表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/100

最終話

 ミリガン領から、トレンティーノ領へと移動する食料の流れ。

 その流れの中にフードを深く被った一団が紛れ混む。多く流れる物の流れは濁流に近く、その濁流に混じった異物を見逃すのは仕方のない事だった。


 トレンティーノ領へと移った食料は保管庫へと移動していくが、その内の一部が違う動きを見せていた。

 横領や誰かのこづかいとなるとは考えにくい量の動きに、紛れ込んだ監視の目が気づかないはずもなかった。


「あれは……そのままどこに流れていくのかしらね。」


 一人ごちる女。

 その女に近づく影。


「ソフィア様。」


 白髪のロングヘアーの女が、セミロングの白髪の女に声をかける。

 ロングヘアーの女ビクトリアは、いつも余裕のある顔つきが特徴的だったが、この時はなぜか眉間に皺が寄っていた。


「なぁに? そんな顔をして。」

「狐なのですが……手が出せない状況になっておりました。」


 ソフィアはビクトリアの報告に対して、すぐさま静かに考え始める。


「……どういう風に手が出せない感じになっていたの? まさか死んだ?」

「いえ死んでいません。集落を囲い込むように兵が配置されていました。

 兵は処分に乗り出したというよりは、むしろ集落自体がトレンティーノ家の庇護下に入った。という感じを受けました。まるで獣人が普通の人のように扱われていましたし……」

「庇護……ね。もしかして近々に集落全体が移動するような雰囲気なんかがあったりした?」

「はい。あったように思います。」


 また静かに考え始めるソフィア。


「動く食料と動く獣人の流れ……大規模魔法で制圧され起きなかった騒乱。

 獣人の国で起きているだろう大きな異変。そして隣接する我が国の領で起きている小さな異変……ふぅーん。」


 聞き取れる声で呟きつつ考えをまとめていくような素振り。

 しばらくの後、ビクトリアに向き直るソフィア。


「移動に合わせてハイラントに潜入するなんて案はどうかしら?」

「それは楽しそうですね。

 ですがソフィア様の身に何かあっては一大事ですから、そのお役目は私にお任せくださいね。」


「いやぁね。ビクトリア。2人で行きましょうよ。

 なんだか戦いになる様子もないし、それに私達2人でなら、どうとでもなるでしょう? 多少の無茶をしても、今の内に様子を見ておいた方が良い気がするの。」


 折れる気が無いだろうことを伺わせたソフィアに対して、早々に白旗を上げるように溜め息をつくビクトリア。


「はぁ……ですが、うまくこちらの手の獣人を頼みに紛れこむとしても、せいぜい2~3人がいいところですよ? 場合によっては裏切られる可能性もあるかと。本当に供もなしです。」

「大丈夫よ。情報を集めるだけだもの。深入りはしないわ。」



 ソフィア達が大胆な作戦を立て動き出した頃。

 まだハイラント国であるベンの領地でマコトは、なぜか興奮し内股になっていた。


「は、は、はわ、はわわわ……」


 興奮が漏れ出さないように両手で口を押え、下半身が反応しないようにキュっと太ももを締めている。

 そしてその様子を不思議そうな目でアリサやフリーシア、テオが眺めていた。 


 マコトが何をしているかと言えば、万里を見通す眼を使い、人と獣人の合いの子の集落の様子を伺っていたのだ。

 マコトの目には、貧しそうだけれど農作業などに精をだしている娘っ子たちの姿があった。


 獣人は獣が人のようになっているという容姿で、四つん這いになれば獣と見間違える程に獣の色が濃い。

 だが今見ている人と獣人の合いの子は、まさにその中間と言って相応しい姿。


 ライオンとタイガーの子がライガーやタイゴンであるように、狼と犬の子がウルフドッグであるように、今遠くを見ている目は、双方の特徴を引き継いでいる姿を捉えていたのだ。


