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30-4

 俺はカノンが買ってきた食材と、元々家にあった食材を手に取った。


「……なるほど、いいチョイスね」

「だろ?」


 俺が手に取ったのは、焼きそばだった。

 これなら一気に焼くことができるし、味も濃いから子供の舌によく合う。

 そんでもって大皿に盛っておけば、それぞれが食べたい分だけ取り皿によそえばいいから作り手としても手間が一つ減る。

 誰がどれくらい食べるか分からない時に使う手としては最良だ。


「よし、じゃあちゃっちゃと作るか。カノン、早速で悪いが野菜を切っておいてくれ。……っとその前に、子供たちに好き嫌いはあるか?」

「ないわ。そこだけはあの子たちの自慢なの」

「そりゃいいや。それじゃキャベツ、玉ねぎ、ニンジンを切っておいてくれ。ニンジンは火が通りにくいから、薄めに頼む」

「分かったわ。任せて」


 料理を手伝ってくれる人間がいるのは、こういう時においてありがたい。

 ぶっちゃけてしまうと、料理において俺はすべて一人でやりたいタイプだ。

 自分でも面倒臭いこだわりがあったり、効率よくこなすことに喜びを覚えるタイプでもあるから、基本的にキッチンは俺にとっての聖域と認識している。

 しかしここはカノンの家。

 人のキッチンでそんなことは思わないし、むしろ効率という面では俺の方が足を引っ張る可能性がある。

 だからこういう時は遠慮なく人を頼る。

 何がどこにあるかという質問も頻繁にしなくちゃいけないし、結局人の手はたくさんあることに越したことはない。

 

(カノンに野菜を切ってもらっている間に……っと)


 俺は麺を手に取り、少し封を開けて電子レンジに入れる。

 こうして少し熱を入れておくと、ほぐれやすくなって焼く際の煩わしさが減るのだ。

 レンジの時間は短くていい。

 その間にコンロに火をつけ、フライパンに油を引いておく。


「え、ちょっと待って! まだ野菜切り終わってないわよ?」

「大丈夫だ。そのまま作業を進めてくれ」


 カノンの焦りはごもっとも。

 基本的に火の通りやすさの関係で、炒める順番は野菜が最優先。

 故に自分がまだ作業中にもかかわらず火を使いだした俺に驚いたのだろう。

 しかしながら、俺が最初に焼こうとしているのは野菜ではない。


「せっかく期待されてるのに、普通の作り方じゃ面白くねぇからな」


 俺は温めが終わった麺を、そのまま油を引いたフライパンへと投入する。

 よくほぐれた麺を炒めて一通り火を入れた後、俺はそれをへらでフライパンに押し付けた。

 ジュウっといい音がして、麺たちに軽い焦げ目がついていく。

 この麵自体についた芳ばしさが、いい仕事をするのだ。


(そんでもって……)


