寝た子を起こすな
美代との一件から、外出は極力控えるようになった。プレイヤー業を終えてスペックス最上階の自宅へと帰る日々。スペックスビルから出る機会がない。
我ながら贅沢な悩みだなぁとは思う。今日も夏希を除く嫁達と食卓を囲んだ訳だし。
入浴を終え、今日は誰と一緒に寝るのだろうと考えていると、自室のドアをノックする音が。
どうぞ、と声を掛けると姫子が部屋へ入って来た。
「どうしたひめ、何かあったか?」
「眠いのに寝れないの。トントンして~」
いつも以上に甘ったるい口調。相当眠たいらしい。それなのに寝付けない、と。
ひめは俺の部屋にある大きなベッドに潜り込み、目だけを出してじぃ~っと俺を見つめてくる。
「どうした?」
「だから、トントンして?」
可愛いなぁ、はいはい。ベッドの横に椅子を持って来て、座った状態でトントンしてやる。
「違うぅ」
違うらしい。リズムか? リズムが違うのか?
トントントン、トントントン、トントントントントントントン。
「ちぃ~がぁ~うぅ~!!」
あぁゴメンゴメンゴメン! 泣かせるつもりはなかった!!
手と足をバタバタさせて全身を使って怒りを表現するひめ。どうしてほしいのか教えてくれ。
ひめがガバッと布団を捲り、自分の寝ている左側をポムポムしている。
あぁ、添い寝しろと? やけに甘えるなぁ。よいしょ、隣に寝転ぶとひめがぴったりと抱き着いて来た。
これって添い寝じゃなくて抱き枕じゃない? あと微かに漂うアルコールの臭いが気になるんだけど。
誰だひめに酒飲ませたの。
酔っぱらってるから眠たいのに寝れない状態になっているんだろうか?
言われた通りに抱き着かれながらもひめの背中をトントンしていると、部屋のドアからノックの音が。
ひめがうつらうつらしているから返事はしない。もうちょっとでひめが夢の世界へ旅立つと思うんだ、邪魔しないでくれ。
「優希、ひめちゃん知らない?」
返事もしていないのに紗雪がドアを開ける。口だけでシー! と訴えると、小首を傾げて不思議そうな顔をしながら部屋へと入って来た。。
目線で布団の中にひめがいる事を訴えると、「あぁ~」とさゆが頷いた。
よし伝わった。それで、さゆは何でひめを探していたんだろうか。
そう思ってさゆを見ると、俺の背中側からベッドに潜り込んだ。
「大学の友達から貰った旅行のお土産を一緒に食べてたんだけどさ、たまたまひめちゃんが食べたチョコの中身がお酒だったみたいなんだよね」
ウイスキーボンボンね、分かった。分かったから耳元で囁くのを止めろ!
ビクッ、とした拍子に後頭部がさゆの鼻に当たってしまった。
「痛い~! 今の絶対わざとでしょう。酷いじゃん、もぉ~」
悪い悪い、と思いつつもひめが起きそうで声が出せない。
「ひめちゃんが起きないようにしてるって訳か。じゃあ今なら優希に何してもいいんじゃないだろうか」
良い訳ないが、そんな事は関係ないとさゆが俺の身体を弄っていく。
残念でした、ひめがぴったりとくっ付いているから前には手が入らない。
「ふ~ん、ふふふっ」
何やら企んでいる様子のさゆ。顔が見えないから表情は分からないが、多分結構悪い顔をしていると思われる。
さゆの手が俺を通り越して、ひめの身体へとターゲットを変える。
んんっ、と声を上げるひめ。さゆはひめのどこに何をしているんだろうか……。
「ゆーき、えっち」
寝言!? 今のは寝言ですかひめさんや。
それとさゆ、女同士で何をしている? 俺のせいにされるからヤメタマエ。
俺の胸に顔をぐりぐりと擦り付けるひめ。ちょっと位置を変えてくれないかな? そこは少し敏感なんだけど。
「ちゅっ」
「うへぇぁ」
変な声出た! さゆが俺の耳を噛んだから変な声出たよ!!
声がうるさかったのと、さゆの手から逃れる為にとが合わさってか、ひめが俺の身体から寝返りをして離れて行った。
俺の目の前にはひめの後頭部。あぁ、ひめの温もりが逃げて行った、何かちょっと淋しい……。
「嫌われたね♪」
嬉しそうな声のさゆ。俺の身体に覆い被さり、見下ろして来る。さゆの髪の毛が頬に触れてこしょばい。
「声を出すな、あのコが起きてもいいのかな?」
ニヤニヤ顔のさゆ。いやいやいや、それって普通男のセリフでしょ?
このタイミングで再び寝返りをして、俺の顔の真横にひめの顔が移動して来た。スヤスヤと寝ている。
「ほら、この天使のような寝顔を守りたいだろう? 別にオレはこのコでも、いいんだぜぇ?」
しかしこのさゆ、ノリノリである。膝でそこを押さえ付けるの止めて下さい。
「何だ、アンタも乗り気じゃないか。今日は楽しもうぜぇ、お互いにな」
ちらりとひめを確認。すぅすぅと寝息が聞こえる。よし、大丈夫。
さぁて、攻守交代と行きましょうかね!!!
勢いよくさゆを押し退け、その上に覆い被さる。
「あ、ゴメンゴメンちょっと待って! キャッ、ダメだってほらひめちゃんがぁぁぁ、冗談! 冗談のつもりだったんだよぉ?
ホント、ホント許してゴメンゴメンダァメだぁってばぁぁぁ……」
いつもありがとうございます。




