表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265/280

73-2

 弁当を持ってくると、柴又は石畳にタオルを敷いて座っていた。


「あ、りんたろう先輩! さあさあこちらへ」

「用意がいいな……」

「どうぞ遠慮なく」


 エスコートに従い、俺はタオルの上に座る。

 意外と悪くない座り心地だった。


「では、早速! いただきます!」


 柴又は手を合わせ、弁当箱を開けた。

 メインは、ヤンニョム風鶏むね肉。それから、付け合わせにほうれん草、もやし、ニンジンのナムル。それから、卵焼きと、ちくわきゅうり。

 アイドルは体が資本ということで、しっかりタンパク質を取れるメニューにしてある。

 米は玄米にして、血糖値の上昇が緩やかになるように。自分で言うのもなんだが、栄養も味も、かなり整っていると思う。まさに会心の出来と言っていい。


「おわぁあ……なんて豪華なお弁当……」

「なんつー声を出してんだ」

「し、仕方ないじゃないですか! お昼なんて、大体学食かコンビニなんですから!」 


 柴又のあまりの感動っぷりに、思わず笑ってしまう。


「何かおかしなことでも⁉ 今ボケてなかったですよね⁉」

「悪い悪い。俺の弁当で感動してくれたのが、なんか嬉しくてな」

「もう! からかわないでくださいよ!」

「お前がそれを言える立場か?」


 俺の疑問を無視して、柴又は弁当を食べ始めた。

 ボケるのはいいが、投げっぱなしにするのはいかがなものか。


「う、うっまぁ! なんですかこのむね肉! むちむち! やわやわ! ぷっるっぷる! しかもピリ辛でご飯が進む味!」


 柴又が、パクパクと玄米を口に運ぶ。

 その姿に目を奪われていると、柴又は恥ずかしそうに口元を手で隠した。


「なんでそんなに見つめるんですか⁉ もしかして分けてほしいんですか⁉ ダメダメ! 絶対あげませんからね!」

「いらねぇよ。自分の分あるし」

「じゃあなんですか!」

「悪い悪い。別に見つめてるつもりはなかったんだが……お前が美味いって食ってくれるのが、すげぇ嬉しくてな」


 人を笑顔にすることが、子供の頃の夢だった。

 一度は挫折したが、料理と出会ったことで、少しでもその夢に近づくことができている。

 そんなの、嬉しくないはずがない。


「……りんたろう先輩って、結構可愛い感じで笑うんですね」

「え、そうか?」

「なるほどなるほど、先輩方がゾッコンなわけです」


 柴又は頬を赤らめ、急にそっぽを向いてしまった。

 気に障ったわけではなさそうだが、一体どうしたというのか。


「――――そうだ、りんたろう先輩」

「ん?」

「一個、真面目な相談があるんですけど」

「……衣装のことか?」


 柴又が、真剣な顔で頷く。


「制作の進捗ですが……正直言って、かなり行き詰まってます」

「そうか……」


 実のところ、衣装制作が進んでいないことは、玲たちからも聞いている。

 アイデアはかなり集まったが、結局どういったコンセプトで攻めるか、決めあぐねているらしい。状況だけ見たら、一週間前と大きな差はないことになってしまう。


「我儘で申し訳ないんですけど、こう、なんというか……がつーん! と来る感じというか、これだっ! って確信するようなアイデアがないと、手が動かなくて……もう先輩たちからは色々意見を貰ったりしてるんですけど、まだまだ湧いてくれないんです。インスピレーションってやつが」

「うーん……難しい相談だな」


 俺は、創作者ではない。

 芸術のことはさっぱりだし、柴又が何を言っているのかさえも、ぶっちゃけ理解できない。

 ただ、苦しんでいることは分かる。素人が口出しできる問題じゃないことも分かっているが、それでも、手を貸したいと思ってしまう。


「確か、次の衣装はギャップをコンセプトにしたいんだよな?」

「はい……」

「だったら、もっとあいつらの日常に寄り添ってみるとかどうだ?」


 柴又は、玲たちの意外な一面を知って、それを衣装で演出することを提案した。

 ただ、その意外な一面が生まれた背景については、まだよく知らないはず。

 たとえば、カノンが実は一番大人びている理由は、弟たちの面倒をよく見ているから、とか。

 ひたすらデザイン案を出すのではなく、まずはそのギャップを深掘りして、柴又自身が玲たちのことをもっとよく知る。そうすることで、また別のアイデアが浮かぶかもしれない――――と、思ったのだが。


「それです……」

「え?」

「それですよ! さすがりんたろう先輩! 脳みそにビビッと来ました!」


 丁寧に弁当箱を置いた柴又が、突然俺の手を掴む。

「私はまだまだ先輩たちのことをよく知りません! そんな状態で、ギャップを上手く表現しようなんて愚の骨頂! 私はなんて愚かだったんでしょうか!」

 柴又は、悔しそうに拳を握りしめた。

 ふざけているのかと思いきや、本気で悔やんでいるらしい。


「ありがとうございます! りんたろう先輩! おかげで光明が見えました!」

「そ、そりゃよかった……」

「居ても立っても居られません! すぐにでも先輩たちに連絡しなければ! あ! りんたろう先輩にも、引き続き協力してもらいますからね!」

「別にいいけど、一体何をしようってんだ?」

「それは秘密です」

「言えよ」


 俺が必ず協力するものだって思い込んでないか?

 ……まあ、断るつもりはないけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