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70-6

 翌日。俺は違和感と共に目を覚ました。


「……どうなってんだ、コレ」


 左腕に、玲が抱き着いている。ホテルの館内着が少しはだけており、魅惑の谷間が俺の視線を掴んで離さない。

 誘惑を振り払うように、無理やり視線を外す。

 するとその先に、ミアの姿があった。俺の右腕にしがみついている彼女は、規則正しい寝息を立てている。

 それと、もうひとつ。布団の中に、妙な重みがあった。恐る恐る布団をめくると、そこには俺に覆いかぶさるように、うつ伏せでスヤスヤと寝ているカノンがいた。

 玲がくっついているのは分かる。昨日、寝ぼけた彼女がくっついてきたのを、はっきりと覚えている。しかし、二人までくっついているのは、意味が分からない。

 いくら寝相が悪くても、ベッドからここまでくることは不可能だ。


「んん……」


 俺が動けないでいると、ミアが目を覚ました。

 パチパチと瞬きを繰り返したあと、ミアは納得した様子で「ああ」と呟いた。


「おはよう、凛太郎君」

「おはよう、じゃねぇよ」

「夜中に目を覚ましたら、二人が君に抱き着いて寝てたんだ。ボクだけ仲間外れっていうのも癪だったから、思わずね」

「事情なんてどうだっていいんだよ! さっさと離れろ……!」

「まあまあ、朝からそんなにカッカしてたら、体に悪いよ? むしろ、今はこのハーレムを楽しんだほうがいいんじゃない?」


 ニヤリと笑い、ミアはさらに体を寄せてくる。

 二つのふくらみが、腕に押しつけられた。

 くそっ、叱ってやりたいのに、急に思考が乱れ始めた。


「っと、危ない。そういえば、男の子って朝はケダモノになっちゃうんだっけ」


 わざとらしく言ったミアは、スッと俺から離れた。


「君から熱い衝動をぶつけられるのは一向に構わないんだけど、さすがに二人がいる前じゃ困っちゃうからね。続きはまた今度、ゆっくりね」

「次なんかねぇよ……」


 俺がげんなりしていると、ミアはクスクスと笑いながら、洗面所のほうへ消えていった。

 さあ、残りは二人。

 ミアと違って、こいつらは寝起きが悪い。簡単に退いてくれたらいいのだが――――。


「おい、お前ら」

「んー……ちょっとぉ、抱き枕は抱き枕らしくしてなさいよぉ……」

「なっ⁉」


 急に、カノンが俺を強く抱きしめた。

 この密着はまずい。早々に退いてもらわなければ、色々な意味で最悪な状況になる。

 昨日の風呂からそうだが、こいつらのスキンシップはどうしてこうも過激なのだ。

 ファンが知ったら本当に泣くぞ。

 なんとかカノンを退けようとするが、右手一本では、しがみつく彼女を引き剥がすことができない。


――――せめて、左手が自由になれば……。


 先に玲を起こそうと、左手を動かす。

 すると、玲は寝苦しそうに体を揺らし、ただでさえこぼれそうになっていた胸が、ますます危険な状態になってしまった。

 ダメだ。このままでは、左手も下手に動かせない。


「ふぅ……。あれ、まだその状態なの?」


 顔を洗って戻ってきたミアは、ムスッとした様子で俺のそばにしゃがみ込んだ。


「ボクのことは早々に追い出したくせに、二人の温もりは堪能するなんて、ちょっと傷ついちゃうなぁ」

「バカ言うな! 俺を助けろ!」

「すごい、マンガでしか聞かないようなセリフだね」


 こいつに助けを求めるのは危険だが、ここは仕方がない。

 俺の声色で切羽詰まっていることを理解したミアは、すぐにカノンを引っぺがしてくれた。

 ようやく重みから解放された俺は、玲の腕を解き、なんとか布団から脱出する。


「ふふっ、朝から災難だったね」

「お前もその災難の中に入ってるぞ」

「おや、恩人にそんなこと言っていいのかい?」


 ニヤニヤしながら、ミアは俺に身を寄せてきた。

 だからこいつに借りを作るのは嫌だったのだ。


「さーて、この貸しは何で返してもらおうかなぁ?」

「……お手柔らかにな」


 俺から言えることは、もうそれだけだった。


「つーか、こいつらはいつまで寝てんだ?」


 これだけ俺たちが騒いでいるのに、カノンと玲はまったく起きる気配がない。

 仕方ない、いつもの手を使うか。


「もう飯の時間終わっちまうぞ」

「「え⁉」」


 同時に目を見開いた二人は、慌てた様子で周囲を見回す。


「嘘でしょ⁉ 最悪!」

「朝食を逃すなんて、一生の恥」


 絶望している二人の姿を、俺とミアは揃って笑う。

 さっきはテンパって忘れていたが、最初からこうしていればよかったな。


「これで起きたかな? 安心しなよ。まだ朝食の時間は終わってないから」

「……驚かさないでよ」


 カノンが不満げに頬を膨らませる。

 その隣で、玲の腹からも、不満げな音が聞こえてきた。


「食べ損ねたって思ったら、ますますお腹空いた」

「あたしも。さっさと変装して向かうわよ!」


 あれほど寝ぼけていたはずなのに、三人はテキパキと準備を進めていく。

 間もなく、すっかり別人となった三人と共に、俺はビュッフェの会場へと向かった。

 ビュッフェの会場は、一階のレストランである。すでに多くの宿泊客がおり、ガヤガヤと騒がしい。


「よし、全種類食べ尽くすわよ!」

「おー」


 席に案内された途端、三人は早速料理を取りに向かった。

 ひとまずドリンクバーからコーヒーを持ってきた俺は、荷物番をしながらのんびりと店内を眺める。

 メニューは、和洋折衷なんでもござれ。俺も色々と楽しみたいところだが、あいつらと違って、寝起きだとあまり食欲が湧かない。もう少し時間を置けば、体が空腹であることに気づいてくれるだろう。それまでは、しばし我慢のときだ。


「大量大量!」


 しばらくすると、三人が大量の料理を確保して戻ってきた。

 サラダ、ソーセージ、唐揚げ、生姜焼き、オムレツ、白米、味噌汁、ピザ、焼きたてのパン、その他諸々――――。

 あまりにも山盛りに持ってきたものだから、近くを通りかかった宿泊客が、一瞬ギョッとした目でこっちを見た。俺も、こいつらのことを知らなければ、同じ反応をしていただろう。


「凛太郎は食べないの?」

「あとで食べるつもりだったけど、お前らの皿を見てるだけで、腹いっぱいになりそうだ」


 回転寿司で、流れている寿司を見ているだけで、何故か満腹になることがあるだろう。今、それと同じ現象を味わっている。


「もったいないわねぇ。めちゃくちゃ美味しいのに」

「分かってる。あとで食うって」


 苦笑いを浮かべながら、三人が食べるところを見守る。

 三人が持ってきた料理は、瞬く間に減っていき、すぐに取り皿の底が見えた。


「おかわり行ってくる」

「あたしも!」

「ボクも」


 皿が空になった途端、三人は再び獲物を探しに行ってしまった。


――――よく食うなぁ……。


 このままでは、本当に店の料理を食べ尽くしてしまうかもしれない。

三人を見ているうちに、ようやく俺の腹が空腹を訴えてきた。

 ここからが、巻き返しのとき。まあ、どう足掻いても、あいつらの食べる量を上回ることはできないのだが。


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