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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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82 修羅場

マコト視点。

前話に至るまで、少し遡っています。




 一体何がどうなったんだ。

 頭の中にはそれしか思い浮かばない。


 見られてはいけないところを見られてしまったという焦燥。


 解こうと思えば解けるフリーシアの縛りに『不可抗力だから仕方ないよね』と解けないフリをしながら、フリーシアに襲われているところを見られてしまったという焦りが勝ち、見られてはいけない自分の顔を見られた事を忘れてしまっていた。


 こちらを見て固まっているアリサに、こちらもつい固まってしまう。

 フリーシアは固まった自分の様子と視線からアリサに顔を向け、ようやくアリサに気付いたような顔になる。

 そして徐々に『あっ……』と現状に気づき始めた。


 だが、次の瞬間、フリーシアの身体が横に飛ぶ。

 そしてそのフリーシアの居た場所にはアリサの姿。


 体当たり。


 だけれども、体当たりというにはそのスピードはあまりに早かった。

 その証拠に当てられたフリーシアの身体が壁際まで転がっている。


 この冬、なぜかみんな強くなった。だけれど、フリーシアはあまり得意じゃないせいか体術に関しては頭一つ低い。その代わりに魔法は一番強い。

 そんなフリーシアが一番体術が抜きんでているアリサの体当たりをまともに食らったのだから、下手したら怪我をしているかもしれない。


 フリーシアの作り出した魔力の鎖が弱くなったのを感じ取り、破壊すべく力を込める。


「大丈夫よ。手加減したから。」


 そう言って微笑むアリサ。

 フリーシアに目を向ければくらくらとしてはいるけれど大丈夫なのか、頭を軽く振りながら四つん這いになって身体を起こそうとしていた。

 大事が無さそうで、アリサに一言いおうと顔を向けた瞬間、両頬をアリサの右手の親指、人差し指と中指でガシっと強く掴まれて固定される。


「えっ?」


 これまでにないアリサの行動に声が漏れる。

 そして、頬を紅潮させつつ半笑いを浮かべながら向けられる肉食獣のような視線。


 ゾワリと背筋が粟立ち、アリサの顔が半笑いのまま近づいてきた。


「んはぁ」

「んん゛ーっ!?」


 まるで食いつかれるようなキス。

 酔った時にされて以来のアリサのキス。


 素面しらふのはずなのに、まるで捕食するように唇を唇で覆われ、アリサの舌が唇をべろりと舐めあげ離れていく。

 自分の唇を舐めあげたであろう舌で、そのまま舌なめずりをするアリサ。


 その顔はどこか笑っているように見えた。

 キリっとした表情や、ぶすっとした表情のイメージついていたアリサ。そんなアリサが見せる、どこか煽情的なその表情が現実感を失わせてゆく。


 アリサは小さく笑い、その笑いと頬を掴まれたままの現実が受け入れられず、どこっか妄想の境に迷い込んだような心地になっていると、頬からアリサの手が離れてゆく。

 強く掴まれていた頬が解放され、少しだけ現実に戻り、ようやくアリサが自分のこの顔を見てしまったという事に頭が働きかけた。


 だがその瞬間に大きな音と共に自分の視界が飛ばされたフリーシアに向けられていた。

 突然の視界の動きと、なぜ動いたのかわからない疑問が頭を過るが、じわじわと熱を帯びるようにじんじんとした痛みが頬に生まれ始める。何をされたかを理解しアリサに顔を向けるとアリサの右手が平手打ちを放ったことを証明するようにアリサの体を通り過ぎ交差していた。


