16-3
「ちょいそこ! ニヤニヤしない!」
おっと、いつの間にか口角が上がってしまっていたようだ。
俺は咳ばらいをして、口を挟む。
「説教も必要だと思うが、今日のところは次のゲーム行こうぜ。まだ二つしか暴露されてないしな」
「チッ、命拾いしたわね! レイ!」
さっき怒ってないって言ったじゃん。
「ねぇ三人とも、ちょっと提案なんだけどさ」
「何よ?」
「ババ抜きは十回戦までにしないかい? いつまでやるか決めてなかったしさ」
「まあそれくらいが妥当かもしれないわね」
「そして最終戦の十回戦目で負けた人は、一番恥ずかしい秘密をバラすっていうのはどう?」
「っ! いいわね! 乗ったわ!」
飽きるまでとかそういう曖昧な回数でなく、明確な終わりが見えるのは俺としても身が引き締まってありがたい。
ただ、一番恥ずかしい秘密というのは中々に難しい。
半端な物では許されないということか――――そもそも俺自身にあんまり秘密がないのだが。
「じゃあ三回戦目を始めようか」
再びカードが配られ、新たなゲームが始まる。
それから同じことが六回ほど繰り返されたものの、結局俺はカノンのおかげで一度も負けることなくやり過ごせていた。
現在合計八回戦が終了し、カノンが五回、玲が二回、ミアが一回罰ゲームを受けている。
そして最終戦の一歩手前である九回戦。
俺からババを引いてしまったミアが最後までそれを抱えたままゲームが終了し、罰ゲームは彼女が受けることになった。
「うーん、残念。そろそろりんたろー君に秘密を暴露させたかったのに」
「悪いな。今日はついてるみたいでさ」
「まあ運ゲーってやつだから仕方ないか。えっと、ボクの暴露は二つ目だね」
そう言うミアの表情はあまり辛そうではない。
対照的に、カノンはかなりげっそりしている。
これが暴露回数二回と五回の差であった。
「うーん、そうだなぁ。最近下着のサイズが合わなくなってきたって話はしたっけ?」
「え……初耳なんだけど?」
「ああ、じゃあこれでいいね。実は今日の水着のサイズも前とは違ってさ。もうFじゃ合わなくなってきたんだよね」
「あー! もう聞きたくない! きーきーたーくーなーい!」
「そんなこと言わずにさ、ボクの暴露話なんだからちゃんと聞いてくれないと困るよ」
「罰ゲームでマウント取ってくるやつがどこにいんのよォ!」
叫び散らかすカノンに、囁くように言葉を届けようとするミア。
そんな二人を、俺は玲よりも無表情で見ていた。
実際どう聞けばいいか分からなくないか? 全国の男子諸君に聞きたい。こういうシチュエーションに巻き込まれたら、どういう対応をしたらいいか。
ちなみにセクハラになりかねない回答は無視させてもらう。
「さっきの身長の話に近い質問になるけど、りんたろー君は大きいのが好きかな、それとも小さい方がいいのかな」
「……ノーコメントで」
「あら、残念」
俺が胸のサイズの好みを告げる時が来るとすれば、それは俺が罰ゲームを受ける時だ。ただもう残すは運命の十回戦目だけ。あまり考えてはいなかったが、ここで負けた時に暴露する内容としては少し弱い。
「もういいわ! ほら、次でラストよ! これで負けたら本気で恥ずかしい秘密を暴露! 文句はないわね⁉」
「ないけどさぁ……」
「何よりんたろー。怖気づいた?」
まあ、カノン自身が乗り気ならいいか。
「何でもない。ほら、配れよ」
「ぜっったい吠え面かかせてやるんだから!」
最後のゲームとは言え、今まで通りやっていれば負けることはまずない。
全員が全員順調にカードを減らしていき、やがてミアと玲があっさりと上がった。
