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42‐2

「じゃあ大食い企画の方はレイと凛太郎君に任せるとして……ルーティーン系の動画はボクとカノンが主軸になって回していく?」

「そうね。でも、その……ちょっと言いづらいんだけど」

「分かってるよ。カノンが朝に弱い件でしょ?」

「うっ……」


 寝起きに極端に弱いカノン。

 モーニングルーティーンを本当で撮ろうと思えば、あの寝起きの悪さは致命的だ。

 しかし他の二人のルーティーンを撮影するなら、カノンの映像も必須になる。

 一人だけ投稿されないとなれば、カノン推しの人は悲しみ、疑り深い人は何かあるのではないかと探ろうとする。

 面倒くさい話になることは、まず間違いない。


「……でもまあ、脚色を加えればなんとかなると思うよ? 実際にルーティーン動画を上げてる人だって、いつもの行動をなぞるようにして撮影しているだけで、本当に寝起きってわけじゃないと思うし」

「俺もそれでいいと思うけどな……」


 そう、実際に寝起きから撮影する必要なんてない。

 あれはあくまで朝においての活動を見せているだけで、実際は起きてから少し時間が経っている。

 少なくとも、一度起きてカメラを準備する時間は設けているはずなのだ。

 でなければベッドから起き上がる瞬間を撮影することはできない。

 中には本当に夜中から起きるまでカメラを回し続けている人もいるのかもしれないが、極めて少数だと思う。

 

「……駄目よ。あたしの朝は、ファンのみんなには見せられない」


 しかしカノンは、悔しげに否定の言葉を口にした。


「これまでルーティーンを投稿してきた人たちは、起きてから投稿用に撮り直しているだけで、その行動自体に嘘はないはずよ。でもあたしの寝起きを見せられるくらい脚色するなら、一から百まで取り繕わないといけない……それはファンのみんなに失礼よ」

「……」


 ここまで自分を追い込んでいる者に、一般人のタフネスしか持っていない俺は言葉をかけることができなかった。

 寝起きの悪さは、カノンにとって弱みなのだろう。

 そもそもそういう部分を外に見せるというのが、彼女の中では耐え難いということだ。

 

「ごめん、言い出しといて悪いんだけど、モーニングルーティーンの方はやっぱりなしにしてほしい。代わりの企画はあたしが出すから」

「……人がやりたくないと言うことまで、無理やらせるような趣味は誰にもないよ。そんなこと言わず、一緒に考えよう。ボクらがやってみたいことを口にしていけばいいんだから」

「っ、そうね! ありがと」


 カノンの顔に笑みが戻る。

 こうやってお互い支え合ってここまで来たんだな。

 今更ながら、このチームワークには感心する。


「レイ、他にやりたいことはない? 結構熱心に調べてたみたいだし、大食いの他にもあるんじゃない?」


 そう言いながら、ミアは俺の方をちらりと見た。

 もしやこいつ、夜中に玲がミーチューブを見ていたことに気づいているのか。

 意味ありげな視線を向けてきているということは、もうそういうことだろう。

 ちなみに、カノンはなんの話かまったく分からないようで、きょとんとしていた。

 ひとまず見えないところでホッと胸を撫でおろす。


「一万円企画とか、あれも楽しそう。あと目隠しして私たちの曲を踊ってみるとか……どっきりもやってみたい」

「へぇ、どれも面白そうじゃない。片っ端からやってみる?」


 カノンのネタ帳に、それぞれの意見が書き込まれていく。

 想像よりも多くの企画が並んだ。

 これならば、少なくとも投票期間まで動画の内容には困らないだろう。


「それじゃ機材が届き次第、〝ミーチューブを始めます!〟ってタイトルで一本取るわよ!」


 そんなカノンの言葉で、今日の会議は締めくくられる。

 話し込んだ結果、なんだかんだ夜遅い時間になってしまった。

 今日のところはもう寝る準備を始める頃合いだろう。


「さて……風呂どうする? いつも通りお前らからでいいけど」

「助かるわ。じゃあさっさと済ませ――――」


 そう言ってソファーから立ち上がろうとするカノンの腕を、何故かミアが掴んでいた。


「まあまあ、待ちなよ」

「……何よ?」

「最近のボクら、あまりにも凛太郎君をこき使っていると思わないかい?」


 いきなり何を言い出すんだ、こいつ。


「きっと凛太郎君も苦労しているに違いないよ」

「いや、別に苦労ってほどじゃ――――」

「してるよね? 苦労」

「……はい」


 ミアの目は言っている。

 ここで頷かなければ、玲の夜更かしを助けた件をカノンに話すぞ、と。

 この後何を言い出すのか分かったもんじゃないが、ここは頷くしかない。


「そうだよね。やっぱりボクらは凛太郎君に苦労をかけてるよね。ボクはそれをとても申し訳なく思ってるんだよ」

「どうしたのよ、急に……確かにりんたろーを頼りすぎてる自覚はあるけど」

「申し訳なく思っているからこそ、ボクらのせいで溜まった疲れは、ボクらで解消してあげるべきなんじゃないかな」

「う、うーん?」


 なんだろう、すでにとてつもなく嫌な予感がする。

 玲がいい考えがあるって言う時と、ミアが親切にしようとしてくる時は、大抵ろくなことが起きない。

 それがこいつらと付き合うようになって、俺が学んだことだ。


「というわけで、皆で凛太郎君の背中を流してあげよう」

「断る……!」

「あれ、いいのかな? 疲れてないの?」

「うぐっ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ミアは俺の顔を覗き込んでくる。

 まさか玲との一件が人質に取られることになるとは。

 つーかそういうのは玲本人を脅すために使えって。 

 これで逆らえなくなっている自分も大概だが――――。


「ほら、二人はどうする?」

「……私はやる。凛太郎の背中、流したい」

「そうこなくっちゃ。それで、カノンは?」


 そう問われたカノンの肩が、びくっと跳ねる。


「ど、どう考えてもハレンチなやつでしょうが! それ! NG! 絶対NGよ!」

「あ、もちろん裸じゃないよ? ボクらは水着を着るつもりさ」


 俺も水着は着ていいよな?

 それならまだマシなんだけど。


「水着って……あんたねぇ……!」

「別にボクら以外誰もいなんだから、この家の中くらいはしゃいだっていいじゃないか。ずっとお利口さんでいる意味はないんだよ?」

「お利口さんって、別にそういう意味で言ってんじゃ――――」

「じゃあボクとレイだけでいいよ。カノンはここで待ってれば?」

「ぐぎぎ……!」


 美少女が『ぐぎぎ……』とか言うところ初めて見たな。

 この時点で、カノンもミアの手のひらの上。

 今ここにいる人間で、純粋な口の上手さでミアに敵う者はいない。

 そもそも俺の背中を洗うことに大した価値はないはずだが。


「……分かったわよ! やるわよ! このまま退いたら女が廃るもの!」

「そう言ってくれると思ったよ」

「ほらりんたろー! さっさと風呂場に行くわよ!」


 ムキになったカノンに、手首をつかまれる。

 これも傍から見れば、すべてただのご褒美に見えるのだろう。

 俺にとっては生殺し、はたまた拷問といったところだ。

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