第34話 何かが起きそうな気配を持つ少女2名
放課後の教室。
これから目指すべき場所は、人気のない山奥だった。
地方都市らしく、高校の周辺は、ベッドタウンと自然とが、うまく調和している。
足を延ばせば、霊峰と呼ばれる山もあるし、林程度なら、少しあるけば見つかる。
修行をするならば、人目を避ける以外に選択肢はない。
俺と委員長は、疑われないように、バラバラに目的地を目指すこととした。
委員長が先に教室を出たのを確認してから、俺も出発することにした。
生徒はほとんどが帰宅につくか、部活に向かっている。
教室のかたすみで、例の異様なほどに威圧感のある白ギャルが、頬杖をつき、つまらなそうにスマホを見ていた。
地球帰還後に、教室で面と向かって言葉を交わしたときは、俺の体が氷漬けにされたように動かなかった。
そのとき、名前がわからなかったけれど、今は知っている。
大又蘭花というらしい。
ずいぶんと美人の白ギャルだけれど、反応が薄すぎるせいか、誘われても遊びにいかないせいか、友達はほぼいないようだ。
俺と同じに見えるが、向こうは美少女なので、スタートラインが違う。俺は結果的に一人で、大又さんは選択した一人なのだろう。
俺がぼうっと見ていると、視線を感じたのか、大又さんがこちらをにらんできた。
「うっ」
やはり、怖い。ギャル、怖い。
オタクにやさしいギャルなんて、いなかったんだ……と俺は、教室を飛び出したが、一つだけ気になったとすれば、大又さんは、どこか寂しげだった。
まあいい。俺に関係することではないし、今は、委員長である。
一足飛びに、階段をおりる。
動体視力がいいと、こんなにも自由なのか――と、地球に帰ってきて、自分自身に感心している。
うーん、階段を飛び降りていくの気持ちいいなぁ。学校の階段って、ダンジョンみたいで、昔を思い出す。
いいことばかりではないけど、わくわくもあったな。
などと、気を抜いていると、階段の途中に、人影が見えた。
「やっべ!?」
通常の動きでは避けられない。
俺は、身体制御スキル『二段ジャンプ(アクションゲームにおいて、空中で二段ジャンプして角度を変えるイメージだ)』を利用して、相手の手前で空中をけり、相手の頭の上を、縦に一回転しながら、飛び越えて、着地した。
「ふう……」
あぶなかった。
これでぶつかっていたら、相手を怪我させていただけではすまなかった。
あとは、見られたことをどうにか誤魔化しておかねば。
「わ、わるかった。ちょっと階段の上からジャンプしたらどうなるかなーって思ったら、こんなことに。ぐうぜん、途中で足が階段にひっかかってよかった! 死ぬかと思った! HAHAHA」
大根役者。なんとでもいってくれ。
俺の言葉を受けたのは、女子生徒だった。
というか、顔見知りだった。
「『あ! サムライだ!』」
「げっ、ララ……」
先日、勝俣をこらしめたときに出会った、ドイツ人の少女だ。
赤い髪を見た時点で気が付いて、逃げるべきだった。
なにせ、彼女のは一度、通常の人間には理解できないような動きを見せてしまっている。
俺の言葉に、ララは目を輝かせる。
「『やっぱり、話ができるっていいわね! ドイツ語喋れる人、すくなすぎっ』」
それから、すぐに、不満顔になった。パラパラ漫画みたいにころころと表情が変わる少女だ。
「『それより、げっ! ってなによ!? あのあと、あたし、がんばって、日本語がわからない外人のフリして、屋上まで先生呼んだんだからねっ!?』」
いや、日本語わからないの外人ってのは、本当だろ……。
しかし、助けてもらったのは事実なので、素直に頭を下げておいた。
「そうだった。本当にありがとう。あのときは助かったよ」
すると、ララは頬を少し赤らめて、指で頬をかるくかいた。
恥ずかしがっているらしい。
「『ううん、あたしも助けてもらったから。お互いさまでしょ?』」
「え? 助けたって……なにから」
あの時は、早見くんを逃がして、あとはララに失望されて、そして勝俣を倒し、中野が失神した。それだけだよな……?
ララは焦るように手をふった。
「『ちがう、ちがう。あたしが、勝手に助けてもらったってこと。この日本にも、まだサムライがいるんだ! って知って、帰国したい気持ちが消えたから!』」
「あ、なるほどな……まあ、それはよかったよ。じゃあ、俺ちょっと用事あるんで……」
「『そうね。あたしも用事があるから、行くわ』」
好意的な発言は、助かる。
余計な話が始まる前に、退散しよう。
立ち去ろうとする俺の背中に、ララの声がかかった。
「『それにしても、あなたって、サムライじゃなくて、もしかして、ニンジャなの?』」
俺は、タイムリーな話題に、ぴたりと立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
それから、強く、首を振る。
「ぜったいに、ちがう。俺は、忍者ではない」
「『そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃない。ブシドーが泣くわよ』」
「……じゃあな、ララ。また、今度、ゆっくり話そう」
「『ええ、さよなら、サムライ』」
そうして俺たちは本当に別れた。
さあ、今から、本当の忍者の元へ――くノ一委員長と合流しなければならない。
特定キャラの章(話)のときに、別の章(話)のキャラが顔を出すのが好き系です。
応援ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。はげみになります。




