表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/280

45‐2

「ボクらのチャンネルにきちんとファンを喜ばせる力があれば、皆は必ず登録してくれる。まずはチャンネル登録者数を伸ばすことを目標にして、ミーチューブでしか見られない、特別感を掻き立てられる動画を出すべきだってボクは思う」

「あたしとしては異議なしよ。玲とりんたろーは?」


 話を振られた玲は、首を横に振る。

 俺もこの件に関しては、素直に同意を示した。


「あたしもこの動画は再生数を取れるって思ってた。挨拶動画の次に切るカードとしては、最適かもしれないわね」


 ノートパソコンを手に取ったカノンは、何やら操作を始める。

 早速投稿の準備を始めているのだろう。

 俺としてもこいつらのチャンネルが一気にどこまで伸びるのか、楽しみでならない。


「……チャンネル登録者といえば」


 ふと思い立ち、俺はスマホのミーチューブアプリで、ミルスタのチャンネルを確認する。

 そしてそこに記されたチャンネル登録者数を見て、俺は目を見開いた。


「っ! おい! お前らのチャンネル……!」


 俺がそう言うと、各々が自身のチャンネルを確認し始めた。

 そして全員が揃って目を見開く。


「「「ひゃ……百万人……」」」


 リアクションまで一緒だった。


「すげぇな……! たった一日でここまで」

「順調すぎて怖いくらいだね……でも素直に嬉しいよ」


 どこかホッとした様子で、ソファーに深く座り直すミア。

 その隣には、無理やりドヤ顔をしているカノンがいた。


「ま、まあ? あくまで通過点だし? これくらいは当然っていうか……」

「カノン、本音は?」

「嬉しいに決まってるじゃないの! レイ! あんたはどうなの⁉」

「もちろん嬉しい。ファンの皆が、わざわざミーチューブでも応援してくれてる……それがすごく嬉しいよ」

「……そうね!」


 登録者数が一日で百万人を超えるケースは、決してミルスタが初めてというわけではない。

 ただ前例が限りなく少ないことは事実だし、快挙であることに間違いはないわけで。

 今はこの結果を素直に喜んでも、罰は当たらないだろう。


「……でも、喜んでばかりじゃいられないわよ。今日もこれから一本撮らないと、ストックとしては不安なんだから――――」


 カノンが言葉を言い切る前に、リビングに腹の虫が鳴く声が響いた。

 俺、カノン、ミアの視線が、鳴き声の聞こえた方に向けられる。

 

「……お腹空いた」


 お腹を押さえた玲が、聞き慣れたセリフを口にした。

 ついさっき一つの偉業を成し遂げたばかりだというのに、こいつはどこまでいってもマイペース。

 まあ、それがいいところでもあるのだが。


「今日やる企画って、まだ決めてないんだっけ?」

「え? あ、そうね……」

「それなら、前に言ってた大食い企画はどうだ?」


 こんないい機会も中々ない。

 お祝いもかねて、最近覚えたとっておきのスイーツをごちそうするとしよう。



 キッチンに移動した俺は、下校中に購入した材料たちを台の上に並べた。

 ここにある物を使って、俺は最高の低糖質スイーツを作る。

 ちなみに低糖質とは、言葉の通り糖質を抑えてカロリーを下げた物のことを指す。


「まずは……っと」


 俺は小麦粉をふるいにかけ、ボウルの中に落とす。

 そして卵、大豆粉、ベーキングパウダー、バニラエッセンスを加え、そこにアーモンドミルクを流し込んだ。

 大豆粉というのは、大豆を砕いて粉末状にした物。

 小麦粉の代わりになり、糖質をかなり抑えることができる優秀な代物だ。

 ただ普通に作るよりも、多少パサつきなどが出てしまうことがある。

 その対策のために、俺は工夫を用意した。

 それがこの絹ごし豆腐である。

 ――――スイーツに豆腐? と思う人もいるだろう。

 俺も料理を始めた当時はそう思っていた。

 しかし、今なら豆腐という食材のポテンシャルを百パーセント信じることができる。

 

(これがいつも楽しいんだよな……)


