50-2
「料理は凛太郎君に任せるとして……飲みものとかは、いつも通りボクらで用意しようか」
「この前番組で紹介してたジュース、美味しそうだった。今からなら取り寄せられるかも」
「じゃあレイにはそれを任せようかな。……ボクらはどうしよう」
ミアがカノンのほうを見る。
「うーん……ちょっといいつまみでも用意する?」
「誤解を招く言い方だね、それ」
「なっ……! 小鉢的な意味で言っただけよ!」
びっくりした。酒でも飲むのかと思った。
念のため言っておくが、未成年の飲酒は犯罪です。
「カノンって、疲れ切ったOLの役とか似合いそうだよな」
頭の中に、スーツ姿のままビールを飲み干すカノンの姿が浮かんでくる。あまりにも自然にイメージできたものだから、すでにそういうCMをどこかで見たのかと思った。
「りんたろー⁉ それどういう意味よ⁉ まだこっちはぴちぴちの女子高生よ⁉」
「そういうとこだよ……」
普通の女子高生は、ぴちぴちなんて言葉使わねぇんだよ。
「小鉢を用意するっていうのはありだね。取り寄せられるもので何か探しておこうか」
「はぁ……そうね」
ひとまず、これで役割分担は済んだ。
ローストビーフに、チキンとシチュー……それとチョコレートケーキか。シチューは何度も作っている。せっかくクリスマスなのだから、何か工夫をこらしたいところだ。
ケーキの練習はしておきたいが、食べてくれる人を探さなければならない。こいつらに食べてもらうという手もあるが、できれば本番までリアクションを取っておきたい。
となると、練習で作ったものは、優月先生のところに差し入れとして持っていくのがベストか。いつでも糖分を欲してる人たちだし、きっと喜んでもらえるだろう。
「――――あ」
そうしてずっと料理の話をしていたせいか、突然玲の腹の虫が鳴いた。
ダンスの練習で、夕飯で摂ったカロリーを使い果たしてしまったようだ。
「お腹空いちゃった」
「なんか食うか?」
「甘いものが食べたい」
「甘いものか……ホットケーキとかどうだ?」
「ん、ホットケーキがいい」
このあとも練習するなら、ここでカロリーを摂っておく必要があるだろう。
「お前らも食べるか? まとめて焼いちまうけど」
「……ちょっと遅い時間だけど、せっかくだからもらっちゃおうかな」
「そうね……今からめちゃくちゃ動けばチャラよね」
「オーケー、三人分だな」
俺は再びキッチンへ向かう。
しかし、ここでとんでもない事実に気づいてしまった。
「あー……そうだ、牛乳切れかけだったんだ」
ホットケーキに必要な牛乳が、もうほとんど残っていない。
うちのホットケーキは、三人からの要望で牛乳とプロテインを入れる。
牛乳の代わりに水でも作れるが、いつも通りに作れないのは、なんだかモヤモヤする。
「悪い、ちょっと牛乳買ってくるわ」
そう言い残し、俺はリビングをあとにした。
◇◆◇
凛太郎がいなくなったあとのリビング。
残されたミルフィーユスターズの三人は、顔を見合わせた。
「よし……とりあえずパーティーをするってところまでは漕ぎ着けたわね」
「凛太郎君に予定がなくてよかったね」
クリスマスパーティーの提案は、すでにミルスタの三人の中ではすり合わせが済んでいた。
彼女たちには、パーティーに対する秘密の思惑があった。
「凛太郎へのプレゼント……どうする?」
レイが二人に問いかける。
そう、彼女たちは、凛太郎に対してクリスマスプレゼントを渡そうとしていた。三人から日頃の感謝を込めて――――というか、抜け駆けを防止するために、あくまでミルフィーユスターズの三人からというていで、凛太郎にプレゼントを用意する計画だったのだ。
「うーん……どうしようか。できれば彼が欲しがっているものをあげたいんだけど」
「……ふっふっふ、りんたろーが欲しがっているもの? それなら、このあたしが教えてあげるわ!」
ドヤ顔をするカノンに、二人の冷ややかな視線が送られる。
「何よ、その目」
「どうして、カノンが凛太郎のほしがっているものを知ってるの?」
「こ、この前のデートで知ったのよ!」
「……デート」
レイの背中から、嫉妬の炎が立ち昇る。
カノンが凛太郎との一日デート券を使用したことは、レイも知っていた。それについては、ひとつの勝負の結果として認識しているため、レイも文句を言うつもりはない。しかし、改めて言われると、モヤモヤしてしまうのは仕方のないことだった。
「きょ、共有してあげただけでも、ありがたく思ってよね⁉」
「それで、凛太郎君の欲しがってるものって何かな?」
「あんたら……りんたろーのことになると、露骨にトーンが下がるわね……」
視線だけで射殺そうとしてくる二人に、カノンは恐怖を覚えた。
「りんたろーが欲しがっているのは、ぎゅうとう? っていう包丁よ」
「牛刀? 確か万能包丁のことだよね」
「自分の口でそう言ってたから、間違いないと思うわ。たまたま入った包丁屋で、物欲しそうに見てたもの」
「包丁か……いいんじゃない? 凛太郎君が欲しがってるって裏付けは取れてるし」
ミアの言葉に、レイも頷く。
クリスマスプレゼントとしては少々ロマンチックさが足りないかもしれないが、凛太郎がそういったものに興味を示さないということを、三人はすでに知っている。彼が何よりも喜ぶのは、実用的なものである。
「でも、包丁だけじゃさすがに味気ない気がする」
「そうだね……エプロンとかどうかな? この前ほつれてきたって言ってなかったっけ」
「言ってたけど、自分で直してた」
「裁縫もできるんだね……」
呆れた声で、ミアはそう言った。
凛太郎は、専業主夫を目指す中で、家庭的なことはひと通りできるように練習している。裁縫もそのひとつ。ほつれを直すことも、取れてしまったボタンをつけ直すことも、彼にとっては朝飯前である。
「でもそれって、ほつれが目立つくらい古いエプロンってことでしょ? 新しいエプロンは、普通に喜んでもらえるんじゃない?」
「……そうかも」
「いいじゃない、包丁とエプロン。絶対喜ぶわよ、あいつ」
三人は顔を見合わせ、ひとつ頷いた。
何を隠そう、ここにいる三人は、これまで自分の父以外の異性にプレゼントを贈ったことがない。まだクリスマスまではずいぶん時間があるというのに、彼女たちの心はドキドキと高鳴っていた。不安もあるが、やはり大部分は、凛太郎が喜ぶことへの期待が大きい。
「楽しくクリスマスを過ごすためにも、クリスマスライブ、絶対に成功させるわよ」
「もちろん」
「ん……いつも通り、全力を出す」
三人は各々目を合わせ、共に頷いた。




