69-4
「凛太郎君、大丈夫かい?」
「ん?」
ベンチに腰掛けた途端、ミアが俺の顔を覗き込んできた。
「ほら、結構荷物が増えちゃったからさ」
ベンチを占領している荷物たちを見て、ミアは苦笑した。
あれから、三人は色々なものを買った。服に、アクセサリーに、消耗品。
それを運び続けた俺を労うために、玲とカノンが、カフェに飲み物を買いに行ってくれた。
俺とミアは、荷物番である。
「まだまだ余裕だよ。これ以上増えたら分からねぇけどな」
「そっか。じゃあ気をつけないとね」
「冗談だよ。もうちょい持てる」
俺は胸を張り、腕の力こぶを叩いた。
実際、すでに腕ははち切れそうなくらいパンパンだが、見栄を張りたくなってしまうのが男の子というものだ。
「さすが、頼りになるね」
ミアは目を細め、俺の隣に座った。
周囲の荷物のせいか、なんだか距離が近い。
「はたから見たら、ボクらもカップルに見えるのかな」
思わずギョッとする。
いつの間にか、周囲のベンチはカップルだらけになっていた。
これでは、俺たちも同じと思われたって仕方ない。
「さ、さあな」
「おや、動揺しちゃった? からかうつもりはなかったんだけど」
クスクスと笑うミアに、ジト目を向ける。
「からかわない代わりに、荷物持ちを引き受けたつもりだったんだけど?」
「ごめんごめん。本当にからかうつもりはなかったんだって」
日頃の行いのせいで、簡単には信じられない。ただ、特段責めるようなことでもないし、俺は引き下がった。
「まったく……お前は紛らわしいんだよ」
「つい願望が漏れちゃってね。気をつけるよ」
ミアは、ほのかに赤くなった頬を指で掻いた。
本気で照れている様子に、本当にからかう気はなかったのだと察する。
察した上で、俺は頭を抱えそうになった。普段飄々としている分、素直になった瞬間の破壊力は脅威的。むしろ、からかわれるほうが、こっちが冷静でいられるだけマシに思えた。
――――油断ならねぇな……。
俺は気合いを入れ直す。こんなことで動揺していたら、自制心が持たない。これからも、こいつらとの共同生活は続くのだから。
「……そういえば、さっき明日のホテルについて調べてたんだけど」
突然話が変わり、俺は嫌な予感を覚えた。
「どうやら、客室露天があるらしいんだよね。せっかくだし、入ってみたいよね、凛太郎君」
ミアは、そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべた。
こいつ、本当に懲りねぇな……。
それから、もう少しだけ店を回って、俺たちは帰路についた。
家に着く頃には、俺の両腕はほぼ使いものにならなくなっていた。まあ、筋トレと思えば、この疲れも悪くはない。
「ありがとう、凛太郎。とても助かった」
「どういたしまして」
ソファーに深く腰掛け、戦利品を整理する玲に手を振った。
「ボクは早速パッキングしてくるよ」
「あたしもー。早めにやっとかないと間に合わなくなりそうだし」
「ん、私も」
ミアとカノンに続いて、玲が立ち上がる。
それを見て、俺も思わず立ち上がった。
「どうしたの?」
「いや……玲のパッキングを手伝おうかと」
玲のガサツさで、ちゃんとパッキングができるのか心配でならない。
下手したら、キャリーケースに無理やり詰め込んで終わり、なんてことになりかねない。
故に、俺のサポートが必要だと思ったのだが、玲は黙って首を横に振った。
「大丈夫。パッキングなら何度も経験があるから」
言われてみれば、俺と暮らすようになる前から、玲にはツアーの経験がある。
パッキングはお手のものということらしい。
「それに……まだ見せられないものもあるし」
「ん?」
「なんでもない」
何かを呟いたのち、玲はミアたちと一緒にリビングを出ていった。
まさかあいつ、また何か企んでいるんじゃないだろうな?
妙な予感がして、一瞬あとを追うかどうか悩んだが、大人しくソファーに座り直した。あいつだって、疑われるのは気分が悪いだろう。
色々なことに巻き込まれてきたせいで、変に勘繰ってしまった。
きっと気のせいだろう。俺は、玲を信じることにした。




