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46‐3

 部屋の中は、綺麗に整頓されている――――とは言いづらかった。

 最近着たであろう服が脱ぎ散らかしてあったり、出前のゴミがそのまま残っていたり。

 最初の頃の玲の部屋よりはマシと言えるが、汚いことには変わりない。

 天は二物を与えずとはよく言ったもので、やはり基本的な家事はミルスタと同じく苦手なようだ。


「……さすがに散らかりすぎ?」

「分かってんなら片付けとけよ……」

「しゃーないやん! ほんまにりんたろーさんを連れてこれるとは思っとらんかったし!」


 いきなり本音が飛び出たな。

 ひとまず、この状態は俺が我慢ならん。

 自分でも面倒くさい性格だなぁとは思うが、何事も綺麗な方がいいのだから、開き直って生きていくことにする。


「まずは片付けるか……触られたくない物とか、先に全部回収してくれ」

「りんたろう、片付けとかできるのか」

「そりゃまあ……できるから連れてこられたっつーか……」

「ほう……」


 クロメと話すと、ちょっと調子が狂う。

 クールな玲と喋ってる気分になるというか……。

 玲もちょっと犬っぽいところがあるし、こいつはこいつで狼みたいなところがあるから、近く感じるのかもしれない。


「クロ、下着とかちゃんとしまうで」

「分かったよ」


 二人はそんな会話をしながら、床に落ちていた下着らしきものを拾っていく。

 俺は気まずくなって、目を逸らした。 

 もう落ちていることには気づいていたが、意識しないようにしてたのに……。


「撮影機材にさえ触らないでくれれば、後はどういじくっても問題あらへん。お任せしてまってもええですか?」

「ああ、問題ねぇよ」


 最後に掃除用具の場所だけ聞いて、俺は動き始めた。

 まずは大雑把に落ちている物、散らかっている物をまとめていく。

 床を拭いたり掃除機をかけたりするのは、その後だ。


「こっちが撮影部屋、だよな?」


 整理の途中で、俺はリビングから繋がっている部屋の中を覗き込む。

 そこには、いつもツインズの動画に映っている光景がそのまま広がっていた。

 

「せやで。いつもそこで撮っとるの」

「……なんか新鮮だな」


 画面越しに見ていた物が実際に目の前にあると、妙にそわそわしてしまう。

 何度もこういうことは経験してるはずなんだけどな。


「じゃあここに置いてある三脚とかカメラに触らないようにすればいいのか――――って」


 部屋に入ってから振り返ると、驚くべき光景が広がっていた。

 そこはちょうどカメラが設置されている側であり、動画には映らない部分。

 そんな場所に、おそらく企画に使ったであろう荷物がこれでもかと積まれている。

 通販サイトの箱なども散らばっており、ゴミ山と言っても過言ではない状況だ。


「にゃはは……ウチらどうしても片付けを後回しにしてまう癖があってなぁ」

「……いいよ、こういうのを片付けるために俺がいるんだから」


 別に頑固な汚れがついているわけでもなし、この程度であればそう時間はかからないはず。

 俺は気合を入れ直し、目の前の山へと取り掛かった。



「よいしょっと……」


 積まれていた荷物は一箇所にまとめて、放置されていた段ボールは綺麗にまとめておき、いつでもゴミとして出せるようにしておく。

 落ちていた衣服はまとめて洗濯機へ。

 あまり使われた形跡のない洗濯機に洗剤と柔軟剤を入れたら、始動させて放置。

 放置されていた食事の残骸たちは、燃えるゴミの袋にまとめてマンションの敷地内にある集積所へ。

 時間にして二時間ほど使ってしまったが、概ね片付けは完了した。

 俺は部屋全体に軽く掃除機をかけながら、ほっと息を吐く。


「あらまぁ……ホンマに綺麗になってもうた」

「……信じられない」


 足が邪魔にならないようソファーの上で体育座りしていた二人が、そんな風に言葉をもらした。


「悪いな、ちょっと時間かかっちまった」


 慣れない場所の掃除というのは、確認しなければならないことが多く、さすがに普段通りには動けない。

 撮影に使ったであろう道具の処理に困る場面が多々あり、暇つぶしとして対戦ゲームに勤しむ二人に何度も聞く羽目になった。

 ちなみに対戦ゲームでもして待っているよう伝えたのは俺であり、決して二人の提案でないことは、こいつらの名誉のために言っておく。


「……シロ、この人ここに定住させよう」

「気が合うなぁ、クロ。ウチもそう言おと思っとったわ」


 何やらクロメからも狙いを定められている気がするが、それはそれとして。


「……片付けた後に聞くのもなんだが、普段掃除はしねぇのか? それにしては壊滅的ってほどじゃなかったが」


 掃除してみた感じ、とっ散らかった部屋ではあったものの、壊滅的というほどではなかったように思う。

 間隔はかなり離れているが、定期的に片付けてはいるという印象だ。


「まあウチらも日々忙しくさせてもろてるけど、結局家で撮影することが多いさかい。あまりにもっていうときは、さすがに自分らで片付けることもあるで」

「なるほどな……一応利点っちゃ利点か」


 家から出ないと不健康なイメージが湧いてしまうけど、仕事場となる家を綺麗に保とうと考えられる面においては、とても健全だ。

 それにしても、逆に玲は大して部屋にいるわけじゃないのに、どうしてあそこまで散らかせるのだろうか?

 ちゃんと短い間隔で掃除しているはずなのに、毎回同じ状態になってるんだよなぁ。


「……あ」


 俺が考えごとをしていると、腹の虫が鳴く大きな音と共に、クロメが声を漏らした。

 こういうところも玲に似ている。

 クロメと玲を引き合わせたら、気が合うのかどうか気になるところだ。

 

「飯食うか。なんか作るよ」

「待ってましたぁ! ウチずっと気になってたんよ、あの子らが側に置きたいと思うりんたろーさんの料理!」

「別に特別なことはなんもしてねぇけどな……」


 そう、俺は料理に対して特別なことはしていない。

 それでも、作ることが好きで、求めてくれる奴がいるから、俺は料理を作る。

 この気持ちは、他の人間にだって当てはまるはずだ。


「一応聞いとくが、何が食いたい?」

「せやなぁ……クロ、あんたの食べたいもんでええで」


 シロナに問われたクロメは、しばらく考え込む。

 そしてハッとした顔をして、口を開いた。


「唐揚げが食べたい。あの時りんたろうが持っていた弁当箱から、いい匂いがしていた。あれは間違いなく唐揚げの匂い」

「よく分かるな……」


 弁当箱は移動時に液漏れしないよう、ちゃんと閉まっていることを確認してから持ち運んでいる。

 つまりそう簡単に匂いが漏れるような物でもないのだが……こいつの嗅覚は、どうやら桁が違うらしい。


「唐揚げでいいならすぐ作れるよ。悪いが、またちょっと待っててくれ」

「かまへんよ。りんたろーさんのご飯が食べられるなら、ウチらいくらでも待つで?」

「おだてたって飯の味は変わらんぞ」


 そんな軽口を叩きながら、俺はキッチンへと向かった。

 

 

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