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41‐2

「おかえり、凛太郎」

「ああ、ただいま……って、もう全員集まってんのか」


 家に戻ってきた俺は、リビングに三人が揃っているのを見て驚いた。


「今日は雑誌の撮影で遅くなるとか言ってなかったか?」

「トラブルがあって、撮影はリスケしてもらったのよ。それで今日はほとんど会議だったわ」

「一体……何があったんだ?」


 俺がそう問いかけると、三人の顔が険しくなる。

 その中で言いにくそうにしながらも、答えてくれたのはミアだった。


「チョコレート・ツインズの方から、正式にオファーがあったんだよ。ミルフィーユスターズとチョコレート・ツインズの二つのユニットによる、人気投票対決って企画のね」

「人気投票対決……?」

「ファンたちにどちらのユニットを応援したいか選んでもらって、投票数が多い方が勝ち。期間は十一月半ばから一週間。その間に投票してもらう――――って話みたいだよ」


 一週間での人気投票勝負か。

 それならミルスタの方に軍配が上がるのではないかと、俺は思う。

 ツインズも爆発的に売れているとはいえ、ミルスタにはまだまだ敵わないはず。

 ミルスタの売れ方は、本当に桁違いなのだ。

 歴代でも類を見ないブームを前にして、専門家が分析しようとしているとも聞く。

 まさに時の人。

 正面からやりあったところで、ミルスタが負けるとは思えない。

 

「りんたろー、今あんた、あたしたちが負けるはずないって思ってるでしょ」

「え? あ、ああ……そうだけど」

「あたしもそう思ってるわ。でも結局それは、メディア全体を舞台として戦った場合の話よ」

「……それの何が悪いんだ? メディア全体が舞台になって勝てるなら、他にはいらねぇだろ」

「そうね。でも、ある限定的な場所では、あいつらはあたしらの人気を凌ぐ」

「……まさか」


 カノンは、納得いかないといった様子でため息をつく。

 そして自分のスマホで、とあるアプリを開いた。


「ミーチューブ……あいつらが投票の場に指定したのは、自分たちの本拠地とも言えるこのサイトのアンケート機能よ」


 ミーチューブとは、全世界でもっともポピュラーである超大型動画配信サイトのこと。

 多くのインフルエンサーを生み出したこのサイトで、ツインズは多大な人気を得ている。

 元々ここ出身ということもあるだろうが、メジャーデビューした今でも活動を止めていないのが人気の秘訣と思われる。


「残念ながら、ボクらはインターネットでの活動にはてんで力を入れていなくてね。もちろん楽曲なんかはサイト上にあったりするんだけど、ボクら自身が動画をアップしたことは一度もないんだ」

「……なるほどな」


 一言でいうなら、超絶敵地ってことだ。

 ただ今時ミーチューブを見ない人の方が少ないだろうし、ミルスタのファンだって間違いなくサイトを見ているはず。

 それなら票だって入れてくれるに違いない。

 しかし結成から現在に至るまでミーチューブで精力的に活動しているツインズは、いわゆる信者レベルのファンをサイトの中でたくさん抱えている。

 何か情報が投稿されればすぐに反応するだろうし、全員必ずツインズに票を入れるだろう。

 それでも圧勝されるなんてことにはならないだろうが――――どうだろう、勝てると言い切ることもできない。


「互角か、あたしらの僅差負け……それが今のところの分析よ」

「……それが分かってるなら、そもそも勝負を受けないとか、投票方法を変えてもらうとかできないのか?」

「残念ながら、うちらの事務所の上がこの話に乗り気なの。っていうか、向こうの事務所から変に挑発されたみたいでね……引くに引けなくなったらしいわ」

「意外と喧嘩っ早いのな……どっちも」

「舐められたら仕事持っていかれちゃうしね。投票方法を変えるって話は、今交渉中よ。……でもまあ、あんまり期待できないけど」

「なんでだよ?」

「投票の舞台を変えれば、あたしたちが百パーセント勝つからよ。分かりきった勝負じゃ人の心は動かせない……それに事務所の上の連中は、ミーチューブでもあたしたちが圧勝すると思ってる。信頼してくれるのはありがたいけど、もう少し分析してほしいもんだわ」


