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54-2

「あ、そろそろ始まるで!」


 会場を見下ろしながらシロナがそう告げると、喧騒がゆっくりと収まっていった。

 そして会場に設置されたバカでかいモニターに、今回のクリスマスライブのために作られたPVが流れ始める。


「シロ、私たちもああいう映像流したい」

「せやなぁ……でも、製作費なんぼなんやろ」


 隣から業界人らしい会話が聞こえてくる。

 アイドルに囲まれながら、アイドルのライブを見届けるなんて、ファンが知ったら卒倒するだろう。

 しばらくして映像が終わると、再び静寂が訪れた。

 黄色、赤色、青色のスポットライトが、ステージを照らす。そして一曲目のイントロが流れ出し、どこからともなく三人の歌が聞こえてきた。

 途端、興奮によって全身に鳥肌が立った。何度も何度も聴いたはずなのに、いざライブとなると、受ける衝撃が何十倍にもなる。


「……この歌声、ますます上手くなってはるわ」


 隣では、シロナが冷や汗をかいていた。

 ツインズとライブをしたときよりも、彼女たちのレベルは何段階も上がっていた。 

 ライバルとしては、気が気でないだろう。

 いよいよ曲が大きく盛り上がる部分が迫ってきた。そしてステージがさらに強い光で照らされた瞬間、ステージの下から三人が飛び出してくる。すると、会場は耳をつんざくほどの歓声に包まれた。


『みんなー! 今日は来てくれてありがとー!』

『ボクらと最高のクリスマスイブを過ごそうね』

『みんなにとって、今日が特別な日になりますように』


 各々がそう言って、本格的に曲が始まる。

 完璧に息のあったダンスと、抜群な歌唱力によって紡がれる歌。

 彼女たちが観客に手を振るたびに歓声が上がり、会場のボルテージは天井知らずに上がっていく。ファンにとって、ミルフィーユスターズは一種の神様なのだ。


『イブだからって容赦しないわよー! ついてこれるかしら!』

「「「うおぉおおおおおお!」」」


 カノンの声に、親衛隊の方々が雄叫びを上げる。

 とにかく熱狂的なんだよな、カノンのファンは。


『カノンは相変わらず激しいね……君たちはボクがエスコートするからね』

「「「きゃぁぁーーー!」」」


 ミアが投げキッスをすれば、女性たちから歓喜の声が上がる。

 三人の中で、もっとも女性人気があるのがミアだ。声をかけただけで卒倒してしまう人がいるくらいに、彼女は多くの人を惑わせている。


『もっともっと盛り上がりたい。みんな、声出して?』


 玲が声をかければ、観客たちはこれまでで一番大きな歓声をあげた。


 

 それから定番の曲と、最近リリースされた新曲を歌いきった彼女たちは、一度ステージから姿を消した。そしてこの日にぴったりのクリスマスソングが流れ始め、観客たちは大いに盛り上がる。


『一年に一度のクリスマス!』

『毎日頑張っている、とってもいい子のみんなには』

『私たちが、とびきりのプレゼントをあげる』


 そう告げながら現れた三人は、赤と白を基調とした、まさにクリスマスに相応しい衣装を身に纏っていた。赤いトップスにミニスカート、そしてサンタ帽を模したヘッドドレス。

 三人の美しいサンタクロースが、俺たちに最高の思い出を届けに来た。

 

『まだまだぁ! 全力で行くわよー!』


 カノンが叫ぶと同時に、会場はさらなる盛り上がりを見せた。


◇◆◇


 アンコールも含めて三時間以上続いたクリスマスライブは、大成功で幕を閉じた。ライブをやり切った彼女たちの顔は晴れやかで、思わず拍手の時間が長くなってしまったのは、言うまでもない。

 終わってしまったのは寂しいが、俺は真っ直ぐ帰宅するべく、会場を出た。


「うはー、すさまじかったなぁ、ミルスタのライブ」


 そんな俺に何故かついてきたシロナが、大きく伸びをしながらそう口にした。隣にいるクロメは何も話さないが、少なくとも、その表情はもう退屈そうにはしていなかった。


「ウチらも負けてられへんな! なっ! クロ!」

「そうだね。負けていられない」


 ミルスタからいい刺激を受けたようで、二人は闘志を漲らせていた。

 今後、ますますツインズも注目を浴びていくことだろう。

 まあ、今はそんな話は別にいいのだ。

 

