表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元いじめられっ子の俺、異世界から帰還する  作者: 斎藤ニコ
第三章 久遠奏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/52

第30話 何の話だ

【前回までのあらすじ】


久遠奏では、クラス委員長で、忍者で、くノ一で、へっぽこなのだった――得意技は色恋の術。


     *


 委員長のあとについて、玄関をくぐり、土間様式の広い玄関で靴を脱ぐことを勧められ、スリッパはなく、靴下のままで、長く広い廊下を歩いていく。


 忍者の里と言い張るが、どう考えても組事務所的な空気はあった。昔見た、映画は、こういうところでドンパチやっていた。


 なお、とても静かではあったが、そこかしこから人の気配がした。今のところ、敵意や殺意は感じられないが、とりあえず、なにも気が付かない一般人のふりをしておく。


 廊下の突き当りに部屋があった。木製の引き戸がついていた。

 ようやく、委員長が口を開いた。


「ここが首領のお部屋よ」

「首領」

「ええ。つまり里の長。トップってことね」

「組長ってことか」

「首領って言ってるよね?」

「……わかったよ、首領な」

「わかってくれればいいの――それで、いまから景山君に、一つお願いがあるんだけど、きいてもらえるかな」

「なんだ?」


 引き戸に手をかけながら、小さな声で、委員長は言った。


「可能性としての話だけど」

「ん?」

「たとえば、景山君が、崖から落ちて頭を打ったとする」

「はぁ……?」 

「それで、わたしが助けたら、景山君は自分が忍者であることを忘れていた……」

「『忘れていた……』じゃねえよ。そんなわけあるか」

「じゃあ、たとえば、わたしが通りかかったとき、車にひかれて……ふっとんで、頭をぶつけて……?」

「もしそうなら、救急車を呼べ。こんなところを歩かせている場合か、死ぬぞ」


 本当は死なないだろうけど、黙っておく。


 委員長は、焦りはじめた。

 なんだか、目の中がぐるぐると渦巻いている気がする。

 もはや、なんでもいいから、俺を忍者にしたいらしい。


「じゃ、じゃあ、えっと、わたしのおっぱいを見た景山君は、節操なく、わたしにおおいかぶさってきて、猿のように、節操なく、えっと、節操ない高校生の末路は……記憶喪失ということで――」

「節操ないのはお前だろうがっ」


 高校生には忘れたい過去がある! みたいな論法やめろ。

 まじであるんだから……深夜に、ふと枕を顔に当てて叫びたくなることとかさ……うう……。


 なんて、気分がおちている俺よりも、さらに委員長は絶望的のようだった。


「で、でもお……じゃあ……どうやって、忍者ということにすれば……」

「どうやっても、忍者ではない」

「折檻はやだよう……しくしく……」


 委員長の地が見えてきた。

 涙目で、こっちを見るさまは、どこかかわいらしく見えないこともないが、発案が終わっている。

 なんとしても、俺を忍者ってことにしたいらしい。


「あのな、委員長」

「協力してくれるのっ?」

「そうじゃない。早くその引き戸を開けて、正直に話せよ。間違いでした。忍者のこと話しました。ごめんなさい――素直に謝れ。それが人としての正しさだろ」


 委員長はうなだれた。


「うう……景山君が人の正しさを主張するなんて……世界の終わりかもしれない……」

「いままで俺をどういう風に見てたんだ……?」


 ゴミ扱いじゃないだろうな。

 まあいいや。はやく、話を先にすすめよう。


 そもそも、委員長は焦りから気が付いていないみたいだが、もう遅いのだ。


「委員長、諦めろ。どっちにしろ、詰んでるだろ」

「え?」


 俺の言葉に委員長が声をあげる。


 俺は、委員長の手をどかして、引き戸を勢いよくあけた――と、そこには、一人のじいさんが立っていた。作務衣をきており、ずいぶんとラフな格好だが、隙はなかった。


 引き戸ぎりぎりに立ち、俺たちの話を聞いていたのだろう。呼吸音一つ、漏らさずにだ。さすが忍者というべきか。


「わっ」と委員長が飛びのく。忍者としての心構えが欠けてはいないだろうか。


 委員長は俺にしがみついてきた。胸がめっちゃあたるが、気が付かないふりをする。そういうところが、俺のいいところでもあり、むっつりのところでもある……とは、昔の仲間の軽口。


 さて、ようするにこの『白髪、白髭の背の低いじいさん』が、頭領というやつなのだろう。


 驚くことなく立っている俺を見て、じいさんのほうが、少々驚いているようだった。

 

 サンタクロースみたいにひげをふさふさと触りながら、言う。


「ほお……? 小僧。ワシの気配に気が付いていたのか? どういう理屈だ、これは。まさか、一般人ではないのかな?」


 俺は、委員長を押しのけながら言葉を返した。


「もちろん忍者でもないですけどね」


 委員長は、悲しそうにつぶやいた。


「ああ、もう……なんでこうなるんだろう……」


 自業自得って言葉を、後で教えておいてやろう。


     *


 じいさんに促され、俺と委員長は、引き戸の先に広がる畳の間に並んで座っていた。

 机の一つもなく、あるのは、座布団と、火鉢のようなもの。あとはキセルっぽい筒と、上座に座るじいさんの背後にある、掛け軸だけだった。


 じいさんは、すべてを理解しているように、一つ頷く。


「カナデ。つまり、お前は、一般人を誘ったあげく、あろうことか自分の口で、己の正体をばらしたと、そういうことか」

「……はい、そうです、おじい様」


 委員長はいつしか、くノ一衣装に早着替えをしていた。正座でうなだれているが、その姿が、やばい。

 真横から見ると、脇の下から、太ももまで、長方形にまっすぐ、肌が露出しているのだ。どういう構造かわからなかったが、とにかく蠱惑的だった。


 さきほどから話は、すがすがしいほどに俺という存在を無視して続いている。

 

