繁忙期とお休み17
「カ〜ワイイシノチャ〜ン〜、ワケモワカラヌミチヲユク〜、ダッテ〜エェ〜シ〜ノチャンハ〜、トッテモカワイイダカラ〜」
プェッ!!!
「シノちゃん、もうちょっと静かにしようか」
「コンニチワ〜シノチャンダヨ〜」
「知ってるから」
謎の演歌風な節回しで謎の歌を唄う謎の鳥。
気分良く歌っているからか声量も大きいし、セルフ合いの手らしき鳴き声もでかい。人影が見えないとはいえ、午前中の住宅街でのしのし歩きながら歌うとか迷惑でしかないと思う。
「ア〜シノチャンツカレチャッタ〜モウ歩ケナイ〜」
「いや、まだ10メートルくらいしか歩いてないんだけど」
「ユイミーちゃんハシノチャンノ10倍ノ歩幅デショ! シノチャンニトッテ10メートルハ100メートルクライダカラ〜!」
「そうだとしても100メートル歩いただけで疲れるのはおかしいから。やっぱり食べ過ぎなんじゃ」
「シノチャンフトッテナイッ!!!」
「わかったから静かにして。だから抱えていくって言ったのに」
ちょうどいいサイズのコットン製トートバッグを見つけたのでそこに入っててもらおうとしたのに、最近運動不足だから歩くと言い出したのはシノちゃんだ。挫折が早い。
タスケテ〜と片足を上げるので、仕方なく抱き上げてウェットティッシュで足を拭き、持って来たトートバッグに入ってもらった。バッグから尻尾の先と頭だけ覗かせてプェッと鳴いたシノちゃんは、それで満足したのか大人しくなってくれた。
昨日のこともあってちょっと不安だったので、どうしても歩きながらキョロキョロしてしまう。けれど、見渡す限り知っている人の姿はなかった。
途中で駅に向かう大学生グループらしき数人と同じ道を歩くことになってヒヤヒヤしたけど、シノちゃんは黒くて曲がったクチバシでトートの端を噛みつつ黙っていてくれた。
自転車、買おうかな。
移動に時間がかからないし、買い物の荷物も載せられるし、変な鳥と一緒にいても、自転車ですれ違う一瞬なら気のせいで終わらせてくれるかもしれないし。あとで値段を調べてみよう。
駅が見える位置まできたら、春休みを謳歌するように明るく騒いでいるグループとは違う方向に進む。今日は駅前のスーパーで買えるだけ買い物してとっとと帰る予定だ。
「テピちゃんたち、いつも通りでよろしく」
「テピ」
「シノちゃん、これからスーパー行くから、喋らずなるべくじっとしててね」
「シノチャンイツモイイコダネ〜」
今まで出会った鳥の中で、いや今まで出会った全生物の中で一番フリーダムなシノちゃんなので若干心配はあったけれど、それでも返事の声が小さかったので大人しくしてくれるつもりのようだ。
シノちゃんの頭をちょっと撫で、それからテピちゃんたちもそっと撫でる。それから私は気合を入れてスーパーに入った。
お米は通販で頼んだ。砂糖と塩もポチった。もちろんマンゴーと季節の果物も。あとニンニクも。今日とりあえず買うのは、食材だ。
カートを取り、カゴを載せる。それから私は目についたものをどんどん入れていった。
葉物野菜に根菜、ナストマトキュウリタマネギにブロッコリー。今晩もサフィさんが食べに来るらしいので、ニンニクも買っておく。お肉も3種類色々買って魚介類は冷凍ミックスを買って、卵もチーズも買う。
とりあえず献立はあとで考える。明日は買い物に行かないつもりだし、しばらく買い物しなくていいくらい買い込もう。
パスタやら牛乳やらシノちゃんの視線を感じて生クリームやら、冷食も買い込んで、入店10分で山盛りのカートを作り出しレジに向かった。レジを通した商品を大きいマイバッグに入れてもらいつつ、重そうなものはリュックに入れる。
「重っ……」
「タクシー乗ロウヨォ〜」
「それは贅沢すぎるでしょ」
ずっしりくるリュックを背負いシノちゃんを潰さないようにバッグを持って、よたよたと来た道を戻り始める。駅前にあるロータリーに差し掛かると、シノちゃんが突然大声を出した。
「すみませーんタクシーお願いしまーす」
「エッ?!」
シノちゃん、今私そっくりの声を出した。
車にもたれかかって休憩していたタクシーの運転手が、はいどうぞーと愛想良く返事をして早速手ずからドアを開けてくれた。
ニコニコとドアを開けながら待たれて、スルーするわけにも行かず立ち止まる。
いやシノちゃん声真似とか鳥みたいなことして。
「ハヤクシテ〜」
「いやシノちゃんね、そんな勝手に」
「ウシロニイルダヨネ〜」
「え、」
のんびりした声に私は思わず振り向く。
こちらに向かって歩いて来ている人が「由衣美」と呼ぶやいなや、私は重たい荷物をものともせずにタクシーに乗車した。




