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マスターが用意してくれたアイスコーヒーを飲んで待っていると、VIPルームの扉が開いた。
「じゃーん! どうでしょうか! りんたろう先輩!」
そう言って飛び出してきたサナは、グリッターが散りばめられた美しいドレスを着ていた。
体にぴったり合う作りになっていて、彼女の整ったボディラインが綺麗に出ている。
丈は短めで、艶めかしい太ももが露わになっていた。
目のやり場には困るものの、端的に言って、よく似合っている。
「常連のキャバ嬢にお願いして、ドレスを用意してもらったのよぉ。サナちゃんがど~~~~しても必要って言うもんだからね」
「えへへ~、ほんと助かりました!」
マスターとサナがニヤニヤした顔を突き合わせていると、VIPルームの扉が再び開いた。
そして、扉の陰に隠れていたカノンが、恥ずかしそうに顔をのぞかせる。
「何やってるんですか! カノン先輩! 早く出てきてくださいよ!」
「わ、分かってるわよ! ……でも、恥ずかしいんだから、これ」
おずおずと出てきたカノンを見て、俺は息を呑んだ。
ワインレッドのマーメイドドレス。スカートにはがっつりとスリットが入っている。
鎖骨周りは大きく開いているものの、決して下品な印象はない。
年始に親父と会ったとき、カノンはフリルのついた可愛いらしいドレスを着ていた。しかし、今着ているドレスは、同じドレスでもまるで印象が違う。下ろした髪も相まって、大人の雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫かしら。あたしのイメージと違くない?」
「いや……似合ってると思うぞ……」
あまりに衝撃的すぎて、しどろもどろになってしまった。
ただ、それでも俺が本心で言っていると伝わったようで、カノンはほんのり頬を赤らめる。
「……そ。ありがと」
ミアのときと同じくらい、心臓が高鳴っている。
これがギャップの力なのであれば、きっとファンは大喜びだろう。
胸がズキッと痛む。
俺は最低なやつだ。この期に及んで、彼女たちのギャップある姿を、他人に見せたくないと思ってしまった。
「あの~……二人きりの世界に入らないでほしいんですけど」
不満そうに目を細めたサナが、俺とカノンを交互に見る。
おかげで冷静になれた俺は、咳ばらいをした。
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「まあまあ、まずは座ってください」
「え?」
サナに押された俺は、背後にあったソファーに腰掛ける。
すると、深く深呼吸したカノンが、突然俺の隣に座った。
「おい、なんの真似――――」
「凛太郎さん、おしぼりをどうぞ」
「……は?」
大人びた声を出しながら、カノンがおしぼりを差し出してくる。
よく分からないまま、俺はそれを受け取った。
「今日は何を飲まれます?」
おかしなトーンのまま、カノンは俺の前にメニューを広げる。
混乱する俺は、説明を求めてサナを見る。
「大人といえば、やはり〝接待〟でしょう! カノン先輩には、りんたろう先輩を相手に、大人のもてなしを学んでいただきます!」
「なんか色々と間違ってねぇか⁉」
カノンが俺の腕を引く。
「いいから、もう少し付き合いなさいよ」
「なんでお前もノリノリなんだよ……」
「べ、別にノリノリじゃないわ! でも……あんたにギャップをアピールするチャンスだと思って」
カノンの上目遣いに、再び鼓動が速くなる。
こんな顔をされてしまっては、断れないではないか。
「……分かったよ。で、注文すりゃいいんだな」
俺がそう言うと、マスターがそばまで来てくれた。どうやら、注文を聞きに来てくれたらしい。
カノンが開いたメニューは、ちゃんと未成年用だった。
ソフトドリンクの名前が並ぶ中で、俺はノンアルカクテルの欄に興味を惹かれる。
「じゃあ……このシャーリー・テンプルってやつで」
「かしこまりました」
マスターは、さっきまでの猫なで声とは違い、渋い声でそう言った。
――――全員乗り気なんかい……。
この状況に馴染めていないのは、俺だけのようだ。
「あたしも飲んでいいですか?」
「……いい、ですけど」
いつもより大人びているせいか、思わず敬語になってしまった。
カウンターにいるサナが、笑いを堪えているのが見える。
「じゃあ、同じものを」
マスターは頷いて、カウンターに戻る。
「凛太郎さんって、相変わらず男前ですよね。すごくモテるんじゃないですか?」
「な、何言ってんだ?」
俺が目を丸くしていると、カノンに太ももを抓られた。
いいから状況に合わせろと言いたいらしい。
「……別に、そんなことないと思うけど」
「謙遜しなくたっていいじゃないですか。最近告白とかされました?」
「まあ……一応?」
「「え?」」
何故か、カノンとサナの声が被った。
「ちょっとあんた! どういうことよ⁉ あたし聞いてないんだけど!」
目を見開いたカノンが、俺の肩を掴んで揺さぶる。
「お、おい、演技がブレてるぞ」
「今はそれどころじゃないわよ! 凛太郎! 説明しなさい!」
「分かったから揺らすな!」
「りんたろう先輩、私も詳しく聞きたいです! このままでは冷静でいられません!」
カノンと挟む形で、サナが俺の隣に座る。
そもそも、こいつが冷静であったときなどあっただろうか?
「あらま、これじゃあ恋バナパーティーになっちゃうわねぇ!」
楽しそうにしているマスターが、さっき注文した飲み物と、フライドポテトなどの軽食を持ってきてくれた。
三方向から、完全に退路を塞がれている。
仕方なく、俺は学校で起きたことを、ぼかしながら話すことにした。




