表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/492

繁忙期とお休み11

 買ったばかりのお茶を開封し、一気に半分ほど飲み干す。

 冷たいそれと木々の生い茂った葉っぱが作る濃い影のおかげで随分気持ちも身体も落ち着いてきた。息を大きく吸って整え、周囲を見回す。


「あれ、ここ、神社?」


 木に囲まれポッカリ空いた空間の中央に、よく見たらお社のようなものがあった。

 茶色で小さく、ボロボロだったので周囲に溶け込んでいたようだ。振り向くと、木の枝で隠れかけているけれど入り口にちゃんと鳥居もある。今いる場所が暗いせいで、日に当たっている小道がかなり眩しく見えた。


 家の近くにこんな神社があったなんて知らなかった。

 神社というか、祠だろうか。社務所もないし、そもそもお社が小さ過ぎて人間は入れない。ちゃんとした神社は他の場所にあって、何かの御神体のようなものだけがここに置かれているのかもしれない。


 私の隣で伸びをしていたスジャークさんが、のしのしと歩いてそのボロボロなお社の方へと歩いていく。そしてそのまま、ギシギシと小さい階段を上り始めた。


「あ、スジャークさん危ないですよ」


 人間でなくとも、スジャークさんが乗っただけで壊れそうなお社だ。ボロボロとはいえ崩れたら木材が当たって怪我をするかもしれない。やめさせようとお社に近付いて気付いた。


「階段、補修してある」


 屋根や格子になった扉は見るからにボロボロだけれど、そこに続く階段はどう見ても木が新しかった。綺麗に角ばっていて色も鮮やかな木目があり、触るとトゲもなく綺麗に磨かれている。お社に繋がっている部分がギシギシ音を立てているだけで、階段自体は全く軋んでいなかった。

 古いお賽銭箱も、上のお金を入れる部分の柵だけは綺麗になっている。


 こんなボロボロだけど、というかボロボロだからか、誰かが少しずつ修理しているようだ。スジャークさんが器用にクチバシで開けた格子になったボロい扉も、内側に垂らしてある紫色の布は鮮やかで綺麗だった。


「いやそこ開けちゃダメですよ!」


 ミシッとお社に上がったスジャークさんが、体を屈めてお社の中に長い首を突っ込んでいる。

 流石に罰当たりなのでは、とやんわり尾羽を引っ張ると、その体勢のままスジャークさんが高らかに鳴いた。


「ィヨキッカナーッッ!!」


 お社の中に頭を突っ込んでいるせいか、耳を塞ぎたくなるような音量ではなかったけれど、それでもスコーンとした声は周囲によく響いた。

 私はボリュームのある尾羽を抱えながら思わず背後を振り返る。今のスジャークさんの声で誰かがここを見に来てしまうのではないかと心配になった。ドキドキしながら明るい小道の様子を窺っていると、尾羽を抱えた私の腕にスポッと何かが突っ込んできた。

 視線を下ろすと、自分の尾羽と私の腕の間に顔を突っ込んでいるスジャークさんと目が合う。


「ヨキカナ」

「あ、すみません」


 尾羽を放すと、私の腕にちょっとスリスリしたスジャークさんはショルダーバッグを覗き込んで「ヨキ……」と呟いた。よいらしい。


「あれ?! テピちゃん?!」


 スジャークさんと一緒にバッグの中を覗き込むと、テピちゃんたちがなぜか丸くなっていた。一番上の個体を持ち上げてみる。


「テピちゃん? 大丈夫?」


 白くてムニムニしたテピちゃんの体が、完全な球体になっている。いつもスライム状というか、下に行くにつれてテロンと広がっているオバケ型なのに綺麗に丸くなっていて、おまけに手もつぶらな目もない。

 いつも通りの質感と色じゃなければ、ただの白いピンポン球かと思うくらいだ。


「テピちゃん、平気? 何かあった?」


 かなり走り回ったので、もしかしてバッグの中で揉まれているうちに丸くなってしまったのだろうか。

 指でつまんであちこち見回しながらよく見ていると、かすかに「テピ」と小さく返事が聞こえる。


「テピちゃん? 大丈夫?」

「テピ」

「どこか痛いの?」

「テーピ」


 耳を近づけなければよく聞こえないくらいの声だけれど、きちんと返事はしている。

 テピちゃんの様子がおかしい場合、私はどこに相談すればいいんだろう。そう悩んでいると、スジャークさんがパクッと私が持っていたテピちゃんをクチバシで咥えた。アッと声を出すと同時に、咥えられたテピちゃんがバッグの中に戻される。

 よかった、食べるとかじゃなかった。


 つんつんとクチバシでテピちゃんをバッグの中に押し込んだスジャークさんが、ヨキカナと小さく鳴いた。それから私の隣に立って、じっとお社を見上げる。そして、まるでお社に礼をするかのように、2回、頭をヒョイヒョイと下げた。

 それから私をじっと見る。


「……」


 神頼みしろということだろうか。

 無言の圧力におされて、私もなんとなく真似をしつつボロボロのお社に頭を下げる。

 まさか鳥に参拝を促されるとは、と思って気が付いた。


 まじょばちゃんが言っていた、夫婦喧嘩してたけどなんやかんやあってこの街を守ってくれた神様って、ここの神様のことなのかな。

 シノちゃんの尽力もあって、神様が変なお客さんが街をうろつかないようにしたらしい。

 神様が実在するなら、やっぱり住んでいるのは神社だろう。そしてたぶん、この神社がうちに一番近い神社なはずだ。


「…………ボロくない?」


 そして小さくない?

 ここに住んでる神様って、もしかしてすごく小さいのでは。そして貧乏なのでは。


 貧乏だから夫婦喧嘩になったのかな。

 そう考えると、人形サイズのおじいちゃんな神様が内職をしている姿が思い浮かんだ。

 その神様が老体に鞭打って大きいトカゲや黒ウサギ集団を追い払ってくれたのだと思うと、なんだかちょっと申し訳なくなる。


 ショルダーバッグに入れていた小銭入れを取り出し、百円をお賽銭として入れる。

 ちょっと考えて、もう一枚百円玉を入れておいた。夫婦らしいし。

 パンパンと手を鳴らし、それから心の中で祈る。


 変なお客様を追い払ってくれてありがとうございます。

 貧乏でも夫婦仲良く頑張ってください。


 しばらくスジャークさんとボロボロなお社を眺め、それから思い出してまた手を合わせる。


 なんか追いかけられたっぽいけど気のせいでありますように。


 目を開けると、スジャークさんが「ヨキカナ」と鳴いた。よいらしかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 神社が修繕されていて、なんだか嬉しいです。 お弁当を作った人(神様)と、お弁当を売った人、買った人(鳥)が揃った光景に、とてもわくわくしました…! お弁当はとんでもなく高いお値段だったの…
[一言] 是非、ミコト様のお力を是非。 いやーこれからの展開が楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