42‐1 日々のご褒美
「よし、じゃあ引き続きミーチューブに向けての会議を始めるわよ!」
次の日の夜、俺たちは再びリビングに集まっていた。
今日は全員学校以外の予定がない日。
つまり昨日よりも時間に余裕がある。
ちなみに夜更かしをしていた玲だが、案の定授業中に舟を漕いでいた。
かなり疲れているであろう中で、爆睡しなかったことを褒めてやるべきか。
本人的にはちゃんと反省しているようだから、カノンには黙っておいてやろう。
「カノン、結局機材は借りられそうなのかい?」
「とりあえずOKはもらった。ミーチューブ撮影自体は、本業に差し支えない程度であれば大丈夫だって。あ、それと撮影した動画は一旦マネージャーに確認してもらえって言われたわ」
「まあ確認してもらう必要はあるだろうね……結局ボクらはミーチューブ素人なわけだし、映っちゃいけない物にまで意識が向かないかもしれないし」
「機材は、明日この家に届けてもらうことになったわ。準備も必要だし、本格的に撮り始めるのは明後日からになりそうね」
そこまでの話を聞いて、俺はふと疑問に思ったことを口に出した。
「そういえば、お前らにも一人一人マネージャーがついてるのか? その辺の話って全然聞いたことなかったけど……」
「いや、ボクらのマネージャーは一人だけだよ。もちろんヘルプで別の人が入ってくれることはあるけど、基本的にはその人だけで事足りてるね」
「へぇ、敏腕なんだな」
「ボクらの実績のこともあってか、事務所側がかなり優秀な人をつけてくれたんだ。ちょっと変人なところもあるけど……職場の中では、一番信頼している人と言っても過言ではないかな」
ミアがそう言うと、玲もカノンも同意するように頷いた。
個性的なこいつらをサポートし続けている敏腕マネージャー、か。
気にならないと言ったら嘘になるな。
「ふふっ、安心してよ、凛太郎君」
「は? 何がだよ」
「そのマネージャーは女の人さ。ボクらとしても、近くに君以外の男性を置くことに抵抗があるからね」
からかうような表情を浮かべながら、ミアがずいっと距離を縮めてくる。
「あら? あらら⁉ もしかして嫉妬しちゃったのかしら⁉ りんたろーってば、意外と可愛いところもあるじゃない!」
「プライベートのことまで知っている男の人は、凛太郎だけ。だから安心していい」
ニヤニヤしているカノン、そして何故か真剣な表情で言ってくる玲。
こっちは別に嫉妬なんてしてないってのに――――。
……いや、してないよな?
「っ! ええい! 離れろ離れろ!」
腕で三人を制し、距離を取らせる。
「おっとっと……残念、もっとからかいたかったのに」
「関係ないこと聞いて悪かった! 話を続けてくれ!」
これ以上突っ込まれればボロが出る。
ひとまずこの場を凌ぐべく、俺は会議の先を促した。
「まあ照れ屋なりんたろーは置いといて、話を進めるわよ」
ド突くぞマジで。
「企画、何やるの?」
「そうね……前にもチラッと話した、モーニングルーティーンとナイトルーティーンは撮れると思う。それぞれ一本ずつ撮ったとして、三人だから六本分は確保できるわ」
少しセコイ気がしないでもないが、忙しい中で動画のストックを作るなら、そういうこともしないといけないのだろう。
別に手を抜こうって話をしているわけではないんだし。
「ボクからの企画提案なんだけど、ファッションチェックっていうのはどうかな? 自惚れかもしれないけど、普段着が気になるってファンの人もいると思うし」
「普段着ね……悪くないじゃない」
カノンは手元にあるノート、いわゆるネタ帳に、自分のネタとミアが出したネタを書き込む。
聞いている限り、ルーティーン動画、ファッションチェック動画は共に需要のあるネタだと思う。