 じいさんは言う。


「では、どうするかわかるだろうよ。なぜ、小僧をここまでつれてきた? はやいところ、お前の術で洗脳して、記憶を消せばいい。そのための色恋の術だというのに」

「いえ、それが、あのう……」

「なんじゃ。歯切れが悪い。お前は、身を偽る演技をせねばならぬときは、優秀だというのに、なぜくノ一に戻るとへっぽこなんだ」


 身内にも自覚あったんだ……。

 はやいところ、くノ一やめさせてやれよ……。


 委員長は、聞きなれた言葉なのか、じいさんの言葉はまったく意に返さず、自分のペースで説明を始めた。


「あの、おじい様。じつは、すでに、色恋の術をかけてるの……それも三回ぐらい……いや、六回ぐらいかも……」

「なに? では、さきほど、わしの気配を悟ったのも偶然ということか。洗脳しておるなら、意識はなく、カナデの意のままだろうよ」

「あ、そうじゃなくて……実は、わたしの術が効かないというか……色恋が通用しないというか……六回とも、全部失敗というか……?」


 たどたどしく話す委員長を、じいさんは、よくわかっていないように見つめたあと、いきなり笑い始めた。


「あっはっは! 何を馬鹿なことを言う! 色恋の術しか、まともに使えぬ代わりに、お前はその筋の天才だぞ。相手が女ならまだしも、男――それも、十と数歳そこらの小童、お前のボデーで、イチコロ! お前は色恋の天才、男の天敵なのだ!」


 平気ですごいこと言ってるぞ、このじいさん。

 令和の時代に世に出しちゃいけないタイプだ。

 

 ちなみに推測だが、「おじい様」と委員長が呼んでいることと、真面目な委員長が、くずした敬語を使っている限り、相手は身内なのだろう。

 つまり、祖父と孫の関係ではないだろうか。

 委員長は、首領の孫なわけだ。で、このへっぽこ具合。大丈夫か、この忍者集団。


 好き勝手言われることも、やはり慣れているらしい。委員長は、自分の両手の人差し指を体のまえでツンツンと合わせながら、説明を重ねた。


「いや、本当なの、おじい様……この景山君って人には、わたしの、術が効かないのよ……」


 そこまで話して、ようやく首領も、事実だと信じたらしい。

 腰をあげて、驚きの顔。


「な、なんだと……? 奏の才能と、豊満なボデーをもってしても、ダメか……?」

「はい……全然、ダメ。なんにも変わらないの」


 恐る恐るというように、首領は言う。


「まさか、お前……アルティメット色恋術まで使ったんじゃなかろうな……?」


 なんだ、そのアホな術名は。

 ハリウッド映画みたいな技を使うんじゃない。


 呆れている俺に対して、委員長はいきなり焦り始めた。顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振る。


「つかわない! 絶対につかわない! あんなの使ったら死んじゃうっ」

「それでいい……、あれは基本的に、一度しか使えないからのう……」

「う、うん」

「しかし……そうか。効かないということは、つまり――」


 そこで首領はとうとう、俺を見た。

 その目はどこか、悲しげだった。


「――つまり、この男、股間が不能ということか……」


 委員長が驚く。


「……あっ、そういうこと!? だから、色恋の術が効かなかったのね……?」

「そういうことなのだろうなあ」

「そんな……わたしの体を見ても、反応しないだなんて、なんてかわいそうな人なのね、景山くん……」


 言葉通り、かわいそうなものを見る目を、二人がこちらに向けてきた。

 なんか、二人して、小さく頷きながら目をつむって涙を耐えている感じが、妙にむかつくんだが……。


 よし。

 俺は決めた。

 怒ろう。

 黙るのはもう終わりだ。


 俺は息を思い切り吸い――吐き出すとともに声を出した。


「そういうことなわけあるかっ! このボケ忍者どもめっ! 黙って聞いてれば、好き勝手いいやがって! 俺にはそもそも忍者の術は効かないんだよっ! だから、何度試してもダメだし、アルティメットなんとかも、意味はないの! 理解しろ、委員長っ」


 委員長が口元をおさえた。


「アルティメットのことはいわないでっ!? それ、セクハラだから! 景山君のセクハラこうこうせー! ヘンタイ! 童貞!」

「はぁ!? もはや意味が分からん! もう絶対に帰る! 俺は帰るからな!」


 童貞は本当だけど、もう知らん!


 委員長が、毎度のことのように、足にすがりついてくる。

 だが、もう知らん。半裸でも、振りほどく。


「帰るのはもう少し待って! 頭に傷をおってからにして!」

「記憶を消そうとするなっ! 忍者としてのプライドはないのか、プライドは! 色恋だろうがなんだろうが、俺に効く術が使えるようになってみろ!」


 半ば自棄になり、特に考えもなく、思いついた言葉を並べ立てて、立ち上がったときだった――どこからか声がした。


「ほう。面白いことを言う。しかし、笑止千万。馬鹿にするのは、奏の半裸衣装だけにしておけ。そこまで言うならば、お前の力、ぜひ見せてもらおうか……っ」


 忍者としてのプライドに満ちたセリフのようで、実は委員長をディスってるだけにも思えるような言葉を聞いて、俺はやっぱり、いやな予感しかしないのだった。





 






〇作者より報告


昨日は、一度、書いた30話が、ブラウザごと消えました。保存もしてなかった。ああ。悲しすぎるので、ここに書いておきます。悲しい……。


〇作者よりお願い


できれば評価やブクマいただけると、嬉しいです

元気出ます

兼業作家は、気力が命……(';')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