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「ボクらのチャンネルにきちんとファンを喜ばせる力があれば、皆は必ず登録してくれる。まずはチャンネル登録者数を伸ばすことを目標にして、ミーチューブでしか見られない、特別感を掻き立てられる動画を出すべきだってボクは思う」
「あたしとしては異議なしよ。玲とりんたろーは?」
話を振られた玲は、首を横に振る。
俺もこの件に関しては、素直に同意を示した。
「あたしもこの動画は再生数を取れるって思ってた。挨拶動画の次に切るカードとしては、最適かもしれないわね」
ノートパソコンを手に取ったカノンは、何やら操作を始める。
早速投稿の準備を始めているのだろう。
俺としてもこいつらのチャンネルが一気にどこまで伸びるのか、楽しみでならない。
「……チャンネル登録者といえば」
ふと思い立ち、俺はスマホのミーチューブアプリで、ミルスタのチャンネルを確認する。
そしてそこに記されたチャンネル登録者数を見て、俺は目を見開いた。
「っ! おい! お前らのチャンネル……!」
俺がそう言うと、各々が自身のチャンネルを確認し始めた。
そして全員が揃って目を見開く。
「「「ひゃ……百万人……」」」
リアクションまで一緒だった。
「すげぇな……! たった一日でここまで」
「順調すぎて怖いくらいだね……でも素直に嬉しいよ」
どこかホッとした様子で、ソファーに深く座り直すミア。
その隣には、無理やりドヤ顔をしているカノンがいた。
「ま、まあ? あくまで通過点だし? これくらいは当然っていうか……」
「カノン、本音は?」
「嬉しいに決まってるじゃないの! レイ! あんたはどうなの⁉」
「もちろん嬉しい。ファンの皆が、わざわざミーチューブでも応援してくれてる……それがすごく嬉しいよ」
「……そうね!」
登録者数が一日で百万人を超えるケースは、決してミルスタが初めてというわけではない。
ただ前例が限りなく少ないことは事実だし、快挙であることに間違いはないわけで。
今はこの結果を素直に喜んでも、罰は当たらないだろう。
「……でも、喜んでばかりじゃいられないわよ。今日もこれから一本撮らないと、ストックとしては不安なんだから――――」
カノンが言葉を言い切る前に、リビングに腹の虫が鳴く声が響いた。
俺、カノン、ミアの視線が、鳴き声の聞こえた方に向けられる。
「……お腹空いた」
お腹を押さえた玲が、聞き慣れたセリフを口にした。
ついさっき一つの偉業を成し遂げたばかりだというのに、こいつはどこまでいってもマイペース。
まあ、それがいいところでもあるのだが。
「今日やる企画って、まだ決めてないんだっけ?」
「え? あ、そうね……」
「それなら、前に言ってた大食い企画はどうだ?」
こんないい機会も中々ない。
お祝いもかねて、最近覚えたとっておきのスイーツをごちそうするとしよう。
キッチンに移動した俺は、下校中に購入した材料たちを台の上に並べた。
ここにある物を使って、俺は最高の低糖質スイーツを作る。
ちなみに低糖質とは、言葉の通り糖質を抑えてカロリーを下げた物のことを指す。
「まずは……っと」
俺は小麦粉をふるいにかけ、ボウルの中に落とす。
そして卵、大豆粉、ベーキングパウダー、バニラエッセンスを加え、そこにアーモンドミルクを流し込んだ。
大豆粉というのは、大豆を砕いて粉末状にした物。
小麦粉の代わりになり、糖質をかなり抑えることができる優秀な代物だ。
ただ普通に作るよりも、多少パサつきなどが出てしまうことがある。
その対策のために、俺は工夫を用意した。
それがこの絹ごし豆腐である。
――――スイーツに豆腐? と思う人もいるだろう。
俺も料理を始めた当時はそう思っていた。
しかし、今なら豆腐という食材のポテンシャルを百パーセント信じることができる。
(これがいつも楽しいんだよな……)
俺はボウルに対し、新たに豆腐をぐちゃっと潰してから入れる。
こうして豆腐を入れることで、生地をふんわりさせ、パサつきを抑えてくれるのだ。
小麦粉を使わないことによって現れる弊害を、これである程度緩和することができる。