 正確に言えば、かなり人に近い獣人。

 其々にバラツキがあり、手足などに色濃く狼の特徴の出ている者や、その逆に手足に人の特徴が現れている者。

 全体的に体毛は少なくなっていて、中にはツルっとした肌がある者、パっと見、全く毛のないほぼ人にしか見えない者もいた。

 ケモナーレベルで分類するのであれば1~3が混在している状態。


 そして皆が皆、中々の薄着なのだ。

 年若い子が多いように見え、年長でも20代に近いだろう程度。そんな子たちが普通に薄着でプルンプルン作業しているのだ。


 内股にもなる。


「見えた?」

「いえっ! 全然見てないです! 全然見てませんっ!」


 テオの呼びかけに対して咄嗟に返答し慌てて目を戻す。


「……マコト様?」

「……マコト?」


 目の前には、訝しげな顔をしたフリーシアとアリサの姿があった。


「え~っと? 確認はできたのよね? 住人に迎え入れる事はできそう?」

「はいっ! 確認は致しました! 良いと思います! なんか貧しそうな感じがしてたので、これは是非保護した方が良いと思いますっ!」

「そう。わかったわ……で? 何を見たのかな?」


「……見てません。」


「マコト様?」


「……見てま…せ……」


「マコト?」


「見て……ま……」


「くん?」


「した……」


 プレッシャーに耐えきれず、その後「薄着でした」と白状させられ、フリーシアとアリサが珍しく手を組み「半獣人に愛の手を」と服の提供を呼びかけ始める。

 そしてその行動が獣人と半獣人の融和に一役買うとは、この時、まだ誰も思っていなかったのだった――

 尚、マイラはアルスターの国で起きるだろう面倒事に先手を打つために帰国している。


 さて、マコトが半獣人の事に対して動いているのは、獣人の強化を願ったベンの件は片が付いたからだ。

 ベンにはマコトから2通りの方法が提案された。


 一つはマコトの魔力が籠められた地竜の鱗を装備し、魔力を利用して力を増大させる方法。

 一つは、地竜の肉を食して取り込み、体内から力の上限を増加させるように改造する方法。


 この提案に対してベンは


 「んなもんどっちもやればいいだろうが!」


 と、第三の選択を取った。

 万が一の危険があった場合をマコトは訴えたがベンの意思は固くベンは両方を行うことになった。

 今後の検証を見越しにコンとその部下は食す方での強化を、嫁のアルマとその側近は鱗から製造した装飾品の装備での強化を行う。


 もちろん隠してある地竜の鱗や肉はマコトが本気ダッシュで取りに行く事になったのだが、本気ダッシュで漏れ出た魔力が近隣の動物達を騒がせ、少し森に広がり始めていたマンモレクを後退させたのには気づかなかった。


 獣人達の強化は、テオ、アリサ、フリーシアの協力もあり、目覚ましい効果を上げる。

 ちなみに装飾品はマコトが珍しく首輪を主張した為、アクセサリーに加工された地竜の鱗を組み込んだ首輪が共通の強化アイテムとなった。


 強化の程は、ハイラントからやってきた首脳陣の視察で反抗的だった勢力が用意した刺客をアルマが一人でねじ伏せて力を見せつけた。驚くべきはこの刺客がアドに次ぐ実力者だったという事だ。対抗できる戦力がない事を確信し、ハイラントはベンの領地を国と認める運びとなった。


 尚、国の名前は


「で? マコトくん名前は? マコトの国にする?」

「え、えっと、お、お、江戸で!」


 『オエド』となった。


 オエドは、ベンの自治領となり、口出しはできないと約束をしていたが、マコトはテオの後押しにより半獣人との融和・受け入れをベンに願い出た。ベンもまた強化の恩恵が大きく協力関係を築く以外の道がなかったことにより許可を出し、オエドの国の首都となったベンの領地周辺でも半獣人のコミュニティが形成される運びとなった。

 半獣人のコミュニティには、トレンティーノ領の協力もあり、物資の提供や、その他アルスターの国に居た半獣人たちの受け渡しも行われた。


 だがここに、紛れ込んでいたのはソフィアだ。


 ソフィアとビクトリアは子飼いの獣人とその子供から、現状の説明を受け理解して驚愕した。

 新しい国が出来たのはもちろんの事、そのトップが人間であるという事。

 そしてそこにはマイラやトレンティーノ、他にもハンターの姉妹にフリーシアがの影がある。

 当然彼女達が隠そうとした存在もいることに当たりをつけ、ソフィアはマコトを取り込む為に策を練りはじめたのだった。


 アルスターから移り住んだ子飼いの獣人と半獣人の協力の下、遠巻きに観察し、隠されていた存在が男であることを突き止め、そして一目で童貞であり、与し易いことを見抜いたソフィアはてっとり早い話合いの方法をすぐさま算段づけた。


 ビクトリア。

 共に来たビクトリアは、色香を使う事にかけては誰よりもうまく『女』であることを使った手練手管に長けている。

 すぐに段取りをつける行動を開始する。


 テオは狐の獣人と話をしたりしている事も多く、アリサはマコトにつきまとってはいるがコンなどと腕比べを行う事も多い。フリーシアはほぼほぼマコトにつきまとっているが半獣人にバストアップの術を伝え、フリーシアに世間話をさせるとあっという間に半獣人はフリーシアに連行されていき、邪魔の入らない環境が整った。