「……えっ?」


 わからなかった。

 なぜ自分が平手打ちをされなければならなかったのか。わからなかった。

 そしてなぜアリサの微笑みがさらに満足そうなものに変わり、その頬に差していた赤みが、より一層その色を増しているのかわからなかった。


 だからただアリサを見る事しかできなかった。


「んんっ……」


 アリサが振りぬいたであろう右手でそのまま自分の肩を抱き小さく震え、顔を小さく上に向けながら喘いだ。

 その顔が下りてくると、煽情的と思えた表情が官能的と思えるほどに変わっていた。

 その表情を見て、どこか背徳的な興奮が一瞬だけ自分の身体を走り抜ける。


 その興奮を見逃さなかったのか、アリサが両手で肩をおさえ、唇を貪るように重ね始めた。


「んんっ! んっ! んっーー! んーーーっ! ん……」


 蹂躙。

 蹂躙される。

 それだけが分かった。


 抗いがたい急流の流れに飲まれるように、無駄な抵抗はすべきではないと思えるほどの勢い。


 絡められてくる舌。全てを吸い取られるように求められる喜び。

 そこにあったのは、気持ちよさ。心地よさ。快感。


「んはぁっ!」


 顔が離れると、少しだけそれを惜しい感情が生まれる。

 だけれど、微笑みではないほどに上がっているアリサの口角が目に入ると、ヒクっと自分の口元が動くのが分かる。


 再度顔がフリーシアの方を向いていた。


 だけれど自分で戻す間もなく、アリサの左手が顔の向きを正すと、再度貪られることを予感させる程に近いアリサの顔。


「……気持ちよかった?」


 発せられるアリサの声。

 だけれどもその声は、質問ではなく『当然気持ちよかっただろう』と確認を促すような声に聞こえる。


 キスの事なのか、それとも再度振るわれた平手打ちの事なのかわからず戸惑っていると、また顔がフリーシアの方へ向いた。

 そこでフリーシアと目が合う。

 フリーシアは目を見開き、わなわなと震えている。


 色々まずい。

 その考えが頭を過った瞬間に、また顔が真正面に引き戻され、そして唇が蹂躙される。



 キスとは不思議なもので、されていると意識がキスに向かって色々な考えが飛んでしまう。

 また舌を舌で嬲られていると、ゆっくりと舌が離れていく。


 アリサの顔が離れると、少し出されていた舌が、お互いの舌を絡めていた証拠のように糸の橋を架けていた。

 それをアリサは舌なめずりで落とし、そのままベロリと自分がはたいたであろう頬を舐める。

 そしてそのまま舌を耳までつたわせ、そして耳元で囁いた。


「もっとしてほしいでしょう?」


 耳に囁きから洩れる息が当たり、声の響きが頭の中で反響し、ぞわぞわぞわと身体が蕩けるように震える。


 どう答えていいかわからないでいると、今度は顔がフリーシアの居た方向とは逆を向いていた。

 顔を戻すと今度はフリーシアの方を向く。


 もう一度顔を戻すと、優しく両頬をアリサが両手で包み込むように触れ、顔を近づけてくる。


「ほら……正直に言いなさい……正直に言えば、もっと気持ちいい事をしてあげるから……」


 まるで誘うような目。

 その奥深くに淫靡でいて妖艶な魔物が住んでいるような、そんな雰囲気。

 このまま任せれば、とても気持ち良い事が待っているように思えてくる。


「は――」

「アリサぁっ! この腐れ筋肉がぁっ!」


 返事をしようとした時、アリサの身体は飛んでいた。

 フリーシアが右手をアリサに向け、肩を震わせながら叫んでいた。その目尻には涙もたまっている。


 突風と共に木造の扉と共にアリサが外へと吹き飛んでゆく。

 だけれどアリサは吹き飛びながらも、さも愉快そうに笑う。


「アッハハハハ! フリーシア! 同じことをしただけじゃない?」


 吹き飛んだアリサを追うようにゆらりゆらりと揺れながらフリーシアが追う。フリーシアの視界の中に自分が収まっていない事が、その怒り様でわかった。


 フリーシアの魔力の鎖を割り両手を自由にし、声をかけようと思いフリーシアに手を伸ばす。


 だけれども、その怒りの度合いが傍目に見ていても、すぐに伺い知れる程で躊躇してしまい、触れることができなかった。

 そして躊躇している間に、フリーシアは外へと出ていく。


「だ、大丈夫ですか?」


 屋内から二人の姿が消えるとミトが声をかけてくれた。

 それと同時に明らかに殺意の籠ったフリーシアの声が外から聞こえてくる。


 修羅場――


 そう気づき、さらに及び腰になる。


 初めて本気で怒った人を見た。

 しかもその怒りは、自分が絡んでいる。


 そのことが怖くて仕方なく、止めに入るという一歩を進みださせてはくれない。

 外では攻防の音が激しくなり、ミトがその音の度にビクリと耳が動く。


 止めなきゃ。

 止めなきゃ。


 そう気ばかりが急く。だけれども親しくなった人から発せられる怒声が恐ろしくて一歩が動かない。足がもつれる。身体の自由が利かない。


 どうしようもなく怖かった。



「マコトくんっ!」


 聞きなれた声、救いのような声に思え、すぐにその声の方へと顔を向ける。


 だけれども、またも忘れていたのだ。



 今は素顔を晒していることを――

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