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15-4

 炭火の上に置いた網に、ソーセージやら野菜を並べる。ブロック肉は串に刺しておき、手持ちで食べやすいように工夫した。


 アウトドア用の椅子に腰を掛けた女子三人は、さっきからずっとそんな風に作業する俺を眺めている。別に邪魔になっているわけでも何でもないが、少しだけ居心地が悪い。


「……何かやりにくいんだけど」

「ごめん。でも、とても興味深い」

「興味深い?」


 突然科学者みたいなこと言いやがって。

 男が黙々と作業している姿のどこに興味が湧いたのか。


「何だかんだ、あんたが料理作ってるところを生で見る機会ってなかったからね。ちょっと新鮮なのよ」

「ああ、何だそんなことか。別に面白みもないだろうに」

「面白みもないのに見ちゃうのよねぇ……不思議」


 それはこっちのセリフなのだが――――まあ、いいか。


 気にしないようにしながら、作業を進める。

 火加減は初めてにしては悪くない。この分なら間もなく牛肉はちょうどいい焼き具合になるだろう。

 

「よし、こんなもんかな」


 俺はそれぞれの紙皿に焼けた肉を順番に置き、彩りで野菜も添える。

 BBQなのだから見た目なんぞ気にするなと言われるかもしれないが、作り手としてはやはり見た目から美味しく見えて欲しい。

 

「焼けたぞ。焼き肉のたれはそこにあるけど、もう塩胡椒で軽い味付けは済んでるからそのままでも美味いぞ」

「「「いただきます」」」

「おう、召し上がれ」


 かなり腹が減っていたようで、三人はがっつくように肉を頬張り始める。

 焼いただけとは言え、やはり自分の作った物に夢中になってくれるのは嬉しい。


「美味いか?」

「りんたろー君……本当にこれ焼いただけなのかい?」

「え? ああ、そうだけど」

「焼き加減が絶妙過ぎるよ……柔らか過ぎず硬過ぎずで丁度いい」

「へぇ、じゃあこの焼き加減はミアに合ってたみたいだな」

「焼き加減?」

「ほら、ステーキにも焼き加減ってのがあるだろ? ミディアムとか、ウェルダンとか」


 そんなおしゃれな言葉を使っているが、要は生焼けやこんがり焼くかの違いだ。ステーキ系のレストランへ行けば必ず店員から聞かれるレベルの基礎知識である。


「いや、それは分かるんだけど……まさかこんな時でもボクらの好みに合わせようとしている?」

「何言ってんだよ、当たり前だろ?」

「……恐れ入ったよ」


 不味い物を食わせるだなんて、そんなことは俺のプライドが許さない。

 美味い物を食わせるためだったら、俺の手間なんて構いやしないのだ。


「もう少しこう焼いてほしいって言うのがあれば遠慮なく言えよ。今焼いちまったのはもうどうしようもねぇけど、これから参考にするから」

「あ、じゃああたしもう少し焼いてもらえた方が好みかも。生の部分あんまり得意じゃないのよね」

「カノンはウェルダン、オーケー、覚えた」


 ウェルダンとは、ステーキで言うと中身が赤くなくなるまでしっかりと火を通した状態を意味する。

 ついでに玲に視線を向ければ、彼女は首を横に振った。


「私もこれくらいがいい。大満足」

「玲とミアはミディアム、っと。了解」


 ミディアムは中心部にわずかに赤みを残す程度の、ほぼ生であるレアと火を通した後のウェルダンの丁度中間にあたる状態を指す。


 これならカノンのだけ少し避けて焼けば良さそうだな。いくらでも手間はかけられると言ったが、少しでも削減されるならそれに越したことはない。


「ねぇ、ずっと焼くの任せちゃってるけど、りんたろーだってもっと食べたいんじゃないの? 何だったら代わるわよ、あたし」

「ん? 気遣いはありがたいけど、これは俺がやりたいことなんだ。もちろんカノンがやりたいって言うなら変わるけどな」

「まあそういうわけじゃないけど……まああんたがそう言うなら任せるわ。あんたよりも上手く焼ける気しないし」

「そりゃほめ過ぎだ」

「"ほめ過ぎ"って言うならそのどや顔やめなさいよ……」


 おっと、褒められて調子に乗っているのが顔に出てしまっていたか。

 

