アシスタント・テピテピ3
「テピ……」
「テピッ」
「テピー」
白いのが固まって、山を形成している。
ピョンピョンと跳ねていた白いのが、また1匹その山に加わった。テピテピと仲間を登っていき、てっぺんに辿り着いてプルプルと片手を伸ばす。その先にはカウンターがあった。かなり離れたところに。
「あ、届かないのか。気付かなくてごめんね」
マニュアルを置いて回り込み、白い小山の前でしゃがみ込む。両手のひらを上にしてくっつけ、床の上に置いてどうぞと言うと、テピテピ? と不思議そうに手を動かした白いものたちが周囲に集まってきた。
「乗ってください。カウンターの上に運ぶので」
そう言うと、集団はにわかにざわざわ、いやてぴてぴし始めた。何かを話し合っているような雰囲気のあとに、1匹が近付いてきた。乗りやすいように手を床にしっかりくっ付けると、ソロソロとした動きで白いものがてぴてぴ乗ってくる。じっと下を見つめながら手のひらの上を少し動き、それから私を見上げる。
「テピ?」
「そうそう、乗ってくれたらこうやって、はいどうぞ」
できるだけ揺らさないようにそっと手を持ち上げて、カウンターの上に1匹を運んでみせる。手から降りた白いものは、またキラキラした目で私を見上げていた。
床にいる残りの集団もキラキラした目で私を見上げていた。小山もキラキラしている。
「わかったかな? どうぞー」
もう1度両手で作ったゴンドラを床に付けると、今度はわっと集団が群がった。我先にと手に乗りたがるあまり、小さな手を使って手首によじ登ったり、テピテピと小さな手を使って喧嘩をしたりしている。ぎゅっと目を瞑りながら小さな手でポコポコと叩き合っている姿、見ている側がとても微笑ましかった。手、ほとんど当たってないし。
「あ、ほらほら大丈夫だよー。みんな運ぶのでー」
こんもりと両手の上で盛られた白いものを、こぼさないようにカウンターの上へと運ぶ。キラキラした目で降りた集団は、わーいと喜んでいるように両手を挙げていた。もう一度しゃがんで残っている集団を乗せる。残されそうになった1匹が慌てて小指にきゅっとしがみついたので、それが落ちないようにと気を付けて持ち上げる。
もう一度、最後の数匹を乗せて運ぶと、今度はカウンターの上でお祭り騒ぎだった。
そんなにいちいち騒いでもらえると、なんだか照れてくるな。
はしゃぎすぎたあまりカウンターから転げ落ちそうになった1匹をキャッチして戻してから、私はカウンターの向こうへと戻る。本を挟んだ位置に行くと、白いものたちも開いたマニュアルを囲むようにして覗き込み始めた。
「えっと……給与体系……は今はおいといて……サービス一覧かな、とりあえずは」
古びた紙の目次を指で辿ると、白いものたちもテピテピとそれを目で追っていた。すーっと指を動かすと目線も一緒にすーっと動くのでなんか楽しい。スイスイと指を動かすと視線もスイスイ動く。ページの端に指が来ると、近くの白いものたちが手を伸ばして触ろうとするのもかわいかった。
いや遊んでる場合じゃなかった。大きなページをいくつか掴んで持ち上げ、パラパラとめくっていく。紙は茶色っぽくて古いけど、破れたりはしなさそうだ。
「えーっと、あ、ここだ」
サービス一覧と見出しに大きく書かれているページを見付けて手を止める。そこを開くと、白いものたちも興味深そうにじっと眺めていた。
売るもの、という大きな字の下には物品の販売と書かれた項目があり、ずらずらと品物らしき単語が並んでいる。「新鮮青目玉」って何だ怖い。次の項目には食品と書かれていて、そこにも色々と料理っぽいものが並んでいた。結構種類あるけれど、全部できるだろうか。不安だ。
「この中に欲しいもの……ありますか?」
尋ねてみると、白いものたちはテピテピとお互いに話し合いらしきものを始めた。じーっと文字を眺めたり、隣のとあれこれ言い合ったり、勇気を出してマニュアルの上に登ったものもいる。
書かれているものを読みながら、白いものたちの話し合いが終わるのをしばらく待つ。一通りページに目を通したところで、マニュアルの上に乗った白いものが「テピ!」と片手を挙げた。
「はい、どれですか?」
「テピテピ、テピ」
私がちょっと屈んで視線を合わせると、白いものは短い手をピコピコと動かし、それからまた片手をぴっと挙げた。