 チャンスが訪れ、即座にビクトリアを向かわせるソフィア。


「お隣宜しいですか?」

「………… () ()


 内心で『誰ぇーーーっ!』と叫ぶが、助けに入りそうな人は誰もいない。

 というか綺麗な人が突然現れた事で、ほぼほぼ思考が止まってしまう。


 ビクトリアはビクトリアで、話した感触から確実に童貞である事を直感で悟り、清楚で押すのが最も効果的だとも考えたが、そこまでゆっくりとする時間的な余裕がない為、力業で押すことにした。


「あぁ、ようやくお会いできました。私、胸の高鳴りが抑えられません。」


 そう言ってマコトの手をとり、自分の胸へと移動させる。


 マコトは神に感謝した。

 嫌だったけれど国の王様的な物になると、こういうサービスがあるんですね。と感謝し天を仰いだ。

 だが、ビクトリアは若く見えてもその実お祖母ちゃんである。


 知らぬが仏。

 知らないからこその神への感謝だった。


 突然のパイタッチに固まったマコトを前にビクトリアは愛おしそうな表情の裏でニヤリと嗤う。だがしかし顔が布で覆われた状態のままだと表情が読み取りにくい。

 そう考えたビクトリアは、自分の胸に夢中になり固まっているマコトに跨り、両手を胸に当てさせてさらに強固な固さに固まらせてから、その布に手を伸ばす。


 顔を隠さなければならない程の傷等は見慣れていたし、それを優しくフォローすることで夢中にさせることができると知っていたからだ。



 だが、隠している理由は違った。


 はらりと落ち、クリアになったマコトの視界。

 その視界に飛び込んできたのは、驚愕の表情に染まるビクトリアの顔だった。


 しばしの沈黙。


「………………めちゃくちゃにしてぇぇっ!!」

「っ!?!?」


 獣がいた。


 突然の豹変に、焦り戸惑うが、正直流されてもいいんじゃないかな? と心の中で思っていた。

 そしてその様子を遠巻きに観察していたソフィアもまた


「っ!?!?」


 と、ビクトリアの変貌に焦っていた。


 明らかに異常。

 このまま放置すればいずれ他の者がやってくる可能性が高い程の大声を出しているビクトリア。

 まだ小屋に招き入れてもいない。あまりにおかしい。


 なにかしらの罠の可能性も考慮したが、それでもすぐにビクトリアの行動を止めるべきと判断し動き出す。


「…………あれ?」


 そしてソフィアもまた。


「止まっていた……生理が……」


 マコトの顔面の破壊力を思い知るのだった――



--*--*--



 マイラがアルスターでの裏工作で疲れた神経を休めようとオエドの国に戻ったその時、マコトの両腕に縋り付くように抱き着くソフィアとビクトリア。そして殺意を全面に押し出したフリーシアとアリサ、うっすら殺意をにじませたテオが睨み合うという修羅場が待っていた。


 期せずして『こうなったら良い』と描いていた姿を手にしたマイラだったが、自身を上回るであろう智略に飛んだ2人はあっという間にアリサやフリーシアの居た場所を奪い取っていた。 マコトの貞操にしても、かろうじてアリサとフリーシア、そしてテオの抵抗により阻止されている状態であったが、肝心のマコトが既に骨抜きに近い状態になっており、その抵抗も風前の灯火のよう。


 なぜソフィアがここにいるのかという疑問もあったが、それ以上に3人が言っていた通り、予想がどれだけ甘かったのかと唇を噛む。

 そして現状を打破するための最終手段を取った。


「マコト殿。マコト殿……いいのかい?

 あの2人は××才と××才の孫がいる年齢の人達だよ?」

「………………えっ?」


 『孫』という言葉の破壊力は抜群だった。

 マコトは静かに2人から距離を取っていた。


 マイラはこの行動のせいで2人から正式に敵認定される事になったが、マコトの盾がある以上、最悪の事にはなりはしない。いや、なるかもしれないけれど、今すぐ殺し合いになるより回避策は取り易い。


