はじめての困難4
ホカホカと湯気を上げる、出来立てほやほやの炒め物。焼肉と野菜にタレが絡んでいい感じに輝いている。ごはんは冷凍だけど、食費支給に甘えてブランド米を買った上に、ネットで見た炊き上がってすぐに冷凍するという技を使っているので解凍でも美味しいはずだ。
普段だとこれで完成にするけれど、今日はお客さんがいる。チューブに入った調味料と卵とわかめで作った簡易中華かきたまスープもつけた。
「よし、運ぼうか」
「テピ!」
周囲でそわそわならぬてぴてぴしていただけの白いものたちに声をかけてから、カウンターの方へ運ぼうと……した瞬間にあることに気付き、私は冷蔵庫に戻した焼肉のタレの裏面を見た。
「ヴァンパイアさん!!」
「うわっ」
勢い良くドアを開けると、暇そうにカウンターに頬杖をついていたヴァンパイアさんがズルッとバランスを崩した。
「いきなりどうしたの?」
「あの、タレの成分にニンニク入ってるんですけど、大丈夫ですか?!」
ヴァンパイア退治には銀の十字架とニンニクと相場が決まっている。
市販の焼肉のタレに入っているニンニクがどれくらいの量なのかはわからないけれど、ちょっとお高めなタレということもあってか、原材料のところにしっかり「にんにく」と書かれてある。全体からするとひとかけ以下の量であっても、ヴァンパイア退治に使われるくらいだから有害かもしれない。
違うものに作り替えた方がいいだろうかと説明すると、ヴァンパイアさんは首を傾げた。
「ニンニク? 別に大丈夫だけど?」
「あの、ヴァンパイアはニンニクがダメなんじゃ……」
「何それ聞いたことない。俺ニンニク好きだし親も友達もニンニクダメって奴いないけど」
丸ごと揚げたやつとか好き。
ニンニク好きでも上級者な発言をしたヴァンパイアさんは「いい匂いしてるね〜」と言いながらグルグル鳴っているお腹をさすった。
「……ニンニク、食べても平気なんですか?」
「うん。ニンニクの味付けした肉とか余計楽しみ。早く早く」
「あ、はい」
揚げニンニクを嬉しげに頬張り聖職者をおののかせるヴァンパイアさんが脳内に浮かんできたけれど、とりあえず焼肉炒めは大丈夫なようだ。私は安心して作ったものをカウンターに並べた。
「おおー! 肉炒め!」
「簡単なものでですみませんけど」
「いやいや、迷宮内だと基本塩かけて焼くだけだからありがたい」
カウンターの真ん中に置いたのは多い目のお皿に盛った炒め物。そして解凍したご飯とスープが2つずつ。
白いものたちと一緒にごはんは食べていたけれど、誰かとこうして向き合ってご飯を食べるなんて予想してなかったからなんだか嬉しかった。ちなみに白いもの集団はプルプルしていたので台所でごはんをお裾分けしておいた。
私はお箸を持ち、ヴァンパイアさんは持参のカトラリーを持っていただきますと声を合わせる。
「炒め物は食べたいだけ取ってください。取り箸使えますか?」
「使えるよー」
「そのイス、どこにあったんですか?」
「出したんだよー。見ての通り俺魔道士だから」
ヴァンパイアさんは、いつのまにかカウンターの向こう側でスツールっぽいイスに座っていた。彼がホイと隣を指差すと、同じ椅子がパッと現れる。
すごい。
思わず拍手すると、ヴァンパイアさんが使っていいよとひとつくれた。私が座るためのイスは既にひとつあったけれど、掃除のときに何かと重宝しそうなのでありがたく貰っておいた。
魔道士というのはヴァンパイアさん曰く「魔法でなんやかんやして稼ぐ仕事」らしい。
見ての通りといわれて納得するほど魔道士に馴染みはないけれど、魔法使いっぽい格好は職業に沿ったものだったようだ。
「ヴァンパイアの人も仕事するんですね」
「そりゃするでしょ。ヴァンパイアは種族ってだけだし、種族と職業は違うし」
まともなこと言われた。確かに、人間なのに仕事するんですかと言われたら何言ってんだってなる。いや、人間だからこそ仕事してんだよと反論したくなるかもしれない。でもなんかこう、ヴァンパイアってあんまり仕事に従事しているイメージがないというか、昼は棺桶に入ってお城の地下で眠り、夜は獲物を探すみたいなステレオイメージがあるというか。
「いや、仕事しないと生きていけないでしょ。てか城って。領主だとしても何かしらしないと反乱起こされるんじゃない?」
「確かに……」
「まあかなり昔は人間魅了して尽くさせてたりしたらしいけど、今はそんなのナイナイ」
私の話を聞いたヴァンパイアさんがハハッと笑う。
まるでフジヤーマゲイーシャサムラーイと言いながら来た外国人に対する日本人のようなリアクションだ。私のヴァンパイア像、実際とかけ離れているらしい。
今まで抱いていたヴァンパイアに対する印象が崩れていくのが残念なような、実態を知れて嬉しいような。複雑な気持ちになった。