残ったのは俺とカノン。俺の手札が一枚で、カノンの手札が二枚。
そしてババは彼女が持っている。
この状況さえ作れてしまえば、もう負けようがない。
「悪いな、カノン。これで終わりだ」
「な、何よ! 分からないじゃない!」
そっとカードに手を伸ばす。
左のカードに触れようとした時、彼女の表情が変わった。
つまりこのカードがババ。俺は反対のカードを引けばいい。
そして俺は、そのカードを引き抜いた。
瞬間、カノンがにやりと笑う。
――――嫌な予感が、背筋を駆け抜けた。
「引っかかったわね! りんたろー!」
「なっ……」
俺が手に取ったカードは、まさかのババ。
何が起きたのか分からず、俺はただ茫然とその絵柄を見つめる。
「この時のためにあたしはずっと策略を巡らせていたのよ……! ババを手に取った時に表情が変わるのもすべて演技! 見事に騙されてくれたわね!」
やられた。これがアイドルの演技力か。
「くっ……だがこれで勝敗が決まったわけじゃねぇだろ! どの道二分の一だ、ここでお前が引けるとは思えねぇな!」
「ふっ、馬鹿ね。人の甘さに付け込んで運ゲーを逃れてた奴と、ここまで丁寧に基盤を築いてきたあたしじゃ立場が違うのよ! 勝利の女神が微笑むのは、あたしだ!」
カノンが俺からカードを引き抜く。
そうして俺の手に残ったカードは、ババだった。
「うそ……だろ」
「さて、十戦目の罰ゲームを受けてもらおうかしら?」
目の前で、揃ったカードがテーブルの上に捨てられる。
ここに来て――――まさか最後の最後だけ負けるだなんて。
「凛太郎の大きな秘密、知りたい」
「全面的に同意だね。普段だったらきっとのらりくらりとかわされてしまうだろうから、今日ばかりはすごく楽しみだよ」
当然のように味方はいない。
俺は大きくため息を吐き、ソファーに深々と腰かける。
一応、俺にも一つだけ誰にも話していない秘密があった。それを知られると思っただけで羞恥心が溢れ出してくるが、こいつらだって散々秘密を暴露する羽目になったのだから、俺だけ逃げるというのは無しだろう。
「大して面白い話でもないんだが……実は、な、どうしても苦手な物があるんだよ」
「え、何? 食べ物?」
「いや、違う。……雷だよ」
「はぁ?」
きょとんとした表情を浮かべるカノンの横で、玲とミアも同じ表情を浮かべていた。
まあ、そういう反応になるよな。
「雷の音とか、震動とか……あの黒い雲が光る瞬間とか……どうしても苦手でな。今年は雷雨の日が少ないからまだ助かってるけど、夜中に鳴ったりすると布団に深く包まれないと寝られなかったりする」
「「「…………」」」
どういうわけか、三人は黙って俺の話を聞いていた。
妙にいたたまれない空気の中、反応を窺うようにして彼女らの顔に視線を向ける。
するとそんな俺と目を合わせながら、玲がぼそりと呟いた。
「――――可愛い」
こんなに恥ずかしいことがこの世にあるだろうかと思うくらい、ぶわっと冷や汗が噴き出した。
素直にかっこ悪いとバカにされる方がまだマシである。可愛いという一言は、俺にとっては『お前男らしくねぇな』の最上位版だ。
「ぐっ……幻滅したならもっとちゃんと笑ってくれよ」
「幻滅なんてしてない。むしろ今まで凛太郎の欠点が見えてこなかったから、それを知れて嬉しい」
「や、やめてくれ……」
肯定的な意見すら、今は体に悪い。
もだえ苦しむ俺の両肩に手が置かれる。振り返れば、わざわざ後ろに回り込んだカノンとミアが立っていた。
「ナイス暴露よ、りんたろー」
「また辛い夜があっても、これからはボクらが側にいてあげるからね」
ああ、いっそのこと殺してくれ――――。




