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73-4

「で、次はどうするんだ?」

「え~自分で考えてくださいよぉ~子供じゃあるまいし」

「お前のプランで行くって話だろうが……!」

「やーん、りんたろう先輩こわーい」


 下手くそな演技と共に、柴又は体をくねらせた。


――――うわぁ……ひっぱたきてぇ……。


「って、実はあまり時間に余裕がなかったりするんですよねぇ」


 柴又はスマホを取り出し、何かを確認し始める。

 この変わり身の早さ、もっとまともなことに使えないのだろうか。


「えっと……じゃあまずはこっちです! 最初は私についてきてください!」

「はぁ、分かったよ。ほら、行くぞ」


 腕を引くと、相変わらず赤い顔をしているミアが、こくりと頷いた。



 案内されたのは、女性向けのブランドの店だった。

 可愛らしい服がずらりと並ぶ店内は、まるで俺の侵入を拒んでいるよう。

 ミアと柴又のそばにいることで、ようやく居心地が悪い程度に納まっているが、長くいたら頭がクラクラしそうだ。


「まずはこの店で、ミア先輩にはお着替えしてもらいます!」

「お着替えって……ボクにはあんまり似合わないと思うけど」


 少し不安そうな顔で、ミアは店内を見回している。

 似合わないとは思わないが、普段のミアとイメージが違いすぎて、想像しにくいのは間違いなかった。


「ご安心を! コーディネートは、この私に任せてください!」


 柴又が、自分の胸をドンと叩く。

 すでに彼女のセンスを信じているミアは、ひとつ頷いた。


「まあ、もう大体目星はつけてるんですけどね」


 そう言いながら、柴又は手慣れた様子で商品を手に取っていく。

 あまりにもサクサクと進んでいくものだから、俺はついていくだけで精一杯だった。


「はい! 試着をお願いします!」


 柴又は、選んだ服をミアに渡す。


「一セットしかないじゃないか。これだけでいいの?」

「問題ありません! 絶対似合いますから!」


 ニッと笑った柴又に、ミアも安心したように笑った。


「あ、それとこれも持っていってください」


 柴又は、追加で紙袋をミアに渡した。


「使い方は分かると思うので、中の指示書通りにセットしてください」

「了解。じゃあ、着替えてくるね」


 ミアは小さく笑って、柴又が選んだ服と共に試着室へと入っていった。


「何を渡したんだ?」

「それは、ミア先輩が出てきてからのお楽しみです」

「はいはい。期待しとくよ」


 肩を竦めた俺は、ミアの着替えが終わるのを大人しく待つことにした。

 しばらくダラダラと雑談を繰り広げていると、試着室のカーテンが開いた。

 そこから出てきた人物を見て、俺は混乱した。


「ど、どうかな……?」


 長い黒髪(・・・・)をいじりながら、その少女はミアの声で問いかけてきた。

 何が起きているのか分からず、俺はあんぐりと口を開ける。

 シアー素材の白いトップスに、ショート丈の黒いワンピース。ウェーブのかかった長い髪は、いつものショートヘアから大きく印象が変わっていた。


「ほら、先輩。感想を言わないと」

「あ、ああ……なんつーか……見違えたな」


 頬を赤らめながら、ミアは恥ずかしそうに視線を逸らす。

 普段は見られない少女らしい可愛げのある仕草に、思わず胸が高鳴った。


「いやぁ! 見立て通りですねぇ! 絶対に似合うと思ってたんですよ! あ、ちなみにこのウィッグは、私がセットしておきました! ウェーブがかかったこの髪型は、ヨシンモリというもので、韓国語で〝女神ヘア〟という意味があります。上品でありながらも柔らかい印象を与えつつ、小顔効果もあるイマドキのヘアスタイルです! 皆様もぜひお試しを!」

「何言ってんだ?」


 虚空に向かって話す柴又を訝しんでから、再びミアに視線を向ける。

 本当に、別人のようだ。顔立ちは変わっていないはずなのに、いつもよりも可愛らしい印象になっている。これぞまさしく、ギャップというやつだろう。

 柴又はふざけたやつだが、やはりセンスは抜群だ。


「なんか、スカートってこんなにスースーしたっけ?」


 ミアは、眉尻を下げながら、短いスカートの裾を優しく引っ張った。

 いつの間にか、俺はミアから視線が離せなくなっていた。


「……すげぇ似合ってるよ」

 ふと、そんな言葉が口から漏れる。

 すると、ミアは嬉しそうに笑みを浮かべた。



 果たして、玲やカノンでも、俺の隣を歩くこの少女がミアであると気づけるだろうか。


「着替えたはいいけど……次はどうするんだい?」

「とあるお店を予約しているので、そちらに向かってもらいます。あ、大丈夫です。変なお店とかじゃないんで」

「君がそう言うと、逆に疑いたくなるよ……」


 深々と頷いて、俺はミアに同意を示した。 


「失敬な! 今日は真面目なサナちゃんですよ⁉」

「そうは思えねぇから言ってんだよ」

「そんなぁ! この澄んだ瞳を見てくださいよ! とても人を騙すような目には見えないでしょ⁉」


 柴又は、きゅるんと口で言いながら、瞳を潤ませた。

 拳に力が入る。落ち着け。落ち着くんだ。相手は女子、しかも後輩だ。こっちがイライラしたら負けである。


「なんにせよ、ボクらのために予約までしてくれたなら、無下にするわけにもいかないよね。凛太郎君、ボクは腹を括ったよ」

「まあ……お前がそう言うなら」


 俺はため息をつき、ミアに手を伸ばす。


「……これは?」

「手ぇ繋ぐんだろ?」


 ハッとしたミアは、ためらいがちに俺の手を取った。

 そして、そっと指を絡めると、幸せそうに頬を緩める。

 その顔は、いくらなんでも反則だろ。


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