 恥ずかしくてはっきりと彼女たちに伝えたことはないが、俺がこうして料理を心の底から楽しいって思えるようになったのは、一重にこうして彼女たちが俺の料理を食べて感想をくれるからである。

 人を喜ばせるために作るって思えば思うほど、モチベーションはどんどん上がっていく。


 もっと美味いって言わせたい――――そんな欲求が、いつの間にか俺の行動源になっていた。


「どんどん食えよ。いくらでも焼いてやるから」


 いつになく上機嫌のまま、俺は追加の肉を網の上に置く。

 隙を見て自分も焼けた物を食べながら、俺たちは各々BBQを楽しんだ。


◇◆◇

「あー! お腹いっぱい! もう食べられないわ!」


 カノンのそんな声が、夜空にこだまする。

 自分が満腹であることをとにかくアピールしたいのか、椅子に深々と腰かけながら自身の腹をポンポンと叩いた。

 こんな姿、ファンには絶対見せられないんだろうなぁ。


「ありがとう、凛太郎。全部美味しかった」

「焼き加減には自信あったけど、結局は用意された食材たちのおかげだ。……俺の方こそ、三人の休暇なのに混ぜてくれてありがとうな。その……思ったよりも楽しかったよ」

「っ……そう、よかった」


 玲は安心したように笑みを浮かべる。


 俺の言葉に嘘偽りはない。

 気兼ねなく接することができる彼女らとの時間は退屈しないし、ビーチバレーでは散々な目に遭ったものの、友人同士で罰ゲームをかけて遊ぶだなんて俺の人生には今まで存在しなかった時間だ。

 楽しくないわけがなかった。


「……りんたろー君、そういう表情はずるいと思うよ?」

「あん? BBQ始める時からそうだったけど、今日のお前ら俺の顔面に物申しすぎじゃないか?」

「それはそうさ。だって君に原因があるんだからね」

「ええ……?」


 ミアにそう言われたとて、何のこっちゃ分からない。

 自分の表情なんて、鏡でもない限りは見えやしないのだから。


「さて、と。楽しい食事も終わったことだし、いつでも寝られるように準備しようか。寝る直前にシャワーを浴びなきゃいけないなんて面倒くさいだろうからね」


 もっともらしいミアの提案に、俺たちはそれぞれ同意を示す。

 まだ時刻は二十時に届くかどうかと言ったところ。まだまだ夜は楽しめる。そしてその時間を楽しみきるには、やらなければならないことはすべて終わらせておいた方がいい。


「りーんーたーろー?」

「何だよカノン、気持ち悪いな」

「もう少しオブラートに包んで罵倒してくれない⁉」

 

 呼び方が気持ち悪かったのだから仕方がない。

 何だか嫌な予感がしつつも、俺はカノンの言葉の先を促した。


「あんたさぁ、あたしたちの残り湯に浸かりたいとか思ってるんじゃないの~?」

「何でお前らの皮膚からにじみ出た油が浮いている湯に自分から入りたがらないといけないんだよ」

「言い方! 言い方!」


 家族でもちょっと嫌だなぁって思う時があるのだから、いくら相手が国民的アイドルだったとしてもそりゃ嫌悪感はありますとも。

 玲とだってお湯を共有したことはない。そもそも夏場は俺が湯船に浸からないため、共有しようがないのだ。

 残念ながら、このコテージでもそれは変わらない。俺は体を洗うだけ洗って終わりにするつもりだ。


「何だったら俺が最初に入ってこようか? 湯を張る前にさ」

「うーん……それじゃちょっとつまらないんだよねぇ」

「風呂につまるつまらないってあるのか……?」

「ほら、せっかく男女がこうして一つ屋根の下にいるのだから、ボクとしてはもっとドキドキハプニングが見たいというかさ」


 ああ、ミアがろくなことを考えていない時の顔をしている。

 そんなハプニングなんぞいらないから、ゆっくり体を洗わせてくれないだろうか。


「あ、じゃあこうしよう。りんたろー君、ここでボクはさっきの命令権を使うよ」

「おい……何を命令する気だ」

「ふふふ、ボクの入浴に最後まで付き合ってもらおうかなーって」


 からかうような表情で、ミアはそう告げた。



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