全然わからない。かわいいけど、全然通じない。
まじょばちゃんこのブレスレットちゃんと仕事してない気がする。
「えーっと、欲しいものを指してくれますか? 食べもの?」
指差しして見せると白いものはしばらく考えてからてぴてぴと移動し始めた。左側のページから、境目をよじ登って右側のページへ。そこもてぴてぴと移動して、白いのは端へと行き着いた。右下の角で止まった白いものが、その角を指して私を見上げる。
「テピ」
「……ページをめくる?」
近くにいた他の白いものもそこを指しているので、そっとページを指で持ち上げる。すると、分厚いページの山と動いた足元によって上にいた白いものがコロコロと転がった。左右のページに挟まれるように真ん中で止まる。
「あ、ごめんね。大丈夫?」
「テピ」
そっと白いものを手で持ち上げて、次のページに移動させる。テピテピと手を伸ばしている周囲の白いものも挟まないように気を付けつつページから手を離すと、そこには「買うもの」という項目があった。
売るだけでなく買うこともあるのか。
細々書かれている文字を読んでみると、どうやら迷宮で取れたものをここで買い取りしているらしい。「黄金の羽」はまだわかるけれど「蘇生済み死体」って何なんだ。蘇生したら死体ではないのでは。というかそんなの持ち込まれたら困る。引き取りたくない。
かなりゲテモノな買い取り品目に戦々恐々していると、白い集団が呼んでいるようにテピテピーと手を上げてこっちを見上げていた。
「あ、ありましたか?」
「テピ!」
ページの上に乗っている白いものが、意気揚々と短い手を使って指したのは、「手伝い」と書かれているところだった。
「手伝い?」
「テピ」
うんうんと頷くように白い集団はテピテピ言い合っている。どうやらこれで合っているようなので、その項目を読む。
手伝い:して欲しいことなどがあれば金を払い労力を買う。迷宮内に欲しいものがあった場合は依頼して取ってきてもらう。値段は応相談。
いわゆるサービスを買うというやつだろうか。
例えば「蘇生済み死体」とかを持ち込まれた場合、お金を払って誰かにそれを運んでもらったりできるのかもしれない。それは便利だ。
「手伝いというと、どういうお手伝いを……?」
今は死体も何もない状態なので、私としては特に手伝ってほしいことはない。
なので聞いてみると、白いものたちはざわざわ、ではなくてぴてぴと話し合い始めた。
「テピッ!」
「テピテピー」
「テピーッ」
「テピ……」
そして話し合いの結果を私に一生懸命伝えようとしているのだけれど、これがまた全然伝わってこない。身振り手振りでアピールしているものの、なにせ手が短いし指もないものだから、むやみにピコピコと動かしているようにしか見えないのだ。
あっちでピコピコ、こっちでピコピコしながらテピテピと言葉らしきものを発している姿は、かわいさしか伝わってこなかった。
「えーっと、手伝いをしに来たんですよね?」
「テピッ!」
「何の……え? ページ? 本? え、何? こっちのページ?」
「テピテピ」
「売るもの……買い物したい? ではない。したいのは手伝いで、手伝い……売る手伝いがしたい!」
「テピーッ!!」
正解、というように白いもの集団が沸いた。私も喜んでしまった。コミュニケーションって大変だ。
小さな白いものたちは、私がお店をやる手伝いをしにやってきたらしい。
そこまで考えて気付いた。
「……もしかして、まじょばちゃんが言ってた、しばらく仕事見てくれる人があなたたち……だったりする?」
わいわいならぬてぴてぴ騒いでいた集団が静かになり、テピテピとなにやら話し合っている。それから1匹がこっちを向いて「テピ!」と手を挙げた。
「えっ、ほんとに?」
「テピ」
「バイトのあれこれを教えてくれる人たち?」
「テピ!」
マジでか。
てっきり人間の先輩的な、別の場所で働いてる人みたいなのが応援に来て色々教えてくれるのかと思ってたんだけど。
迷宮なめてた。
「えっと……よろしくお願いします」
「テピー!」
とりあえず頭を下げると、白いもの集団が楽しそうに騒ぎ始めた。
うん、怖くて厳しい人じゃないところはよかったかもしれない。人ですらないけど。




