55-1 クリスマスパーティー
クリスマスライブがあった日の翌日。
朝早く起きた俺は、すぐにキッチンへと向かった。
昨日、ライブの打ち上げから帰ってきた三人は、へとへとな様子で床についた。
あの様子では、昼頃まで起きないだろう。
今のうちに、俺はクリスマスパーティーの準備をするのだ。
「まずはケーキの準備だな……」
最高のクリスマスライブを生んだ三人には、とびっきりの褒美を用意しなければならない。
ここまで豪勢な料理を揃えることは、年内中にはおそらくないだろう。
俺の集大成を見せるなら、まさに絶好の機会だ。
まずはココアパウダーを混ぜたスポンジを焼き上げる。
焼き上げるまでにかかる時間は、およそ三十分。念のためレシピを確認しながら、その間にクリームを作る。
何分、チョコレートケーキは作ったことがないため、手順に不安があるのだ。練習で作ったときは悪くない出来だったし、問題ないとは思うけど。
「シロップとクリームは、こんなもんでいいかな」
シロップを作るときは、水とグラニュー糖、そしてラム酒を用いる。
ラム酒は、割とお高めのものを使う。これは玲の母親である莉々亞さんが送ってくれたものだ。もちろん、決してそのまま飲まず、料理に使うと約束した上で。
一度沸騰させるために鍋の中に入れると、ふわりと酒の香りが広がった。酒なんて飲んだことないし、よさはひとつも理解できないけれど、このラム酒の香りは結構好きかもしれない。早く酒を嗜める歳になりたいものだ。
シロップが完成したら、次は全体に塗るクリームを作る。
沸騰させた生クリームに、スイートチョコレートを入れてよく溶かす。
スイートチョコレートとはなんぞやと思う人がいるかもしれない。これはいわゆる乳成分が入っていないチョコレートであり、レシピ本では、ビター、ブラック、ダークなどの名称で記載されることもある。
スイートチョコレートがよく溶けたら、ボウルを氷水につけながら、ミキサーで七分立て程度に泡立てる。
「……うん、生地もいい感じだな」
焼き上がった生地は、満足のいく出来栄えだった。
バターとココアの香りが、リビングのほうまで広がっていく。
我ながら順調だ。
生地が冷めたら、三枚になるように切り、隙間にシロップと泡立てたチョコクリームを塗りたくる。そして全体に対し、パレットナイフを使ってチョコクリームのコーティングを施す。
これで、土台はおおむね完成だ。
「やっぱ、ケーキと言えばイチゴだよな」
そう言いながら、ケーキの中央に半分に切ったイチゴを綺麗に載せていく。これは、カノンと食べたフレンチトーストから着想を得た。甘みだけでは飽きてしまうかもしれないし、イチゴの酸味がいいアクセントになってくれることだろう。
最後に砕いたナッツを散らして、ケーキは完成。
あとは冷蔵庫で冷やしておけばいい。
「次はローストビーフとシチューか……」
シチューは煮込む時間もあるし、さっさとその段階まで進めておかなければならない。
鶏肉、ニンジン、じゃがいも、たまねぎを一口サイズに切り、バターを敷いた鍋で炒める。ほどよく火が通ってきたら、小麦粉を入れてさらに炒め、白ワインを投入。アルコールが飛んだら、コンソメ、そして牛乳をたっぷり入れて、しばらく煮込む。
煮立ってきたのを確認して、クリームチーズを入れる。これでさらに煮込んだあと、味を調整したらシチューの完成だ。
ただ、これではいつも作っているものと変わらない。というわけで秘密兵器を用意しているのだが、これは食べる直前のお披露目といこう。
お次はローストビーフ。
この日のために、いい牛もも肉を買っておいた。
必要以上に高額なものは買わないというのが俺のモットーだが、こういう日は別だ。
ボウルにオリーブオイル、すりおろしたニンニク、塩コショウを入れて、よく混ぜる。それを冷蔵庫から出したばかりの牛もも肉にすり込み、常温に戻るまで放置しておく。
常温に戻ったら、油を敷いたフライパンで全面に焼き色をつける。
ここまで来たら一度火を止め、百二十度にしたオーブンへ。およそ二十五分から三十分ほどじっくりと火を入れる。それが終わったら、粗熱が取れるまで放置。
ローストビーフ用のソースはすぐ作れるため、後回しにする。
まだまだやるべきことは終わらない。
次に作るものは、ローストチキンだ。クリスマスといえばチキン。これを外しちゃ意味がない。
用意したのは、骨つきの鶏もも肉。
塩コショウ、しょうゆ、すりおろしニンニク、はちみつを混ぜたものをつくり、鶏肉に塗る。それでしばらく放置。焼きたてを食べるためには、パーティーが始まる一時間前くらいに焼き始めるのがベストだろう。これも一旦ここで終わりだ。
メインディッシュの準備は終わった。
あとは付け合わせのパンを作れば、料理は一通り終了である。
「おはよう、凛太郎君」
いざパン作りと思っていると、二階からミアが下りてきた。
珍しく、髪に寝癖がついている。よほど疲れが溜まっていたらしい。あれだけ大勢の前で全力を出し切ったのだから、仕方のないことだ。
――――やべ、そう言えば昼のこと考えてなかった。
もうすぐ十二時だと言うのに、昼食を用意していない。
パーティー料理に夢中になっていたせいで、完全に忘れてしまっていた。
「どうしたんだい? そんなに慌てて」
「悪い……パーティーの料理を作るのに夢中になりすぎて、昼飯の準備ができてないんだ。もう少し待てるか?」
「ボクは全然大丈夫だよ。寝起きすぎてそんなにお腹空いてないしね。料理に夢中になって料理を忘れるなんて、凛太郎君は本当に面白いね」
そう言いながら、ミアはくすりと笑う。
羞恥を覚えた俺は、無意識のうちに頬を掻いていた。
「あ、じゃあコーヒーはどうだ? 今手が空いたから、すぐ淹れられるぞ」
「それならもらおうかな」
「ああ、任せろ」
俺はすぐにコーヒーの準備を始めた。
この感じだと、玲とカノンが起きてくるのはもう少しあとになるだろう。
昼食を作る時間は、なんとか確保できそうだ。
「ちなみに、昼飯で食べたいものはあるか? 早起き特権で、希望があれば聞くぞ?」
「それなら、パスタとかどうかな? ナポリタンとか」
「ナポリタンか」
俺は思わずにやりと笑った。
ナポリタンなら、ちょうど達人にレシピを習ってきたばかり。
「楽しみにしとけ。めちゃくちゃ美味いナポリタンを作ってやる」