「お前ら……なんで俺についてくんの?」

「いやー、りんたろーさんとご飯でも行きたいなー思て」

「飯?」

「このあとお暇? ウチらとご飯食べてから帰らへん?」

「あー……」


 どうせ今日は、玲たちも打ち上げがあるからすぐには帰ってこない。

 ライブに来る前に家事は一通り終わらせたし、飯くらいなんの問題もない。


「分かった、いいぞ」

「にゃはは! そうこなくっちゃ!」

「それで、どこか当てはあるのか?」

「行きつけのお店があるんよ。そこはご飯()美味いんやで?」

「……も?」

「ほらほら、レッツゴーですわ!」

「お、おい……!」


 背中を押され、俺はタクシー乗り場まで連れていかれる。

 

「タクシーかよ……贅沢なやつらだなぁ」

「ウチらがなんぼもろてると思っとんねん。預金口座見せたろか?」

「……遠慮しとく」


 見ただけで顔が青くなる自信がある。


「心配せんでも、今日のお代はウチらが全部出しますから。りんたろーさんはなーんも気にせんとついてくるだけでええのよ」

「いや、それはさすがに……」

「遠慮してまうんやったら、ミルスタの子たちの話を聞かせてくれへん? りんたろーさんがあの子らとどういう生活をしてるんか興味あんねん」

「そんなんでいいのかよ」

「もちもち! ほな行こか!」


 そうして俺は、強引にタクシーへ乗せられた。


「新宿までお願いしますー」


 シロナが運転手にそう告げると、タクシーは走り出した。

 何故か後部座席に三人で乗り込んだため、かなりギュウギュウだ。しかも会場と同じように、シロナとクロメが俺を挟む形で座っているため。離れようとするともう片方に近づいてしまう。

 

「りんたろーさん、そんなにソワソワしてどないしたん?」

「お前……分かっててやってんだろ」

「うーん、シロナよく分からんにゃー」


 ケタケタと笑いながら、シロナは俺の膝に自分の膝をぶつけてくる。

 さっきから太ももや肩が当たりまくっていて、俺の意識はだいぶそちらに削がれていた。そして何故か悪戯とは無縁そうなクロメも、やけに体を当ててくる。


「……りんたろうが近くにいるときは、これでもかと体を当てておけとシロが言っていた」

「何を吹き込んでんだテメェ……!」


 俺が睨みつけると、シロナはそっぽを向いて口笛を吹き始めた。

 こいつ、いつか絶対泣かせてやる。


「まあええやん。女子からのスキンシップなんて、りんたろーさんなら慣れてるやろ?」

「んなわけあるか……」

「あんな美少女侍らせておいて?」

「人聞きが悪い……!」

「でもおかしいやん。結構長く一緒に暮らしとるんやろ? 普通少しは慣れるやろ」

「……」


 ――――確かに、おかしいのはこっちか?

 いや、この話は考えたら負けだ。


「こっちは諦めてへんよ、りんたろーさん」

「な、なんの話だ?」

「その家事力をこの身で味わって、ウチらはどうしてもあんたが欲しくなってしもうたんや。相手がミルスタでも関係ないわ。りんたろーさんが自分からウチらのもんになりたいって言いだすまで、これでもかとアピールしたるわ」


 そう言いながら、シロナは俺に腕を絡めてくる。

 そしてそれを真似するようにして、クロメも腕を絡めてきた。


「私もまた、りんたろうの唐揚げが食べたい」

「ほら、美少女二人からこんだけ迫られて、今どない気分? ウチらと一緒に暮らすようになったら、鼻血もんの甘々生活が待っとるで?」


 さらに密着度を上げてくる二人。

 俺は邪な感情をすべて追い払うべく、タクシーの天井を見上げ、目を閉じた。

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