72-4
「すごいよ……君の熱意は、ボクらの想像以上だ」
「ええ、相談してよかったわ」
「本当ですか? いやぁ、私も先輩たちに頼ってもらえて嬉しいです! あ、これでブルマも近づきましたよね⁉」
「ま、まあ……そうなるわね」
カノンが、複雑そうな顔をしている。
「あの、図々しくて申し訳ないんですけど……ここまで来たら、デザインの原型まで、私に作らせてもらえませんか?」
柴又の顔が、再び真剣なものに戻った。
「私が一から衣装を作って、それを事務所の人たちとも共有してもらうんです。もしも認められたら、その衣装をもとに、正式な衣装を作ってもらえたらって」
「衣装を作るって……まさか、君が手作りするってことかな」
「はい! 裁縫には自信があるんです」
そう言うと、柴又はスマホを差し出した。
そこには、彼女が制作したと思われる、様々な衣装の写真があった。
「すごい、売りもの以上かも」
「一着一着、愛と真心と欲望が詰まってますから!」
余計なものも入っているようだが、確かにこれはすごい。
簡単な裁縫なら俺もやるが、こんな精巧な衣装は作れる気がしない。
この技術があれば、優月先生も資料に困らなさそうだな。
「願ってもない提案だ。ぜひ君にお願いしたい」
「喜んで! それで……採用された暁には、報酬のほうも少し弾んでいただけたらと」
ゲヘゲヘしながら、柴又がミアにすり寄る。
褒めようと思うと、すぐこれだ。まさに残念美人というやつである。
「……仕方ない。ここまでしてもらえるなら、ボクらも考えないわけにはいかないな。一体何が望みだい?」
「ありがとうございます! じゃあ、りんたろう先輩にも、自由に衣装を着させられる権利をください!」
「ふむ、いいだろう」
「よくなぁああああい!」
俺は、反射的に立ち上がっていた。
「俺が衣装を着たってなんにもならねぇだろうが! つーかなんでミアが許可出してんだよ!」
「そりゃ……ボクも凛太郎君のかっこいいところが見たいし」
「お前なぁ……!」
俺が青筋を浮かべていると、近くに座っていたカノンが、スッと手を挙げた。
「待ちなさいよ。さすがに一方的すぎるわ」
「カノン!」
ここに来て、カノンが味方してくれるとは。
俺の救世主は、どうやらこいつだったようだ。
「まずは何を着せるかよ! それ次第では許可するわ!」
「裏切り者!」
俺の怒鳴り声を意に介さず、カノンは真っ直ぐ柴又を見つめている。
柴又は、したり顔でカノンに近づいた。
「タキシード、燕尾服、女装まで、お嬢様方のお望みのものをご用意いたしますよぉ」
「お、王子様の服とかも……⁉」
「もちろん! 私にかかれば間違いありません」
「許可! 許可するわ!」
「いつもご贔屓にどうも!」
顔を突き合わせ、カノンと柴又はゲスな笑い声を漏らす。
おかしい。この中に俺の味方はいないのか。
「凛太郎」
「玲……?」
頭を抱えていると、玲が俺の肩に手を置いた。
「安心してほしい。できるだけ恥ずかしくない衣装にする」
「最初から敵じゃねぇか!」
ダメだ、もう何も信じられん。
「実際のところ、どうかな? 凛太郎君」
「……柴又は本気で言ってんのか?」
げんなりした顔でそう訊くと、柴又は頭が取れるかと思うくらい激しく首を上下に振った。
「そりゃもう大真面目ですよ! りんたろう先輩も私からしたらビジュ百点です! 射殺されるかと思うような鋭い目つき! ずっと怒ってるみたいな眉間の皴! ムスッとした口! 全部最高です!」
「お前、もしかして俺のこと嫌い?」
それならそうと言ってほしい。こっちも納得できるから。
「さすがサナだね。凛太郎君の愛くるしいところ全部分かってる」
「見る目があるわねぇ」
「あなたは私たちの仲間」
俺を放置して、三人は柴又と肩を組みにいった。
味方ゼロという状況に諦めた俺は、ため息と共にソファーに沈み込んだ。
「分かったよ。もう好きにしろ」
「っ! ありがとうございます!」
柴又は俺に飛びついてきて、無理やり握手をする。
玩具にされるなんて、普段なら絶対に突っぱねているが、これもミルスタのためだ。
――――それにしても、そんなに目つき悪いのか……俺。
別に、そこまで気にしているわけではないが。本当に、気にしているわけではないのだが。
「あ……お腹空いた」
四人が俺の容姿の話で盛り上がっていると、突然我に返ったかのように、玲がそう言いだした。
気づけば、結構時間が経っていた。そろそろ準備しないと、夕飯の時間に間に合わない。
「うぇ⁉ もうこんな時間ですか⁉ まだ話したりないのに……」
時計を確認した柴又が、残念そうに肩を落とす。
「……凛太郎君、今日の夕飯って、ひとり分増えても問題ないかな?」
「ああ、量は調節できる」
ミアの意図を理解した俺は、すぐにそう返した。
「サナ、よかったらご飯食べていかない? 衣装について、もう少し話しておきたいし」
「え⁉ いいんですか⁉」
暗い顔から一転、柴又は目を見開いて、ミアのほうに身を乗り出した。
「一応訊いておくけど、君の家は大丈夫?」
「はい! 父上も母上も最近帰りが遅いので、全然大丈夫ですっ!」
「ご両親のこと、そうやって呼んでるの……?」
ツッコミどころはあったが、家の人に怒られるということはないらしい。
俺は立ち上がり、お気に入りのエプロンをつけた。
クリスマスのプレゼントで三人が用意してくれた、メンバーカラーの星がついた黒いエプロンだ。
「あ、あの、まさかとは思ったんですけど……りんたろう先輩が作るんですか⁉」
「ああ、まあな」
「マジですか⁉ ギャップありすぎですよ!」
「悪かったな、料理しなさそうなツラで」
「むしろどちゃくそ萌えます」
「どちゃくそ……?」
言葉の意味は分からないが、どうやら肯定的に見てくれるらしい。
「料理男子なんて最高の響きじゃないですか! ますます燕尾服を着せたくなりますねぇ……」
柴又は、じゅるりと涎を拭う仕草をする。
その欲望に支配された顔は、とてもアイドルとは思えなかった。
「『おかえりなさいませ、お嬢様』なんて言わせちゃったりして! きゃー!」
「「「きゃー!」」」
「お前らは乗っかるんじゃねぇよ!」
悪ノリしている四人を叱るが、まったく聞き入れようとしない。
俺は諦めのため息をつく。果たして、今日何回目のため息だろうか。ため息と共に、本当に幸せが逃げるとしたら、とっくにもぬけの殻になっていることだろう。
「お前、食べられないものはあるか?」
「……フライパン?」
「いつ俺が『パンはパンでも』って言ったよ」
「特にありません!」
「初めからそう言え……!」
めちゃくちゃツッコミ疲れた。
俺はふらつく足を支えながら、キッチンへ向かった。




