66-3
「もう一回エクレアを渡すのもどうかと思ってさ。材料が余ってたから、とりあえずチョコレートマカロンを作ってみた。身近な連中だけに渡そうと思って」
「ま、マカロンって、家で作れんのか⁉」
「まあな。ちょっと難しい工程があるけど」
マカロンは、主にメレンゲで作る洋菓子である。
その調理工程の中に、マカロナージュと言って、生地に滑らかさとツヤを出すものがある。
やり方が少々複雑で、生地をボウルに押しつけるようにして混ぜ、メレンゲの泡を潰していく必要がある。
このとき、ちょうどいい塩梅を見極めなければならず、やりすぎてもダメ、やらなさすぎてもダメという、絶妙な加減が必要だった。
「え……これ、本当に手作りか?」
袋からマカロンを取り出した祐介は、まじまじと眺め始める。
あまりにも観察するものだから、少し恥ずかしくなってきた。
「凛太郎の作ったものなら、いくらでも食べられるよ……! いただきます!」
雪緒がマカロンに噛りつく。
その途端、雪緒の顔に笑みが咲いた。
「美味しい……! サクッとしてるのに、じゅわっと溶ける感じ! 中のクリームも、ちょうどいい甘さで食べやすいよ!」
「マジか……! オレもオレも!」
竜二が、マカロンを口に放り込む。
そして、突然叫び声をあげた。
「うおぉぉぉおお! うめぇぇぇええ!」
俺は、慌てて竜二を押さえつけた。
「バカ! 注目されるだろうが!」
「わ、わりぃわりぃ。めちゃくちゃ美味かったもんでよ」
そう言ってくれるのはありがたいが、注目されるのはごめんだ。
「こんなに美味かったら、竜二が叫びたくなる気持ちもよく分かるけどな」
食べカスが落ちないよう、慎重にマカロンを口に運んだ祐介は、苦笑いを浮かべながらそう言った。
「エクレアも美味かったし、本当にすごいな、凛太郎」
「……どーも。そうだ、ついでにお前らに渡しとくよ」
祐介と竜二に、もうひと袋ずつマカロンを渡す。
「おかわりか?」
「ちげぇよ。それはお前らの彼女の分だ。二人だけに渡すのも、ちょっと悪いと思ってさ」
「凛太郎……! お前ほんといいやつだなぁ!」
「ぐわっ⁉ やめろ! 暑苦しい!」
しがみついてくる竜二を、俺は必死に振りほどいた。
◇◆◇
「乙咲さん、これよかったら食べて?」
「ありがとう」
クラスの女の子から受け取ったチョコを、鞄の中にしまう。
「じゃあ、代わりにこれ」
「え⁉ ありがとう!」
お返しとして彼女に渡したのは、市販のチョコレートだった。
手作りのチョコをもらっておいて申し訳ないけど、こっちは凛太郎の分を用意するだけで限界だった。
私は、大量のチョコレートが詰まっている鞄を覗き込む。
ありがたいことに、登校してきてからずっと、ひっきりなしにチョコをもらっている。
みんな、私を応援してくれているみたいだった。
残念ながら、直接食べるわけにはいかない。
もらいものは、一旦すべて事務所に確認してもらうのが、絶対の決まり。
申し訳ないけど、私がこのチョコたちを食べられるようになるのは、少し先のことだ。
――――凛太郎は、もらったりしてるのかな……。
横目で、凛太郎の様子を窺う。
彼の周りには、稲葉君たちの姿がある。
席が離れているせいで、どんな話をしているのかは分からない。
「うおぉぉぉおお! うめぇぇぇええ!」
そのとき、突然堂本君が叫び声を上げた。
みんなが何事かと見る中、私は堂本君が声を上げた意味を察することができた。
彼は、凛太郎から何かをもらったんだ。反応がカノンみたいだったから、すぐに分かった。
一体何をもらったのだろう。気になる。私もほしい。
でも、学校で声をかけると、凛太郎に迷惑がかかってしまう。
グッとこらえた私は、姿勢を正した。
「最近仲いいよね、あの四人」
不意に、近くでチョコを配り合っていた女の子たちの会話が、耳に飛び込んできた。
「堂本君と柿原君は仲良いの知ってたけど、志藤君っていつ仲良くなったんだろ」
「文化祭のときじゃない? バンドやってたじゃん」
「あー! あれかっこよかったよね!」
思わず、女の子たちの会話に耳をそばだててしまう。
これまで、凛太郎が話題になることなんてなかったのに……。
「ていうか、最近の志藤君いい感じじゃない?」
心臓が、大きく跳ねた。
「え、分かる。なんか明るくなった感じ?」
「どうしよう、今度誘ってみようかな」
「いいじゃん。こういうのって、早めに声かけとくのが一番だしね。カラオケとかどう?」
「ありあり!」
――――聞かなきゃよかった。
窓のほうに顔を向けて、私はムッとした顔を隠す。
凛太郎の本当の魅力も知らないくせに。そう思ってしまうのは、私の心が狭いから?
モヤモヤが胸の内に広がって、気分が悪くなってくる。
凛太郎は、彼女たちに誘われたら、一緒に遊びに行ってしまうだろうか。
……いや、行かない気がする。
面倒臭がる気がする。
凛太郎が柿原君たちと仲良くなったのは、彼らの恋路に巻き込まれたからだ。
凛太郎の人生においては、イレギュラーと言ってもいいと思う。
もともと出不精な凛太郎が、仲がいいわけじゃない女の子と出かけるなんて、まずあり得ない。
そう気づいた途端、安心したからか、急に心がスッと軽くなった。
でも、凛太郎がモテるのは、由々しき事態。
凛太郎が他の女の子に言い寄られているところなんて、絶対見たくない。
とりあえず、カノンたちには話しておこう。そして、何か対策できないか考えよう。
これ以上、ライバルを増やしたくないから。