 マコトの明確な拒絶の意思を感じ取った二人は一旦は引くしかなかった。

 だが引ききつつも年の功か2人は折れてはいない。


 2人は間接的な手法であっても離れられなくしてしまえばいいと、アルスターの国に戻って行動を始めたのだ。


 要は、オエドの国にとって、2人の存在が無くてはならない状態にしてしまう。

 オエドの国にとって国賓として歓迎せずにはいられないようにアルスターに依存させてしまえばいいのだ。


 ソフィアはオエドの国を人が王の国であると公表し、大々的にアルスターの国として歓迎の意思を示した。

 獣人が民であれど、王は人。自分達の仲間が支配している国なのだと発信し、マイラが考えて工作していた下地をすぐに発見して利用。


 オエドの国と隣接するトレンティーノ領をマイラがオエドに併合させるよりも早くアルスターの特区として利用し始めた。


 特区では獣人の国に無い物が多く売買されるようになった。

 それは魔道具。ポンプであったり照明であったり、これまであったら良いと思うが獣人の国にはなかった物が売買されるようになった。

 もちろん魔道具は希少価値もあり、これまではハイラントには渡したくないと考えていた。オエドには出せば、結果としてハイラントにも渡る事になるだろうが、数十年ぶりの恋する乙女モードの二人にとって、それはそれでさらにオエドがアルスターに依存する理由になり都合が良いとさえ思えたのだった。


 こうして急速に物と人が流れ込むようになり、オエドの国は発展して行く。

 マコトはマコトで人が増えるにつれ、形だけの王であれど、王としてどうしてもやらなくてはいけない事が増えた。

 もちろんこれはソフィア、そしてハイラントの国の首脳陣である狐の獣人が望んだ結果とも言える。

 一番恐ろしい力を持つのが誰かを理解しているからこそ、どこにいるかを把握し可能な限り管理しておきたかったのだ。


 マコトはその他にも、マコトにしかできない地竜の鱗を取りに行ったりなどの雑務もあり、銀流亭で踊り狂っていたような過去からは考えられないほどの多忙な時間に目を回す。

 そして日々苛烈になる『早く私に手を出せ』という女性陣の圧力に心が折れそうになっていた。



「……もうやだ……森に帰りたい……」


 そう空を見ながら呟く。


「逃げるというのも、存外苦しいものだよ?」


 そのマコトの心を察知して声をかけたのはマイラだった。


 過去。自身の置かれた立場から逃げ出したい一心で動いた彼女だからこそ、マコトの言葉を深く理解できる点があったのだ。

 そんなマイラと話をし、マコトは何故苦しいかに目を向ける。

 アプローチを受けつつも未だに手も出せない理由を考えた。


 そして、元々の自分に自信がないからこそ誰にも手が出せず、そしてこんなにも苦しいのだという事を理解した。


「誰も……本当の自分を分かってくれない。」

「あぁ。誰も分からないさ。」


 気が付けば、マコトはさめざめと泣きだしていた。


「結局、自分の外見や力しか求められていない。」

「うん。だって持っているからね。」


「誰も本質を見てくれない。」

「じゃあ、見せているのかい?」


 本音に言葉をぶつけられ、黙る事しかできない。


「まぁ……といっても、私だって本質なんか見せてはいないけれどね。」


 顔を上げると微笑むマイラの顔。


「人の本質って、なんだろうね?

 人の中……心なんてものは、その時で形を大きく変えてしまう。

 外見だってそうだと思う。怪我や年を取ったりすれば大きく変わる。」


 黙って耳を傾ける。


「アリサやフリーシアが、マコトに向ける好意。

 これに裏表なんて無いと思ってる。

 むしろ漠然と流され、彼女達の好意から目を逸らしているのはマコト。君の方だよ。」


 向けられた視線。

 逃れるように顔を逸らす。


「マコト。

 君が今、誰にも分かってもらえない事を嘆いているように、彼女達だって君に向き合ってもらえない。君に分かってもらえないと、君に向ける笑顔の影でどれだけ苦しんで泣いているか……それを知っているのかい? 見ているのかい?」


 顔を上げられない。

 でもマイラの言葉は止まらなかった。


「結局、君は自分が傷つきたくないからと殻に籠って、誰か何とかしてほしいと赤ん坊のように甘えているだけじゃあないのかな?

 自分は誰も真っ直ぐに見ないで『ああして欲しい』『こうして欲しい』と願っているだけじゃあないか?