 カノンは呆れた様子でそう言った。

 要はファンタジスタ芸能側も乗り気なせいで、不利な勝負を飲まざるを得なくなったということらしい。

 それじゃ味方なのか敵なのか分からない。


「まあすべてスタッフが悪いって話ではないさ。ボクらだって、本気で嫌だったら断ることもできるんだし……でもそれだと悔しすぎるから、強く拒まないだけだからね」

「それが一番厄介なの! ここで断ったら一生逃げたとか言われるようになりそうだし……武道館ライブの前に変な汚名がつくのはごめんだわ」


 気持ちの問題と言われれば、それまで。

 しかし俺ですら、そのモヤモヤした気持ちは理解できる。 

 断れば、その時点で嫌な記憶を背負うことになる。

 だとしたら、負けのことも視野に入れつつ、立ち向かう他ない。


「ボクらが何も失わず今の状況を乗り越えるためには、ミーチューブ上でツインズの人気を超えるしかないってわけだ」

「難しいこと言ってくれるじゃない……」


 ミーチューブ上でツインズの人気を超える。

 それは地上波でミルスタよりも注目されるようになれと言われることに近い。

 

「じゃあ……私たちもやる? ミーチューブ」


 ミアとカノンが、玲の方を見る。

 

「……そうだね。それしかないか」

「このまま何もしないよりはマシよね」


 まだ投票期間までには時間がある。

 確かに今のうちからミーチューブでの活動を始めておけば、少しは差が埋まりやすいかもしれない。

 やらないという選択肢はなさそうだ。

 しかし、俺の中に一つの不安が生まれる。


「ミーチューブで活動するって話は理解したけど、お前ら時間は大丈夫なのか? しばらく忙しいって言ってなかったか?」


 動画を投稿するためには、まず収録して、編集する必要があるわけで。

 クオリティを気にしないのであれば隙間時間でも投稿くらいはできるかもしれないが、ツインズよりも注目されることを目標とするなら、その程度では不十分なはず。


「そうなのよね……編集に関しては事務所のスタッフにお願いすればいいかもしれないけど、まず収録してる時間が……ない?」

「? どうしたんだい? カノン」

「いや……今撮ればよくない?」


 カノンの言葉に、ミアと玲はハッとした様子を見せる。

 

「こうして家で集まって話せる時間があるんだから、この家にいる間に撮っちゃえばよくない?」

「……確かにそうだね。ボクらのこれまでの活動からして、プライベートに注目した方が見てくれそうだし、その内容なら時間を無理やり確保しなくて済む」

「モーニングルーティーンとか、ナイトルーティーンって需要あるんじゃないかしら⁉ ちょっと恥ずかしいけど、需要があるならやれるわ!」


 二人の話す内容は、かなり理に適っていると感じた。

 未成年は遅くまで働かせられないという理由で、三人は遅くとも日付が変わる前には帰ってくる。

 その後は普通に休んでいることが多いのだが、カノンたちはその時間を利用しようと言っているわけだ。

 

「あ、っていうかこの家って撮影NGだったりする?」

「NGってことはねぇけど、俺の私物とかは映らねぇようにしてくれよ。絶対変な奴らに突っつかれるから」

「それはこっちで気を付けるから大丈夫よ」

「なら撮影に使う分には問題ねぇよ」


 一応親父に確認を取るつもりではあるが、おそらく止められることはないはずだ。

 家の中が映っても、もう十何年とここに人を招いたことがないわけで、中身自体を知っている人はほとんどいない。

 つまり特定に繋がる物が限りないく少ないということだ。

 

「よし、じゃあ撮影機材を借りられないか、さっそく明日事務所に話してみるわ! それから撮影が始まる前に、一人一つは企画を考えておくこと!」

「え、俺もか?」

「あんたも仲間なんだから、当然でしょ?」

「……分かったよ」


 これで方針は固まった。

 何故か俺の仕事も増えたわけだが……まあ、三人の役に立つのであれば、些細な問題である。

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