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15-3

「二人のミスだったし、再スタートはどっちからでもいいかな?」

「まあいいんじゃない? 双方で納得してれば」

「分かった。玲、どっちからがいい?」


 ミアと玲はそれぞれ話し合い、最終的にミアが打つことに決まった。

 手の中でボールを遊ばせたミアは、俺たちの顔を順番に見定めていく。


「さてと、再スタートの時にスパイクを打っちゃいけないなんてルールはなかったよね?」

「お前……まさか」

「今からボクは任意の相手にボールを叩き込むことができるんだけど、それぞれ命乞いはあるかな?」


 にっこりと黒い笑みを浮かべる彼女を前にして、俺たちは砂を擦るようにして一歩下がる。

 正面から打たれたら、玲とカノンなら捌けても俺ではまず捌ききれない。

 つまり俺だけは何としても標的から外れる必要がある。


「み、ミアに似合いそうって思った青い宝石のネックレスが駅前に売ってたのよねぇ……今度プレゼントしようかなぁなんて……えへへへ」

「ふむふむ、なるほどね」


 ミアはニヤニヤとカノンの話を聞いている。

 今になって、隣に立つ玲は後悔した顔をしていた。


「カノンが献上してくれる物は分かったよ。じゃあ、玲はどうかな?」

「……い、一緒に……辛い物を食べに行こう」

「おお! いつもボクが気になるって言っても頑なについてきてくれなかったのに……いいね、いい命乞いだ」


 何だよ辛い物って。

 そんなの俺がいくらでも作って――――そうだ、これだ。


「じゃあ最後にりんたろー君。何か言い残すことはあるかい?」

「……一週間、玲とは別にお前に対しても飯を作る」

「――――なるほど、なるほどなるほど! うん、決まったよ」


 ミアがボールを高く放り投げる。

 腕で勢いをつけた彼女は、強く踏み込んでその腕を振り上げた。

 

「ボクが狙うのは……君だ!」

 

 玲にもカノンにも引けを取らないスパイクが放たれる。

 そのボールの向かう先にいたのは――――カノンだ。


「何であたし⁉」

「ごめんカノン、そのネックレス自分で買っちゃった♪」

「ばかぁぁあぁああ! ウッ!」


 残念ながらカノンのレシーブは辛うじて間に合い、ボールはあらぬ方向へ弾かれる。

 方向的には俺の方へと飛んできているように見えるが、この勢いならアウトになるはずだ。

 勝利を確信し、俺は足を止める。


 しかし、悲劇はその時起こった。


 浜辺に強風が吹き荒れる。

 本来のバレーで使われる物よりも大きくて柔らかいボールは、その勢いに押されて急激に速度を落とした。

 その結果、外に出るはずだったボールの落下地点が円の中へとズレてしまう。


(まずい――――ッ!)


 ボールに一番近いのは俺だ。

 このまま落ちれば俺のミス。それだけは何としても防がなければならない。


「届けぇぇえ!」


 思わず叫びながら伸ばしたのは、足だった。

 スライディングの要領でボールの下に潜り込んだ俺の足は、確かな衝撃と共にボールを跳ね上げる。


(凌いだっ!)


 しかし、俺という男の快進撃はここまで。

 

 カノンがきちっと回転を殺して弾けなかったせいで、ボールにはまだ強い回転がかかっていた。

 足から離れたボールは内側へは飛ばず、しゅるしゅると円の外の砂の上に落下する。


「や――――やったやった! あたしの運舐めないでよね!」

「う、嘘だろ……」


 俺は目の前を転々と転がるボールを、ただ茫然と見ていた。

 自分が負けたこと、それだけは分かる。

 そんな俺の肩を、誰かが叩いた。


「りんたろー君、君の負けだね」

「……言われなくても分かるっつーの」

「さて、君へのお願いは何にしようかなー?」


 立ち上がった俺を見て、ミアとカノンはにやにやと笑っている。

 玲はそこまで露骨ではないが、手が明らかにガッツポーズの形になっていた。どうやら味方は一人もいなさそうだ。


「……お姫様方、願いをどうぞ」

「お姫様なんて気持ちのいいこと言ってくれるじゃないか。うーん、どうしようか、二人とも」


 姫扱いしたら少しは願いが軽くならないだろうか? 

 そんな俺の腹の内を知る由もない三人は、こそこそと目の前で相談を始める。


 逃げようかなぁ。その前に捕まりそうだけど。

 

「私は……今じゃなくていい。後に取っておきたい」

「お、そういうのもいいのかい? りんたろー君」


 今すぐ命令されないのもそれはそれで怖いが――――玲が一番無難なお願い事をしてきそうなイメージがある。

 後回しにできるのなら、それはそれで助かるかもしれない。


「別にいいよ。そのまま権利を忘れてくれりゃもっといいけどな」

「それはない。いつまでも覚えておく」

「……さいですか」


 玲が覚えておくと言ったら、本当にずっと覚えていそうなんだよなぁ。


「それが許されるなら、あたしも今はいいわ。この場所じゃ特に思いつかないんだもの」

「……だね、ボクもそれで」


 結局、誰も俺に命令を出すことはなかった。

 ただすべてが先延ばしになったということは、すなわち常に気を張り続けておかなければならないわけで――――。


「頼むから、お手柔らかにな?」

「善処する」

「善処するわ」

「善処しようかな」


 あー、これは駄目かも分からんな。


◇◆◇

 ビーチバレーの皮を被った悪魔のゲームが終わり、それからの俺たちは平和に海を楽しんでいた。

 泳ぎ回ってみたり、砂で城を作ることに挑戦してみたり、結局作れなくて集めた砂でカノンを埋めてみたり、スタッフさんが用意してくれていたらしいスイカをカノンに割らせてみたり、その過程でカノンにぐるぐるバットさせてみたり。

 日が暮れてきた頃にはさすがの体力バカ三人もクタクタの様子で、コテージへと帰ってきた。

 もちろん三人が疲れていて俺が疲れていないなんてことはなく、正直あまり動きたくないくらいには倦怠感が強い。


 しかしまだ俺にはやらなければならないことがある。


「野郎ども! バーベキューだ!」

「おー! 待ってたわ!」


 野郎どもではないというツッコミは置いておいて、俺たちは四人で協力しながら食材をコテージの外に備え付けられた調理場へと運んでいた。

 ソーセージやら何やらを含んだ肉類はどれも安物ではなく、それなりにしっかりとした加工がされた物ばかり。これを炭火で焼いたらさぞ美味かろう。

 

「凛太郎、肉いっぱい焼いて」

「待て待て。まだ火すら起こしてないんだからさ」

 

 玲の催促を押さえつけ、俺は炭と着火剤を用意する。

 

 こうして外で炭火を作るなんて作業はやったことがなく、実はひそかに憧れていたのだ。

 心を躍らせながら、コテージ内にあった火起こしマニュアルに沿って火を作っていく。初めてが故に中々うまく行かず、格闘すること十分と少し。ようやくまともな炭火が作れた時には、全身に達成感が駆け抜けた。


「凛太郎、男の子の顔してた」

「あん? そりゃ……男だしな」

「ん、そうじゃないんだけど……説明が難しい」

 

 どういう意味だろうか? まあ彼女自身も分かっていないわけで、それが俺に分かるわけもないか。


「三人とも待たせて悪かったな」

「ううん、問題ないよ。りんたろー君の夢中になっている顔を見てたら退屈しなかったしね」

「何だお前ら……顔のことばっかり」


 そんなに変な顔してただろうか?

 まあいい、今はともかく待たせた分だけ肉を焼いてやらないとな。

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