ハンバーグとか肉団子にも応用できるし、これから料理を始める人には、是非とも知ってほしい使い道だ。
こうして豆腐まで入れたら、あとは砂糖を入れて混ぜるだけ。
本気で糖質制限をするなら砂糖も使うべきではないのだが、今回はあくまでできるだけカロリーを抑えるという話だから、ここは惜しみなく使っていく。
というのも、糖質オフの甘味料は風味に多少の癖があるのだ。
俺は大丈夫でも、玲たちが食べられるかどうかは分からない。
だから砂糖はそのまま使う。
もちろん入れる量自体は抑えめにするが。
「次は……」
書き記していたメモを見て、次の工程を確認する。
もうこの生地の中に追加する物はない。
となると、次はもう焼く段階に入る。
このままフライパンで焼き始めてしまってもいいのだが、ここで一つやっておきたいことがあった。
(こればっかりは挑戦だな)
少しワクワクしながら、俺は冷蔵庫から生クリームを取り出した。
「悪い、待たせたな」
完成したデザートを、玲たちの前に持っていく。
「俺特製低糖質パンケーキだ。小麦の代わりに大豆粉と豆腐を使って、糖質をかなり抑えてある」
「「「おお……!」」」
綺麗に焼けたパンケーキと、それに添えられた純白のホイップクリーム。
もう気づいている人も多いだろうけど、これはシロナと行ったカフェのパンケーキを参考にして作ったものだ。
脳が溶けそうなほどの甘味を感じつつ、それでいてしつこくない不思議なあの感覚。
それに少しでも近づくよう、ホイップクリームの作り方にはかなりこだわってみた。
味見した限りでは成功していたが、こいつらの舌に合うだろうか?
「凛太郎、これ食べていいの?」
「ああ。小さく切ってあるから、それぞれ一つずつ食べてみてくれ。味の感想もよろしくな」
「ん……!」
三人は俺が用意したフォークを使って、パンケーキを口に運ぶ。
「……! う、うまっ⁉ これ本当に低糖質⁉」
「疑いたくなるくらいの甘さだね……パンケーキもふわふわだし」
カノンとミアの顔が、驚きに染まっている。
いいリアクションだ。
俺としても安心する。
「甘くて、ふわふわで、とても美味しい。でも、すごく甘いのにクリームが口の中に残らない……どうして?」
「有名なカフェのホイップクリームを参考にしててな。クリーム自体も、少し糖質を抑えてあるんだ」
生クリームには、含まれている脂肪によって種類が分かれる。
その中でも低脂肪の物が理想に近いのではないかと思った俺は、脂肪がカットされている生クリームを選んでみることにした。
そして砂糖の量も、本来使う分からある程度減らしている。
こうなると確かにしつこさは消えるのだが、反面甘さもかなり控えめだ。
ただパンケーキ自体もしっかり甘くしてあるし、大食いにはちょうどいいあっさりさになっている気がする。
「砂糖を使わなければもっと糖質を抑えることもできるが、多少味が変わる可能性があってな。まあ気になるようなら、今度また別パターンとして作ってみるよ」
「……あたし、あんたがカフェでも開いたら、毎日通う自信があるわ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
どうやらかなりお気に召してもらえたらしい。
実は今日に至るまで、理想のホイップクリームを作るべくこっそり実験をしていた。
そうして行き着いたのが、今食べてもらった物。
砂糖の量などももちろん大切なのだが、それと同じくらい大切なのが、口当たりだった。
泡立てすぎるとクリーム自体が硬くなり、もったり感が出て必要以上に甘味を強く感じてしまう。
それをクリームに角が立つ程度の硬さに抑えることで、口当たりの良さによるしつこさの軽減に成功した……というわけだ。
しかし、悔しさも残る。
ここまで力を尽くしても、カフェで食べたパンケーキとクリームには遠く及ばない。
もちろん向こうは小麦粉も砂糖もふんだんに使っているわけで、材料に指定がある中でここまで仕上げたのは、我ながらよくやったと思う。
それでもこうして妥協しなければならないという部分が、ただひたすらに悔しかった。
ここで得た物を無駄にしてはならない。
俺は自分にそう言い聞かせ、至高のパンケーキをこいつらに食わせると心に決めた。




