる?」
俺はどっちが先でもどっちも食べるんだけど。そんな親父臭い事を考えていると、瑠璃が困ったような表情で答えた。
「先に朝食を済ませてしまいませんか?
その、紗雪がいつ来るかと考えると、落ち着けません……」
なるほど、朝食を済ませてしまった方がゆっくりと楽しめると。少しつまらないような気もするけど、了解です。
このタイミングでまた紗雪が部屋のドアをノックする。瑠璃が手早くパジャマの乱れを直し、身体を起こしてから返事をした。
「失礼致します。旦那様、おはようございます。朝食をお2人分お持ち致しました」
「おはよう、紗雪。ありがとう、さっそく頂くよ」
紗雪が持って来た朝食はサンドウィッチだった。お、これは食べやすそうだ。俺も身体を起こして瑠璃の隣に座る。
「瑠璃、食べさせて。あ~」
びっくりしたような表情の瑠璃と、お澄まし顔の紗雪。さすが美少女メイドモード、動揺したとしても顔には出さない。
「あ、あの、アナタ? 私がお口へとお運びするのですか……?」
口を開いたままコクコクと頷く。我ながら間抜けな顔をしている事だろう。
「奥様、お手数でしょうから私が旦那様のお口へとお運び致しましょう」
「待ちなさい紗雪、これは妻の務めです。もう下がっていいわ」
声を固くして紗雪の申し出にお断りを入れる瑠璃。受け取ったトレイをベッド脇のサイドテーブルへ置き、サンドウィッチを手に取って俺の口へと運ぶ。
その様子を眺めつつ、丁寧にお辞儀をしてから紗雪が部屋から出て行った。
「はぁ……、いくら気心知れた妹とはいえ、恥ずかしいです」
「そうか? でも多分紗雪なら何かしら用事を作ってまたこの部屋に来ると思うけどな」
コンコンコン、ほら来た。
「失礼致します、食後のコーヒーをお持ち致しました」
俺と瑠璃が食べ終わったであろうタイミングを計り、用意する紗雪。メイドとしてのスキルは本物だから侮れない。ただのコスプレイヤーではなく、心技体全てでメイドを演じている。
「瑠璃、熱そうだからふーふーして」
「ちょっ!? ……、分かりました。ふー、ふー」
自分よりも先に紗雪がふーふーしそうな雰囲気に気付いた為か、慌ててふーふーする瑠璃。そしてまたそれを眺めながらお辞儀をして、紗雪が退出して行く。
さゆの嗜好とは違い、瑠璃の場合は本当に戸惑っているだろうから、そろそろおふざけも止めておこう。
瑠璃のお蔭で飲み頃になったコーヒーを楽しみつつ、今日のお客様の予約状況を頭の中で確認する。今日もなかなかハードそうだなぁ。
っと、その前に。
「さて、では続きと行きますか」
「ちょっと待って! もう誰も来ないでしょうか……?」
俺に言わせると何を今さらという感じなんだけど、まぁ朝一発目という事もあり瑠璃の気分的に落ち着かないというのなら仕方ない。
ベッドから出て部屋の鍵を掛ける。
「もうこれで邪魔は入らないだろう?」
ようやく安心したのか、瑠璃が再びベッドに横になる。
2人の朝は、ゆっくりと過ぎて行った。
アンケートなるものを取り入れてみました。
https://goo.gl/forms/pA98UlrWeQimxEUJ3
上記URLにて作者から皆様へ質問がございます。
ご協力頂ければうれしいです、よろしくお願い致します。
誤字訂正致しました。