 麺の量が多ければ、野菜の量もだいぶ増える。

 カノンの手際はかなりいい。

 切った野菜のサイズも揃っているし、丁寧だけど遅くない。

 それでも作業を終えるまでまだ少し時間が必要だろう。

 この間に俺ができることは――――。


「カノン、冷蔵庫にあったソース使ってもいいか?」

「え? い、いいけど……ここにある粉末ソースは使わないの?」

「ああ、ソースも別で作ろうと思ってさ」

「へぇ……それは楽しみね」


 俺は冷蔵庫からオイスターソース、ウスターソースを取り出した。

 それらを混ぜ合わせ、少し醤油を加えて一旦は完成。

 するとカノンの方も野菜を切り終わったようで、俺に声をかけてきた。


「切り終わったわ。どうすればいい?」

「一旦麺の方の火を止めるから、隣でキャベツから焼いてくれ。豚肉あったよな? それは最後に入れるから、途中で俺と交代して準備を頼む」

「分かった」


 別のフライパンを用いて、カノンは野菜たちを焼き始める。

 そして全体的に軽く火が通った段階で、俺はカノンと交代して麺にその野菜を混ぜた。

 焼き色のついた面をほぐしながら、野菜が均等になるように混ぜていく。


「そろそろ肉入れる?」

「ああ、渡してくれ」

「はいはい」


 一口大に切られた豚バラ肉を入れて、火を通す。

 量が量なだけに、混ぜるだけでも腕が辛い。

 しかしまあ、ここまで来ればあと一歩だ。


「最後はこれを……!」


 概ね火の通った麺たちに、作ったソースをぶっかける。

 するとソースが焼ける芳ばしい匂いがキッチンに充満し始め、俺とカノンの腹の虫を暴れさせ始めた。 


「いい匂いね……!」

「だろ?」


 そうしてソースを満遍なく絡ませれば、完成。

 大皿に盛って、カノンに持っていくように伝える。


「あんたたちー! 焼きそばができたわよー!」

「「「わーい!」」」


 可愛いガキどもだ。

 リビングの方からドタドタとカノンの持つ焼きそばの皿に集まっていく音が聞こえる。


 さて、俺にはまだやることがあった。

 カノンの買った物の中にあった卵を取り出した俺は、それを複数個合わせてかき混ぜる。

 

「え? まだ何か作るの?」


 取り皿を取りに来たカノンの問いかけに対し、俺は首を横に振った。


「新しい料理は作らねぇよ。これは焼きそばの付属品だ」


 軽く油を引いたフライパンで、俺は薄焼き卵を作っていく。

 察しのいい人ならもうお分かりだろう。

 薄焼き卵を皿に重ねた俺は、それを持ってリビングの方へと向かった。


「りんたろー、それ何?」

「後でのお楽しみだ。まずは焼きそばを食え」


 次男の冬季の問いにそう返した俺は、彼らを席へと座らせる。

 そしてカノン、琴音さんと共に、俺も席へとつかせてもらった。


「「「いただきます」」」


 全員で手を合わせて食前の挨拶をして、食事を始める。

 取り皿に山盛りによそった焼きそばを口に運ぶ子供たち。

 その瞬間、彼らの顔がパッと花咲いた。

 

「「「うまーい!」」」

「おー、そいつはよかった」


 子供たちがバクバクと焼きそばに口を付けていく様子を見て、俺も自然と笑顔になった。

 純粋さ百パーセントの彼らの反応は、やはり直接心を揺さぶってくる。

 

 ここで、ふと思った。


 この感覚は、玲が俺の料理で喜んでくれている時と似ている――――と。

 彼女の純粋さは、ここにいる子供たちとえらく近い。

 いや、まあ、高校生がそれでいいのかという話はあるが。

 

「本当に美味しい……本当に凛太郎君は料理が上手なのね」

「恐縮です。事情があって一人暮らしをしているので、自然と身についただけですけど……」

「そうなのね。立派だわ」


 琴音さんは優しげに微笑んでいる。

 すごくおかしなことを言う自覚はあるのだが、彼女はとても"母親"らしい。

 理想の母親というか、きっと彼女は自分の子供たちに無償の愛を捧げているのだろう。

 時には優しく、時には厳しく。

 カノンの存在を見るに、ここは家族という概念の理想の一つであるに違いない。

 

 ああ――――羨ましいな。


 頭に浮かんだその感情を、俺は振り払う。

 ひどく俺らしくない感情だ。

 久しぶりにクソ親父に会ったせいで、まだ頭がグチャグチャしているのかもしれない。


「っ……ほら、これも試してみてくれ! これはこれで美味い自信があるから!」


 俺は薄焼き卵を皆の前に置いた。

 それを見て何かに気づいた様子のカノンは、感心したような声を漏らす。


「あー! これを焼きそばに乗せるのね」

「そういうことだ。オム焼きそばってやつだな。お好みでソースとマヨネーズをかけて食べてくれ」


 子供たちの分は俺がやってやり、それぞれソースやマヨネーズをかけていく。

 俺も自分で薄焼き卵を焼きそばに乗せ、ソースとマヨネーズをかけた。

 そしてそのまま口に運べば、なんとも言えないジャンキーな味わいが口全体に広がっていく。


「わぁ! これもおいしい!」

「マヨネーズ好きー!」

「うまーい!」


 気に入ってもらえたようで何より。

 

 賑やかな昼食は、賑やかなまま進んでいく。

 彼らと過ごす時間は、不思議と嫌なことを思い出さずに済んだ。

 

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