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54-1 再会とナポリタン

 ついにやってきた、クリスマスライブ当日。

 三人ともコンディションはばっちりで、今日も気合十分で家を出た。


「よし……俺も行くか」


 ライブのスタートは十七時。

 今回も関係者席を確保してもらったため、俺は特等席で彼女たちの活躍を見ることができる。険しい抽選を潜り抜けて席を確保している人たちには申し訳ないが、ここは特権として楽しませてもらおう。


 電車に揺られて会場へ。

 今回の会場のキャパは、三万人を越えている。駅から出た途端、ミルスタのグッズを身に着けたファンたちが、一斉に会場へ向かっていくのが見えた。


 ――――やっぱりとんでもねぇな、ミルフィーユスターズは。


 改めて彼女たちのすごさを実感しながら、俺も会場へ向かうことにした。

 会場には、すでに大勢の人だかりができていた。ペンライトやらタオルやら団扇(うちわ)やら……他にも多数のグッズが売られている。それを求めて並んでいるファンの行列はどこまでも伸びており、終わりがまったく見えない。

 聞くところによると、物販は開場の何時間も前から並ぶ人がいるくらいに大人気なんだそうだ。グッズを買うという心理が分からない俺にとっては、何時間も並ぶなんて気が遠くなるような話である。


 そんな行列を横目に、俺は真っ直ぐ会場へ。

 途中で係員を見つけ、声をかけるべく近づく。


「あの……」

「はい、どうなさいました?」

「関係者の志藤です」

「確認いたしますので、少々お待ちいただけますか?」


 係員がどこかに無線を繋ぐ。

 しばらくして無線を終えた彼は、俺に向かって笑顔を見せた。


「志藤様、確認が取れましたので、ご案内させていただきます。中へどうぞ」

「ありがとうございます」


 係員に案内してもらい、俺は他の観客から見えない位置にある関係者席にたどり着いた。ほぼ個室になっているため、一般客の視線を気にせずラフに楽しめる。眺めも良好だ。こんなところでミルフィーユスターズのライブが見られるなんて、まさに贅沢と言わざるを得ない。


 入場は始まったが、ライブ開始はまだ先だ。

 自分の座席についた俺は、のんびりスマホでもいじりながら待つことにした。 

 しばらくすると、関係者席にもちらほら人が入ってきた。おそらく、事務所側が呼んだ人たちだ。

 この人たちにとって、俺はどう映るのだろう? 学校の友達か、それとも――――。


「おや……? おやおやおやぁ?」


 なんとなく他人の視線が気になっていると、聞き覚えのある声が近づいてきた。

 顔を上げると、そこには因縁のある美少女たちの顔があった。


「げ……」

「げ、とはなんや! ウチらと顔合わせてげんなりする人、国中探してもりんたろーさんだけやで?」

「はぁ、そいつはおおきにおおきに」

「はー、相変わらずの憎まれ口やなぁ」


 そう言いながら、シロナは笑う。

 そんな彼女の後ろには、退屈そうにあくびをしているクロメの姿もあった。

 彼女たちは、チョコレートツインズ。

 シロナとクロメからなるそのグループは、国内外問わず人気急上昇中のアイドルである。


「どうしてお前らがここに?」

「ミルスタの事務所に呼んでもらえたんよ。前回のオンラインライブが大成功やったから、そのお礼にって」

「へぇ、そうだったのか」

「太っ腹の事務所さんやねぇ。正直……来るかどうか迷ったんやけど、滅多にないチャンスやと思って、とりあえず来ることにしたわ」


 シロナが苦笑いを浮かべる。

 無事に解決したとはいえ、ミルスタとツインズの間には、多少なりとも確執が残った。お互いに接近を避けるほど大きくはなく、かといって、無視できるほど小さいわけでもなく。ある意味、ほどよい距離感を保てているとも言えた。


「ま、せっかく来たからには、めっちゃ楽しんで、色々と技術を盗んだるわ。な、クロ」

「いや……私はシロに付き合ってるだけだから、別にどうでも……」

「もっとやる気出さんかい! アホぉ!」


 シロナがクロメの肩を小突く。

 まるで漫才でもしているかのようなやり取りに、思わず笑ってしまった。


「あ、ウケたで、クロ」

「私は漫才をしたつもりはないんだけど……」

「まあええわ。ひとまず、隣失礼するでー」


 シロナとクロメが、座席に座る。

 ――――何故か、俺を両側から挟む形で。


「……どういうつもりだ?」

「ええやんええやん。両手に花やで?」

「嬉しくもなんともねぇな……」


 むしろこいつらに挟まれると、妙に落ち着かない気分になる。

 何をしでかすか分からないんだよなぁ、こいつら。


「りんたろう。私はまたお前の唐揚げが食べたいんだが」

「あー、それくらいならまた作ってやるよ」

「ついでにスタジオの掃除も頼みたいんだが」

「しまいには金取るぞ、おい」


 クロメのやつ、俺を都合のいい家政婦か何かだと思ってないか?


「お金払ったら、りんたろーさん来てくれはるの? それならナンボでも払うわ」

「……稼いでるやつらに言う話じゃなかったな」


 こいつらなら、本当に金を出しかねない。

 その点はミルスタの三人と同じである。


「ちな、いくら払えばウチらのところ来てくれるん?」

「いくら積まれてもあいつら以外のところには行かねぇよ」

「そんなぁ、いけずぅ」

「分かってて提案してんだろ……」

「冗談はさておき、アイドルの世話なんてしんどいだけやろ? ようやっとるわ」

「楽とは言わねぇけど……別にしんどくはねぇぞ?」


 俺がそう言うと、シロナは驚いた顔で俺を見た。


「しんどいやろ、絶対。よそではキレイな恰好してるくせに、帰ってきた途端だらしない恰好でダラダラダラダラ……げんなりするやろ、普通」

「そんなにダラダラしてねぇよ」

「はー、やっぱりミルスタはお利口さんの集まりですわ。ウチらなんて、帰ってきたらほぼ下着でウロウロしてるわ。な、クロ」


 俺をまたぐ形でシロナが問いかけると、クロはなんでもないことのように頷いた。


「……確かに、お前らの世話はしんどそうだな」

「なんでやねん!」


 楽しげに笑いながら、シロナがツッコミを入れる。

 その様子を見て、俺は内心ホッとする。

 出会った頃のシロナには、邪な雰囲気があった。底知れぬ悪意と、行き場のない怒り――――あのまま突き進んでいれば、きっとシロナはクロメを道連れにして、取り返しのつかない破滅を迎えていただろう。

 他の誰がなんと言おうと、俺はそう確信している。

 だからこそ、今の彼女が屈託のない笑みを浮かべているのを見て、心の底から安心したのだ。


「……おおきにな、りんたろーさん」

「急にどうしたんだよ」

「あんたのおかげで、ウチらは今、真っ直ぐ進むことができてる。ウチもクロも、あんたに到底返しきれない恩を感じてる」

「……」


 それまで退屈そうに話を聴いていたクロメも、シロナの言葉に同意するように頷いた。

 俺は照れ臭くなって、思わず頭を掻く。


「困ったことがあれば、すぐにウチらに声かけてな。りんたろーさんのためなら、ウチらはどこにいたって駆けつけるで」

「……そうかい。それは頼もしいな」

「ふふん、たくさん頼ってな! 花見の場所取りも、頑固な店員から値切りたいときも、ムラムラしたときだって、ウチらを呼んで使うてな!」

「んなことに使うわけねぇだろ……!」

「にゃはは! ナイスツッコミや!」


 そう言って、シロナは再び声を出して笑った。 

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