テレビやライブでは見られない、新鮮な姿が見られるのだ。
熱狂的なファンからも、ライトなファンからしても、興味を惹かれることは間違いない。
「レイはどうかな。何か思いついた?」
「私は、大食いをしてみたい」
「お、大食い?」
ミアの目が驚きのあまり丸くなる。
「凛太郎の作ってくれたご飯を、皆で大食いする。凛太郎のご飯もたくさん食べられるし、動画も撮れて、一石二鳥」
「……まさかとは思うけど、あんた、りんたろーの料理をたくさん食べたいだけじゃないわよね」
「…………違う」
「その意味深な間がイエスって言ってる!」
しれっとした態度で目を逸らす玲を見て、俺は苦笑いを浮かべた。
しかし、大食いというのはいい着眼点なんじゃなかろうか。
なんとなくミーチューブを見ていると、よくお勧めに出てくる気がする。
必ず伸びるとは言い切れないが、伸びる可能性が高いことは間違いない。
「まあ……悪くはないわね、大食い企画。あたしらが想像以上に食べてたら、ファンを驚かせられるかも」
「うん、それは面白そうだ」
面白そう――――。
その言葉を聞いた玲の頬が緩む。
深夜に言っていた通り、玲がもっとも重視する点は、楽しめるかどうか。
カノンとミアが同じ気持ちになれるかどうか心配だったが、どうやらその必要もなさそうだ。
「でも何を大食いすれば盛り上がるかな? 揚げ物とかは引かれてしまう可能性もあるんじゃない?」
「そうね、ファンの皆にも変に心配させることになりかねないわ。主に健康面で」
ごもっともだと思う。
俺はこいつらの胃袋の強さを知っているから、それを見ても何も驚かない。
しかし、普段の食生活を知らない人たちはどうだろう。
(うん、十中八九引くな)
俺はちらりとキッチンの方を見て、苦笑いを浮かべた。
うちの冷蔵庫は、一般的な物と比べてかなり大きい。
そんな特大冷蔵庫の中に、今も所狭しと食材が詰めてある。
ただ、今ある食材ですら、精々一週間分といったところだ。
あれだけの量を一週間で食い尽くす様は、いくらなんでもイメージとかけ離れすぎている。
おそらく事務所NGが出るはずだ。
「スイーツなら、もっといっぱい食べられるかも」
「いや、あんたの食べたい物の話じゃなくて……まあ揚げ物とかよりはマシかしら?」
大食いできるスイーツか。
ただこいつらの場合、プリンやアイスといった質量が少ない物はほぼ無限に食べられてしまう。
いつか満足するにしても、こちら側の作る労力がえげつないし、材料も足りない。
となると、質量があり腹にたまるであろう物が理想か。
「カノン、いくら大食い企画って銘打っても、カロリーが低いに越したことはないよな?」
「え? ああ、そうね。間違いなくその方がありがたいわ」
「うーん……」
質量があって、カロリーが低くて、見栄え的にもいいスイーツか。
情けないが、今あるレパートリーではその条件を満たす料理が思いつかない。
いくつか条件に近い物はあれど、すべてを満たすというのは中々に難しい。
しかし、ここでできないというのは俺のプライドが許さなかった。
「……少し時間をくれねぇか?」
俺は三人にそう問いかける。
「玲の大食いに適したスイーツは、俺が必ず見つけて作ってやる。だからこの企画に関しては、俺に任せてみてほしい」
まだ何も見当はついていない。
だけど、何故か漠然とした自信が俺の中にはあった。
「……私は凛太郎に任せる。大食いするなら、やっぱり凛太郎の作った物がいい」
「うん、凛太郎君がやるって言うなら、ボクも任せるべきだと思うよ。君は信頼できる人だからね」
「あたしも異議なしよ。あんたならできるでしょ」
――――思ったよりもプレッシャーをかけられてしまったな。
ただ、まったく嫌な気はしない。
見つけてやろう、最高の大食い用スイーツを。




