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61-2

「ん~~! ささみも美味しいじゃない!」


 俺が作ったささみスティック揚げを食べたカノンが、頬を押さえて喜んでいる。

 玲とミアも、顔を見た限りでは気に入ってくれているようだ。


「確かに、ささみってたんぱくなイメージがあったからね。でも、これなら無限に食べられそうだよ」

「ん、マヨネーズつけても美味しい」


 三人とも、バクバクとささみスティックを食べている。

 俺はホッと胸を撫で下ろした。


『ミルフィーユスターズ、初の武道館ライブ! いやいや~、ついにと言った感じですねぇ』


 BGM代わりに流していたテレビから、そんな声が聞こえてきた。

 時の人であるミルスタを扱う番組は、年々増えている。今流れているお昼の情報番組でも、ひとつのコーナーとして取り上げているほどだ。

 ミーチューブのおかげで、海外人気も爆発的に増えているし、このままだとどこまで行ってしまうのか、まるで見当がつかない。


「我ながら、とんでもないことになってるよ、ボクらの人気」

「ふっふっふ、世間も注目してくれているわね。ま、あたしたちなら当然だけど」


 ドヤ顔のカノンに、得意げなミア。そして、テレビの内容には無関心で、ささみに夢中の玲。

 これだけ注目されているというのに、三人の態度はまるで平常だ。


「すげぇな、お前ら。俺ならとっくに腹下すくらい緊張してるわ」

「そんなの、最初のライブのときだけよ」

「あったんだ……」


 俺がそう言うと、カノンは「しまった」という顔をした。


「あはは、さすがに初ライブは緊張したよね。何度も歌詞飛ばしそうになったよ」

「私も、すごく緊張した」


 どうやら、三人とも初ライブに対しては同じ感想らしい。

 ふと、俺の頭に疑問が浮かび上がった。


「そういや、ミルスタってどうやってできたんだ?」

「あれ、言ってなかったかしら」

「玲は事務所にスカウトされたって言ってたけど……お前らがアイドルになった経緯は聞いてねぇ気がする」


 俺がミルスタを知ったのは、高校に上がってから。

 すでに人気になっていた彼女たちを、ネットニュースか何かで知った。

 故に、それ以前のことは何も知らない。


「あたしはレイと同じで、事務所から直接スカウトされたわ」

「ボクはオーディションだね。まあ、会場で声をかけられて、そのままメンバーになったから、ある意味スカウトだけど」


 オーディションという言葉に、俺は首を傾げた。


「へぇ、そんなのあったのか」

「もともとミルスタって、トップアイドルを生み出す! って名目で、かなり気合いが入ったプロジェクトだったみたいよ?」

「そりゃ相当気合い入ってんな」

「事務所の見る目は確かだったわね。このあたしをスカウトしたんだから!」

「……。でも、オーディションを開いたってことは、他にも合格者がいたんじゃないのか?」

「ちょっと! 無視しないで!」


 俺の背中を、カノンがポコポコ叩いている。

 それを無視して、俺はミアを見た。


「本当はメンバーも七人くらいを想定してたみたい。でも、最終的にはこの三人の図が一番いいってことになったんだって」

「へぇ……」


 それだけ、この三人の魅力がずば抜けていたということなのだろう。

 事務所の気持ちはよく分かる。

 容姿もさることながら、スター性に関して、彼女たちの右に出る者はいない。

 世界中のどこであっても、彼女たちが立てば、たちまちそこがステージになってしまう。 

 それほどまでの力が、この三人にはあるのだ。


「赤の他人が集められて、最初は苦労したわよねぇ」

「ボクとカノンなんて、ちょっとギスギスしてたもんね」

「ちょっと、思い出させないでよ……」


 カノンの顔が赤くなる。


「結成当時のカノンは、スカウトされて天狗になってた」

「そうだったね。ボクのことを『胡散臭いのよ!』なんて言って、全然絡んでこなくてさ」


 二人の〝ここだけ話〟によって、カノンの顔はますます赤くなってしまった。

 聞く限りだと、確かに掘り起こされたくない黒歴史だな。


「そんなこと言ったらレイだって! 結成してすぐのときはめちゃくちゃ無口だったじゃない! 引っ込み思案かと思ったわよ!」

「ん。今も口数は多いほうじゃない」

「ひ、開き直りやがって……」


 動揺のあまり、カノンの口調が乱れている。

 あと、玲。多分ドヤ顔するところじゃないぞ、今。


「やれやれ、結成当時からまともなのは、やっぱりボクだけか」

「……王子様衣装わたされてショック受けてたくせに、よく言うわよ」