 なにか自分から努力をしているかい?」


 反論をしたくなる。だが、言葉はひた隠しにしていた核心を突いていた。だからこそ言葉が出て来ない。

 ふと厳しい顔をしていたマイラは微笑み、そして遠くに目を向ける。


「本質を見て欲しい……か。

 本質ってどうやったら見えるんだろうね。

 そして見せられるんだろうね。

 私が本当は女だと言えば本質を見せたといえるかといえば、そうでもないだろうしさ。」


 驚いて顔を上げるマコト。


「これだけ居て気づかないんだから、やっぱり見ていないんだよ。君はさ。」

「……」

「私はマイラ。正真正銘生まれた時から女だよ。」


 そう言ってしてやったりと言わんばかりの笑顔を見せるマイラ。


「ようやく私を見たようだね。

 まずはきちんと、よく見る事を勉強してみないかい? 私と一緒にさ。」


 マイラが伸ばした手を取るマコト。

 その手をぎゅっと握るマイラ。


「さて、じゃあお仕事の話だけど。

 特区のトレンティーノ領の領主が、友好の証として娘を是非嫁がせたいと言っているんだけれど、娘と会うだけ会ってみるかい?」


 そう言って微笑んだのだった。




--*-- エピローグ --*--



 オエドの国で初代国王マコトの結婚式はかつてないほど盛大に行われたと記録に残っている。


 なにやら花嫁とその友人が結婚式の際中に盛大に戦い、その戦いは嵐を起こすほどだったという。

 新郎が涙ながらに友人も後妻にと願ったことで場が治まったが、この逸話を機に、オエドの国では正妻は拳で勝ち取るという新しい風習が生まれたというから、相当に騒がしい結婚式だったのだろう。

 また、この風習が生まれた事でアルスターの国からも親善の証として2名が後妻に加わる事になったそうだ。


 妻を迎えた初代オエドの王マコトは、近隣諸国の友好と発展に長く務めた。

 それはそれは永く務め、アルスターの国の王が3代、4代、5代と変わっても尚、王として健在であったと驚くべき記録がある。


 その長命ぶりは目を見張り、アルスターの国から後妻となった賢者ソフィアは、その長命な理由を豊富な魔力にあると結論付け、魔力と加齢の関係性を解き明かし、若返りの秘術の草案と共に発表。世界に驚きを与えた事は今や美容の世界においては誰しもが知っている事。


 そして世界中の若さを求める者たちが魔力の凝縮された素材を求め、その代表的な素材として地竜の素材は有名になった。


 だが、地竜などの強力な獣を狩る事ができる人間は、人にしろ獣人にしろそうはおらず、皆、より強い狩る者を求めた。

 その結果、ハンター業が隆盛を極め、ハンターギルドは世界中に根を張った巨大組織となり、その中で認められた優秀なハンターであれば、尊敬と羨望、そして権力すらも手にする事が出来るようになった――


「――というワケだ。」


 ガイドブックのようなものを閉じる男。


「へ~。優秀なハンターに権力があるのって、そういう事だったのか。」


 声を聞いていた男が頷きながら答える。


「あぁ。誰しもみんな長生きしてえって事だよ。」

「なるほどな……でもよ。地竜を狩るってのは流石に無理な話だろう。」

「あぁ。夢物語さ。」


「それによぉ、長生きって言ってもさ、どうせ大したことないんだろう? 大体そのマコト王の妻ってのも死んじまったんだろうしさ?」

「あぁ、でも記録じゃあ100~200年は生きたって話らしいぜ。」

「眉唾だな嘘くせぇ。大体歴史なんてもんは誇張されるもんだしな……その魔力が多いマコト王ってのも、さっさと死んじまったんだろ?」

「なんか記録だと嫁さん看取ってマンモレクの森に姿を消したってなってるな。」

「うーわ。なんだそれ、結局自殺でもしたってことかよ。」


「なんか嫁たちとの間に子供はできなかったらしいから、きっとそうなんだろうな……でもよ、案外森で生きてたりするのかもしれねぇぞ。」

「は?」

「時々もう駄目だと思ってたヤツが森から戻ってくる事があるだろ? そいつらはみんな『助けられた』って言うらしいからな。」

「助けられた……って誰にだよ。」

「いや、なんか錯乱してるらしくて、いっつも答えがバラバラみたいなんだよ。

 突然霧がでてきただの、飛んじまうくらいの風が吹いただの、怪我したはずの傷が治ってただの、突然岩が飛んできただの……どう考えてもおかしいだろ?」


「混乱してるとみて間違いねぇな……まぁでも生き残らせてくれるんってんなら夢みてたとして、拝んでおきたいもんだな。マコト王。頼むぜ。」

「だな。俺も手、合わせとくか。」


「よし。それじゃあ行こうぜ!」

「おうっ!」


 今日もまた、ハンターたちは獲物を求めて動き出すのだった。










続ける気力が完全に折れきる前になんとか完結したいと思ってしまい、かなり端折って急いでしまいました。すみません。

後半はかなりプロット的な感じになってしまったので、消化不良とかんじられたかもしれませんが、また、気持ちが乗ることがあれば、しっかりと描きたいと思います。


これにて一旦孤高のハンターは終了したいと思います。

ここまでお付き合いを頂き、誠に有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