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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第92話 4回戦の結末

  ほぼほぼズークとまくりのジョーの一騎打ちと化した、4回戦が今も続いていた。

 2度目の半荘(はんちゃん)戦に移り、この結果次第で勝者が決まる。席順の決め方は東南西北(とんなんしゃーぺい)の4牌を伏せてシャッフルし、1人1牌ずつ取りどの牌だったかで決めるルールだ。

 結果は奇しくも1回目の半荘戦と、ほぼ変わらない席順となっていた。上家(かみちゃ)がズークで下家(しもちゃ)がジョーの位置は変わらないまま。


 何度もマージャンをやっていれば普通にある話で、席が変わらない程度ならそこまで珍しい事ではない。

 しかし運命の悪戯かそれとも運が呼んだのか、またしてもジョーが北家(ぺーちゃ)でスタートに決まる。

 そのまま対局は進行し、東3局でズークの親番が回って来た。ズークは現在2万8900点で、ジョーの方は2万7千点という状況である。


「アンタのまくりは使わせない、これがオーラスだ」


「バカを言わないで貰えるかな?」


「いいや、ここでアンタの伝説は終わらせる」


 ズークはそう宣言して東3局を開始した。イカサマを駆使した手役作りで、スピーディーなマージャンを展開していく。

 上家から2翻2900点のロン和了(あが)りで親を継続、1本場を積み3900点を先ほど奪い取った対面(といめん)から再びロン和了り。

 21100点だった対面から5800点を受け取り、ズークの持ち点は3万7600点まで積み上る。


 ズークとジョーの点差は1万点となったが、この程度の点差ならジョーはこれまでに逆転勝利して来た。

 過去には2万点以上開いた状況から巻き返しもした。だからもう2回ぐらいなら、本気でズークを止める必要はないと高を括ってしまっている。

 むしろもう少し差がついてから、東4局で逆転勝利をするシナリオで考えていた。


「ツモだ」


 ズークの早いツモ和了りは、七対子(ちーといつ)ドラ1で1600オールの安い手だ。早いマージャンはどうしても手が安くなりがちだ。

 だからこそジョーは焦っていなかった。もう一度ぐらいお情けで和了らせてやって、自分の逆転劇に使う良い材料としてやろうと捉えている。

 親しい間柄であったマライアを破ったズークを、ここで分からせてやるつもりなのだ。だからこそ一旦は華を持たせてやった。

 ここからの大逆転で自身の強さを示し、アピールする意味も込めている。絶対の自信があったからこその、危機感の欠如とズークへの侮りが致命的な結果を招く。

 この回でズークより早く和了って親となり、勝利するつもりで動き始めたジョーの耳にまさかの言葉が届いた。


「わりぃな、和了ってるわ」


「な、なんだと!?」


 ズークが油断したジョーの隙を突き、高速でイカサマを使用した。Sランク冒険者が持つ腕力と技術を駆使した、超高速の燕返しが炸裂していたのだ。

 ジョーが代打ちとしてベテランであろうとも、目の良さは精々普通の人間より多少良いだけでしかない。

 目にも止まらぬ世界最速の燕返しは、誰の目にも認識する事が出来なかった。これほどまでに下らない世界最速は、他に存在していないだろう。


 イカサマではあるが、誰も証拠を示せないので無効に出来ない。せめてジョーが自身の勝利に酔っていなければ、違和感ぐらいは感じただろうに。

 ズークが何かしたと3人共が分かっていても、何をしたのかは分からないのだ。明らかにイカサマ臭い天和(てんほー)により、16000オールが決定。

 対面は前局の時点で16000点を割っている。結果再びのトビ終了となり、4回戦はズークの勝利で終了となった。


「お前!!」


「そう怒らないでよ。侮ったアンタが悪いんだから」


「……チッ」


 事実そうであったので、ジョーはこれ以上何も言えない。マライアの敵討ちなど考えず、自分の試合をするべきだった。

 そして余計なプライドの発露と、ズークを甘く見た事は真実だ。Sランクとは言え、所詮は冒険者に過ぎないと考えてしまった。

 イカサマ勝負なんて仕掛けたのも自分だし、その事について非難する資格も持っていない。

 それを分かっているからこそ、ジョーは舌打ちする程度しか出来ないのだ。物理的にどうかするなんて不可能だし、試すまでもなく喧嘩なら自分の方が弱い。

 普段のクールで上から目線な雰囲気は消し飛び、イライラを隠す事なくジョーは退室して行った。


「さて、俺も帰ろうかな」


 誰も見抜けないイカサマを使用したズークは、天和を和了った者として注目を集めていた。

 マライアに続きジョーまで倒したとあっては、騒ぎになって当然だ。優勝候補を2人も連続で下し、Sランクはマージャンも強いのではないかと噂が流れ始めている。

 ある意味ではSランクの実力なのだが、実質的にはただのイカサマでしかない。普通に打っても高い実力はあるのだが、真っ当なマージャンでは勝負していないのが真実だ。

 裏社会のマージャン大会である以上は、それでも何ら問題はないのだが誤解でもある。


 そもそもズーク以外のSランク冒険者は人格者が殆どで、賭博に時間を費やす事はまずない。

 仮にマージャンを打てたとしても、仲間内のお遊び程度だろう。にも関わらず、ズークの活躍によって要らぬ誤解が広まりつつある。

 事実としてこれから暫くの期間中、Sランク冒険者はギャンブルも強いという変な噂が世間で囁かれる事になるのだった。


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