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「で、次はどうするんだ?」
「え~自分で考えてくださいよぉ~子供じゃあるまいし」
「お前のプランで行くって話だろうが……!」
「やーん、りんたろう先輩こわーい」
下手くそな演技と共に、柴又は体をくねらせた。
――――うわぁ……ひっぱたきてぇ……。
「って、実はあまり時間に余裕がなかったりするんですよねぇ」
柴又はスマホを取り出し、何かを確認し始める。
この変わり身の早さ、もっとまともなことに使えないのだろうか。
「えっと……じゃあまずはこっちです! 最初は私についてきてください!」
「はぁ、分かったよ。ほら、行くぞ」
腕を引くと、相変わらず赤い顔をしているミアが、こくりと頷いた。
案内されたのは、女性向けのブランドの店だった。
可愛らしい服がずらりと並ぶ店内は、まるで俺の侵入を拒んでいるよう。
ミアと柴又のそばにいることで、ようやく居心地が悪い程度に納まっているが、長くいたら頭がクラクラしそうだ。
「まずはこの店で、ミア先輩にはお着替えしてもらいます!」
「お着替えって……ボクにはあんまり似合わないと思うけど」
少し不安そうな顔で、ミアは店内を見回している。
似合わないとは思わないが、普段のミアとイメージが違いすぎて、想像しにくいのは間違いなかった。
「ご安心を! コーディネートは、この私に任せてください!」
柴又が、自分の胸をドンと叩く。
すでに彼女のセンスを信じているミアは、ひとつ頷いた。
「まあ、もう大体目星はつけてるんですけどね」
そう言いながら、柴又は手慣れた様子で商品を手に取っていく。
あまりにもサクサクと進んでいくものだから、俺はついていくだけで精一杯だった。
「はい! 試着をお願いします!」
柴又は、選んだ服をミアに渡す。
「一セットしかないじゃないか。これだけでいいの?」
「問題ありません! 絶対似合いますから!」
ニッと笑った柴又に、ミアも安心したように笑った。
「あ、それとこれも持っていってください」
柴又は、追加で紙袋をミアに渡した。
「使い方は分かると思うので、中の指示書通りにセットしてください」
「了解。じゃあ、着替えてくるね」
ミアは小さく笑って、柴又が選んだ服と共に試着室へと入っていった。
「何を渡したんだ?」
「それは、ミア先輩が出てきてからのお楽しみです」
「はいはい。期待しとくよ」
肩を竦めた俺は、ミアの着替えが終わるのを大人しく待つことにした。
しばらくダラダラと雑談を繰り広げていると、試着室のカーテンが開いた。
そこから出てきた人物を見て、俺は混乱した。
「ど、どうかな……?」
長い黒髪をいじりながら、その少女はミアの声で問いかけてきた。
何が起きているのか分からず、俺はあんぐりと口を開ける。
シアー素材の白いトップスに、ショート丈の黒いワンピース。ウェーブのかかった長い髪は、いつものショートヘアから大きく印象が変わっていた。
「ほら、先輩。感想を言わないと」
「あ、ああ……なんつーか……見違えたな」
頬を赤らめながら、ミアは恥ずかしそうに視線を逸らす。
普段は見られない少女らしい可愛げのある仕草に、思わず胸が高鳴った。
「いやぁ! 見立て通りですねぇ! 絶対に似合うと思ってたんですよ! あ、ちなみにこのウィッグは、私がセットしておきました! ウェーブがかかったこの髪型は、ヨシンモリというもので、韓国語で〝女神ヘア〟という意味があります。上品でありながらも柔らかい印象を与えつつ、小顔効果もあるイマドキのヘアスタイルです! 皆様もぜひお試しを!」
「何言ってんだ?」
虚空に向かって話す柴又を訝しんでから、再びミアに視線を向ける。
本当に、別人のようだ。顔立ちは変わっていないはずなのに、いつもよりも可愛らしい印象になっている。これぞまさしく、ギャップというやつだろう。
柴又はふざけたやつだが、やはりセンスは抜群だ。
「なんか、スカートってこんなにスースーしたっけ?」
ミアは、眉尻を下げながら、短いスカートの裾を優しく引っ張った。
いつの間にか、俺はミアから視線が離せなくなっていた。
「……すげぇ似合ってるよ」
ふと、そんな言葉が口から漏れる。
すると、ミアは嬉しそうに笑みを浮かべた。
果たして、玲やカノンでも、俺の隣を歩くこの少女がミアであると気づけるだろうか。
「着替えたはいいけど……次はどうするんだい?」
「とあるお店を予約しているので、そちらに向かってもらいます。あ、大丈夫です。変なお店とかじゃないんで」
「君がそう言うと、逆に疑いたくなるよ……」
深々と頷いて、俺はミアに同意を示した。
「失敬な! 今日は真面目なサナちゃんですよ⁉」
「そうは思えねぇから言ってんだよ」
「そんなぁ! この澄んだ瞳を見てくださいよ! とても人を騙すような目には見えないでしょ⁉」
柴又は、きゅるんと口で言いながら、瞳を潤ませた。
拳に力が入る。落ち着け。落ち着くんだ。相手は女子、しかも後輩だ。こっちがイライラしたら負けである。
「なんにせよ、ボクらのために予約までしてくれたなら、無下にするわけにもいかないよね。凛太郎君、ボクは腹を括ったよ」
「まあ……お前がそう言うなら」
俺はため息をつき、ミアに手を伸ばす。
「……これは?」
「手ぇ繋ぐんだろ?」
ハッとしたミアは、ためらいがちに俺の手を取った。
そして、そっと指を絡めると、幸せそうに頬を緩める。
その顔は、いくらなんでも反則だろ。