「ぐっ……」


 ミアの顔が引きつる。

 玲がうんうんと頷いているところを見るに、ミアの不満は相当分かりやすかったようだ。


「だ、だって、アイドルになれるって言うから話を受けたのに、王子様モチーフなんて話が違うじゃないか! ボクだって、あのときは可愛い衣装を着たかったんだよ」

「あら、素直じゃない」

「まあ……今は吹っ切れたからね。お姫様扱いも経験したことだし」


 そう言って、何故かミアは俺を見た。

 俺が首を傾げると、彼女はやれやれと肩を竦める。


「とにかく、ボクらは色んなプレッシャーがかかっている中でも、こうして大人気アイドルになったんだ。今更緊張なんてしないよ」

「ん。全力で楽しむだけ」


 なんて頼もしいやつらだろう。

 これだけ堂々とした姿を見せられると、心配なんてどこかへ吹き飛んでしまう。


「そうそう。ライブと言えばなんだけど、ついに決まったね、夏の全国ツアー」

「そうね。ほんと、やっとって感じだわ」


 ミアとカノンがただの世間話のように言うものだから、一瞬内容が理解できず、俺はポカンとしてしまった。


「前々から、今年の夏は一番大きなイベントをやろうって話があった。それが全国ツアー」

「へぇ……でも、確か前にもやってなかったか?」

「やった。でも、今回はもっと開催地を増やす」

「……すげぇけど、しんどそうだな」


 限られた期間で日本中を巡り、ライブを行う。

 そう聞いただけで、俺だったら気が滅入るが……。


「もちろん、体力的につらいときもあるよ。でも、ライブを求めてくれるファンがいる以上、こっちも全力で答えないと」

「あたしたちは、ファンがいてこそミルスタでいられるの。その感謝も込めて、ひとりでも多くのファンに〝推してよかった〟って思ってもらわないとね」

「ん、そのためなら、疲れも吹き飛ぶ」


 ファンのため、か。

 まったく、尊敬するほかなないな。


「それに、今年は沖縄も開催地になるしね! 写真集の撮影で行ったっきりだから、また行きたかったのよ!」

「おいおい……それだけでやる気が出るってか?」

「当たり前じゃない! 夏の沖縄よ? 綺麗な海に飛び込む、あの爽快感……! 楽しまなきゃ損だわ!」

「泳ぐ気満々かよ……タフだな」

「何よ、おじさんみたいなこと言っちゃって。もっとアクティブになったほうが、人生楽しいわよ?」


 同い年のくせに、人生と来たか。

 ただ、一理ある。

 大変で苦しい中でも、楽しもうと思う気概は大切かもしれない。


「海はともかく、ご当地の美味しいものを食べられるっていうのは、やっぱりツアーのいいところかな。それぞれ一日くらいなら、観光する余裕もあるし」

「おお、そいつは羨ましいな」


 俺みたいな学生の資金力じゃ、交通費がかかりすぎて、日本中を回るなんてほぼ不可能だ。

 ライブという重労働を除けば、タダでそれができるわけで、素直に羨ましいと感じる。

 一度でいいから、ご当地グルメを食い尽くしてみたい。


「去年のツアーのとき、北海道でうに丼食べた。本当に美味しかったから、また今年も食べたい」

「あー! 確かにあれは衝撃だったわね……。そうだ、凛太郎は知ってる? ウニの旬が夏ってこと」

「知ってるよ……産卵を控えてるからだろ?」


 夏になると、ウニは生殖するために、多くの栄養を蓄える。

 その結果、柔らかく、濃厚な味わいになるらしい。


「なんで知ってんのよ! 可愛くないわね!」

「可愛くなくて結構だ。ていうか、割と常識だろ? この話」


 テレビじゃ何度もニュースになっているし、ネットでもこの手の話はよく回ってくるし。


「常識……なんだ」

「知らなかったね……」


 玲とミアが目を伏せる。

 しまった、意図せず傷つけてしまった。


「い、いや、料理に興味があるやつからすれば常識ってだけで……」

「あんたら何言ってんのよ。去年うに丼を食べたお店で、女将さんが説明してくれたじゃない」

「……んだよ。忘れてるだけじゃねぇか」


 二人は、気まずそうに目を逸らす。


「食べるのに、夢中だった」

「ボクも、海鮮系には目がなくて……」

「ま、それくらい美味しかったってのは分かるけどね」


――――そんなに美味かったのか。


「行きてぇな、俺も」


 食への関心は、燃え上がっていくばかり。

 行けるものなら、俺も全国を回って、色んな食に触れてみたい。


「……それ、名案じゃない?」

「え?」


 カノンが突然、何かをひらめいた顔になった。


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