 俺はボウルに対し、新たに豆腐をぐちゃっと潰してから入れる。

 こうして豆腐を入れることで、生地をふんわりさせ、パサつきを抑えてくれるのだ。

 小麦粉を使わないことによって現れる弊害を、これである程度緩和することができる。

 ハンバーグとか肉団子にも応用できるし、これから料理を始める人には、是非とも知ってほしい使い道だ。

 こうして豆腐まで入れたら、あとは砂糖を入れて混ぜるだけ。

 本気で糖質制限をするなら砂糖も使うべきではないのだが、今回はあくまでできるだけカロリーを抑えるという話だから、ここは惜しみなく使っていく。

 というのも、糖質オフの甘味料は風味に多少の癖があるのだ。

 俺は大丈夫でも、玲たちが食べられるかどうかは分からない。

 だから砂糖はそのまま使う。

 もちろん入れる量自体は抑えめにするが。


「次は……」


 書き記していたメモを見て、次の工程を確認する。

 もうこの生地の中に追加する物はない。

 となると、次はもう焼く段階に入る。

 このままフライパンで焼き始めてしまってもいいのだが、ここで一つやっておきたいことがあった。


(こればっかりは挑戦だな)


 少しワクワクしながら、俺は冷蔵庫から生クリームを取り出した。



「悪い、待たせたな」


 完成したデザートを、玲たちの前に持っていく。

 

「俺特製低糖質パンケーキだ。小麦の代わりに大豆粉と豆腐を使って、糖質をかなり抑えてある」

「「「おお……!」」」


 綺麗に焼けたパンケーキと、それに添えられた純白のホイップクリーム。

 もう気づいている人も多いだろうけど、これはシロナと行ったカフェのパンケーキを参考にして作ったものだ。

 脳が溶けそうなほどの甘味を感じつつ、それでいてしつこくない不思議なあの感覚。

 それに少しでも近づくよう、ホイップクリームの作り方にはかなりこだわってみた。

 味見した限りでは成功していたが、こいつらの舌に合うだろうか?


「凛太郎、これ食べていいの?」

「ああ。小さく切ってあるから、それぞれ一つずつ食べてみてくれ。味の感想もよろしくな」

「ん……!」


 三人は俺が用意したフォークを使って、パンケーキを口に運ぶ。

 

「……! う、うまっ⁉ これ本当に低糖質⁉」

「疑いたくなるくらいの甘さだね……パンケーキもふわふわだし」


 カノンとミアの顔が、驚きに染まっている。

 いいリアクションだ。

 俺としても安心する。


「甘くて、ふわふわで、とても美味しい。でも、すごく甘いのにクリームが口の中に残らない……どうして?」

「有名なカフェのホイップクリームを参考にしててな。クリーム自体も、少し糖質を抑えてあるんだ」


 生クリームには、含まれている脂肪によって種類が分かれる。

 その中でも低脂肪の物が理想に近いのではないかと思った俺は、脂肪がカットされている生クリームを選んでみることにした。

 そして砂糖の量も、本来使う分からある程度減らしている。

 こうなると確かにしつこさは消えるのだが、反面甘さもかなり控えめだ。

 ただパンケーキ自体もしっかり甘くしてあるし、大食いにはちょうどいいあっさりさになっている気がする。


「砂糖を使わなければもっと糖質を抑えることもできるが、多少味が変わる可能性があってな。まあ気になるようなら、今度また別パターンとして作ってみるよ」

「……あたし、あんたがカフェでも開いたら、毎日通う自信があるわ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん」


 どうやらかなりお気に召してもらえたらしい。

 実は今日に至るまで、理想のホイップクリームを作るべくこっそり実験をしていた。

 そうして行き着いたのが、今食べてもらった物。

 砂糖の量などももちろん大切なのだが、それと同じくらい大切なのが、口当たりだった。

 泡立てすぎるとクリーム自体が硬くなり、もったり感が出て必要以上に甘味を強く感じてしまう。

 それをクリームに角が立つ程度の硬さに抑えることで、口当たりの良さによるしつこさの軽減に成功した……というわけだ。

 しかし、悔しさも残る。

 ここまで力を尽くしても、カフェで食べたパンケーキとクリームには遠く及ばない。

 もちろん向こうは小麦粉も砂糖もふんだんに使っているわけで、材料に指定がある中でここまで仕上げたのは、我ながらよくやったと思う。

 それでもこうして妥協しなければならないという部分が、ただひたすらに悔しかった。

 ここで得た物を無駄にしてはならない。

 俺は自分にそう言い聞かせ、至高のパンケーキをこいつらに食わせると心に決めた。

 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