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43‐2

 遅めの朝食を食べた後、雪緒は帰っていった。

 帰り際、無理をしないという約束を何度も要求され、それに対し一々頷く羽目になったが、やはりこうして助言をくれる存在がいるというだけでありがたく思える。

 雪緒には、改めてお礼を考えておこう。

 さすがに日頃の感謝が溜まりすぎている。

 

「ただいまー。りんたろー? 起きてるー?」


 それからしばらくして、玄関の方からカノンの声がした。

 どうやら三人とも帰ってきたらしい。

 リビングにいた俺は、出迎えるために玄関へと向かう。


「ああ、起きてるよ。おかえり」

「……うん、顔色がいいね。昨日はよく眠れたみたいだ」

「おかげさまでな。日頃の疲れが吹き飛んだよ」


 言葉の通り、体の調子はすこぶるいい。

 元々体調不良っていうレベルではなかったが、ずっと頭に霞がかかっているような、そんな感じはあった。

 それが今はきれいさっぱり消えている。

 こうして実感すると、睡眠が人にとってどれほど大事なものなのか分かる。


「あと……雪緒を呼んでくれてありがとな」

「……どんなこと話した?」

「俺の生活態度について、色々な」


 玲の問いに、俺はそう返す。

 この話は、後で必ずするつもりだ。

 今はひとまず三人の重そうな荷物を降ろしてやりたい。


「でかい荷物は俺が持つよ」

「そう? 助かるわ」


 カノンが持っていた、色んな物が雑多に入っている袋を受け取る。

 途端、腕が軽く軋むレベルの負荷がかかった。

 

「おっも……⁉」

「そう?」


 カノンが首を傾げている。

 マジでこの重さを屁とも思っていない顔だ。

 俺、こいつらと腕相撲して勝てるのかな……?

 試してみるのはやめておこう。二度と立ち直れなくなる可能性があるから。


「何をこんなに買ったんだ……?」


 運びながら、三人に問いかける。


「よくミーチューバ―が動画で使う物とか、あとは面白お菓子とか……目についた物を片っ端から買ったら、大荷物になっちゃったんだよね」

「それだけでここまで詰め込んだのかよ……」


 袋の中身をよく見てみれば、確かにミーチューブでよく見るグッズたちが入っていた。

 代表的なところで言うと、コーラとチューイングキャンディの組み合わせとか。

 このチューイングキャンディをコーラに入れ、化学反応で液体が噴き出してくるのを楽しむ。

 ミーチューブ上の企画としては、かなりポピュラーな印象だ。


「最初は何事も形から入るものだからね。後でこれを用意しておけばよかったってならないように、全部詰め込んだんだ」

「……なるほどな」


 それにしても買いすぎだと思うが、ここまで来たら野暮だな。

 熱量があるのはいいことだし。

 ひとまずリビングに移動し、玲たちはテーブルの周りに購入してきたグッズたちを並べ始める。

 

「スライムで遊んでる動画とかもあったけど、実際楽しいのかしら……?」


 カノンが、緑色のスライムが入ったおもちゃを手に取って言う。


「ねぇ、りんたろー。男子に聞きたいんだけど、こういうのってやっぱり気になるもの?」

「まあ……この年になってもちょっとワクワクするな」

「ふーん? 可愛いところもあるじゃない」

「ウザッ……!」


 カノンだけでなく、全員からニヤニヤした顔を向けられ、俺は不貞腐れたフリをして逃げる。

 確かにガキ臭いとは自分でも思うが、考えてもみてほしい。

 子供の頃、コーラやスライムに一度も憧れなかったか?

 遊んでみると、思ったより大したことないというのは分かっている。

 だけどそんなこと、実際に触ってみなければ理解できない。

 だからこの手で触れるまでは、ずっと憧れのままなんだ。


 ――――俺は一体何について熱くなっているのだろう?


「ボクらがスライムでぬるぬるになったら、皆見てくれるかな」

「ぬるぬる遊び、楽しそう」


 おもちゃを眺めながら、ミアと玲が言う。

 スライムでぬるぬるのべたべたになった彼女たちの姿は、きっと需要が高いことだろう。

 主に変態たちの界隈で。


「馬鹿ども! そんなのあたしが許すわけないでしょ!」

「じょ、冗談だよ、カノン。センシティブな映像はNGなんでしょ?」

「まったく……ちゃんと心得てよね? 今からそういう方向性で売っていこうとしたら、これまでのファンが離れちゃうかもしれないんだから」

「分かってるよ。こういうのはどちらかというとツインズの専売特許だろうしね。今から追い抜けるならやる価値もあるんだろうけど、ボクらにとってはリスクしかない」

「その通りよ」


 ミルスタがセンシティブ寄りの売り方を始めれば、一時期は話題になるだろう。

 しかしそこからは、俺も甚大なファン離れが起きると思う。

 特にミルスタはかなり万人受けしているグループであり、女性ファンも多い。

 中にはそういうコンテンツが苦手な人だっている。

 話題になればなるほど、そんな人たちから離れていってしまうはずだ。

 その辺り、目先の成果だけを見て飛びつかないところが、真っ直ぐ人気を得ていく秘訣なのかもしれない。


「ツインズに勝てる企画って、なに?」

「難しいこと聞いてくるじゃない……まあ、今はとりあえず自分たちで決めた企画を進めていくしかないと思うわ。まずはあたしたちの中にノウハウを叩きこまないと」

「ん、分かった」


 玲とカノンのやり取りを聞いた上で、俺は改めて並べられた道具たちを眺めてみる。


「……そうなると、この中に今出てる企画で使える物ってあるか?」

「「「……」」」


 そうだよな、ないよな。


「どうすんだよ、これ」

「つ、使うわよ! もったいないし」

「それならいいけどさ……」


 別に俺の金ってわけじゃないし、自分で稼いだ金くらい自由に使えばいいと思うけど、これだけの荷物は残しておいても普通に邪魔になる。

 この家も広いとはいえ、空間は有限。

 物が多いと散らかっているように見えるし、不必要な物はできるだけ置いておきたくない。


「お菓子類は食えばいいけど……あ、でもお前らこういうのはあんまり食わねぇか」


 スナック菓子とか、甘いやつとか、こいつらがそういう物を食べているところを、これまでまったくと言っていいほど見ていない。

 きっとカロリーなどを気にしているのだろう。

 とても健康にいいとは言えないし。

 

「ん、私は凛太郎のご飯が食べられなくなるから食べないだけ」

「まあ最近はボクもレイと一緒かな」

「お菓子で埋める胃袋があるなら、その分あんたの料理を詰め込むわ」


 えー、嬉しいこと言ってくれるじゃーん。

 なんて、心の中ではかろうじて茶化すことができたが、現実では喜びと照れが入り交じり、口をパクパクさせることしかできなかった。


「……そうはいっても、この量はさすがになんとかしないとね」

「事務所の人とか、学校で配るっていうのはどうかな」

「むしろそれくらいしか思いつかないわね。……さすがに反省だわ」


 きちんと反省しているようだし、これ以上は俺もとやかく言うまい。


「早速動画撮るのか?」

「いや、少し休憩してから撮るつもりだったわ」

「そうか……じゃあ、休憩がてらちょっと話を聞いてもらっていいか?」

「?」


 話すなら、できるだけ早い方がいい。

 そう判断した俺は、三人の顔を順番に見る。

 そしてさっき雪緒と話して気づかされたことについて、ゆっくりと話し出した。

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