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74-3

 マスターが用意してくれたアイスコーヒーを飲んで待っていると、VIPルームの扉が開いた。


「じゃーん! どうでしょうか! りんたろう先輩!」


 そう言って飛び出してきたサナは、グリッターが散りばめられた美しいドレスを着ていた。

 体にぴったり合う作りになっていて、彼女の整ったボディラインが綺麗に出ている。

 丈は短めで、艶めかしい太ももが露わになっていた。

 目のやり場には困るものの、端的に言って、よく似合っている。


「常連のキャバ嬢にお願いして、ドレスを用意してもらったのよぉ。サナちゃんがど~~~~しても必要って言うもんだからね」

「えへへ~、ほんと助かりました!」


 マスターとサナがニヤニヤした顔を突き合わせていると、VIPルームの扉が再び開いた。

 そして、扉の陰に隠れていたカノンが、恥ずかしそうに顔をのぞかせる。


「何やってるんですか! カノン先輩! 早く出てきてくださいよ!」

「わ、分かってるわよ! ……でも、恥ずかしいんだから、これ」


 おずおずと出てきたカノンを見て、俺は息を呑んだ。

 ワインレッドのマーメイドドレス。スカートにはがっつりとスリットが入っている。

 鎖骨周りは大きく開いているものの、決して下品な印象はない。

 年始に親父と会ったとき、カノンはフリルのついた可愛いらしいドレスを着ていた。しかし、今着ているドレスは、同じドレスでもまるで印象が違う。下ろした髪も相まって、大人の雰囲気を醸し出していた。


「大丈夫かしら。あたしのイメージと違くない?」

「いや……似合ってると思うぞ……」


 あまりに衝撃的すぎて、しどろもどろになってしまった。

 ただ、それでも俺が本心で言っていると伝わったようで、カノンはほんのり頬を赤らめる。


「……そ。ありがと」


 ミアのときと同じくらい、心臓が高鳴っている。

 これがギャップの力なのであれば、きっとファンは大喜びだろう。

 胸がズキッと痛む。

 俺は最低なやつだ。この期に及んで、彼女たちのギャップある姿を、他人に見せたくないと思ってしまった。


「あの~……二人きりの世界に入らないでほしいんですけど」


 不満そうに目を細めたサナが、俺とカノンを交互に見る。

 おかげで冷静になれた俺は、咳ばらいをした。


「それで、これからどうするつもりなんだ?」

「まあまあ、まずは座ってください」

「え?」


 サナに押された俺は、背後にあったソファーに腰掛ける。

 すると、深く深呼吸したカノンが、突然俺の隣に座った。


「おい、なんの真似――――」

凛太郎さん(・・・・・)、おしぼりをどうぞ」

「……は?」


 大人びた声を出しながら、カノンがおしぼりを差し出してくる。

 よく分からないまま、俺はそれを受け取った。


「今日は何を飲まれます?」


 おかしなトーンのまま、カノンは俺の前にメニューを広げる。

 混乱する俺は、説明を求めてサナを見る。


「大人といえば、やはり〝接待〟でしょう! カノン先輩には、りんたろう先輩を相手に、大人のもてなしを学んでいただきます!」

「なんか色々と間違ってねぇか⁉」


 カノンが俺の腕を引く。


「いいから、もう少し付き合いなさいよ」

「なんでお前もノリノリなんだよ……」

「べ、別にノリノリじゃないわ! でも……あんたにギャップをアピールするチャンスだと思って」


 カノンの上目遣いに、再び鼓動が速くなる。

 こんな顔をされてしまっては、断れないではないか。


「……分かったよ。で、注文すりゃいいんだな」


 俺がそう言うと、マスターがそばまで来てくれた。どうやら、注文を聞きに来てくれたらしい。

 カノンが開いたメニューは、ちゃんと未成年用だった。

 ソフトドリンクの名前が並ぶ中で、俺はノンアルカクテルの欄に興味を惹かれる。


「じゃあ……このシャーリー・テンプルってやつで」

「かしこまりました」


 マスターは、さっきまでの猫なで声とは違い、渋い声でそう言った。


――――全員乗り気なんかい……。


 この状況に馴染めていないのは、俺だけのようだ。


「あたしも飲んでいいですか?」

「……いい、ですけど」


 いつもより大人びているせいか、思わず敬語になってしまった。

 カウンターにいるサナが、笑いを堪えているのが見える。


「じゃあ、同じものを」


 マスターは頷いて、カウンターに戻る。


「凛太郎さんって、相変わらず男前ですよね。すごくモテるんじゃないですか?」

「な、何言ってんだ?」


 俺が目を丸くしていると、カノンに太ももを抓られた。

 いいから状況に合わせろと言いたいらしい。


「……別に、そんなことないと思うけど」

「謙遜しなくたっていいじゃないですか。最近告白とかされました?」

「まあ……一応?」

「「え?」」


 何故か、カノンとサナの声が被った。


「ちょっとあんた! どういうことよ⁉ あたし聞いてないんだけど!」


 目を見開いたカノンが、俺の肩を掴んで揺さぶる。


「お、おい、演技がブレてるぞ」

「今はそれどころじゃないわよ! 凛太郎! 説明しなさい!」

「分かったから揺らすな!」

「りんたろう先輩、私も詳しく聞きたいです! このままでは冷静でいられません!」


 カノンと挟む形で、サナが俺の隣に座る。

 そもそも、こいつが冷静であったときなどあっただろうか?


「あらま、これじゃあ恋バナパーティーになっちゃうわねぇ!」


 楽しそうにしているマスターが、さっき注文した飲み物と、フライドポテトなどの軽食を持ってきてくれた。

 三方向から、完全に退路を塞がれている。

 仕方なく、俺は学校で起きたことを、ぼかしながら話すことにした。


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