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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第91話 2人目の壁

 思い切り怒られたズークの4回戦が始まった。今回の対局には2人目の優勝候補であり、有名な代打ちでもあるまくりのジョーが卓についている。

 彼は北家(ぺーちゃ)スタート時の勝率が異様に高く、劇的な逆転勝利を何度も魅せて来た。そして今回、1度目からジョーが北家に決まり卓に緊張感が生まれる。

 微妙な空気が漂う状態で、半荘(はんちゃん)戦が始まった。開幕からジョーはズークを挑発する様に、初手からぶっこ抜きと呼ばれるイカサマを使用。

 自分の前にある牌の山から、左右1列又は2列を引き抜き自分の手牌に入れてしまう。不要な牌をまた山に戻して、何も無かったかの様に振る舞う行為だ。

 見抜かれるのを分かった上で、上家(かみちゃ)であり西家(しゃーちゃ)スタートであるズークの目の前で行った。


「へぇ、そう来るんだ」


「何の話かな?」


「面白い、乗ったよその勝負」


 まくりのジョーは30代の男性で、蒼く長い髪の美形である。20代にはない落ち着きと、40代には足りない若さを合わせ持っている魅力的な細身の男だ。

 高級娼婦達からは高い人気を誇っており、VIP待遇で通される程にモテている。普通に街中を歩いていても、注目を集める程の容姿を持つ男だ。

 高い鼻と鋭い目、形の良い輪郭と誰が見ても美しい。噂ではマライアと恋仲にあると言われており、彼女を破ったズークは恋人の仇である可能性がある。

 本当にそうなのかは分からないが、どうやらズークを意識している様だ。他の2人には見えない速度のイカサマだが、ズークだけは見抜くと分かっていてやって見せた。


「手癖の悪い人が多いな」


「そうかい? 君の気のせいじゃないかな」


「そっか、気のせいか。じゃあ仕方ない」


 ズークとジョーの間で始まった、イカサマありきのマージャンが開始された。ズークも他人の河から牌を拾う行為や、多牌(たーはい)なども使用して対抗する。

 本来13枚以上の牌を所有する多牌状態はチョンボであり、罰符を払わねばならない状態だ。

 しかしズークは上手に両手を動かして、端の牌が見えない様に工夫している。本来1枚しかツモを引いてはいけない所で、シレッと2枚引いて来て不要な牌をまた山に戻す事で多牌状態を解消する。

 横行するイカサマバトルによって、異様な早さで聴牌していくズークとジョー。2人のどちらかが和了る展開が続き、驚きの早さで東4局へと移行する。ジョーが得意とする4番目の東家(とんちゃ)がやって来た。


「東場でトビが出ないと良いね」


「安心しろよ。すぐに俺が東場を終わらせるから」


「君にそれが出来るかな?」


 配牌の時点からイカサマが行われ、素早く手を作りあげるズークとジョー。互いに4巡目で聴牌(てんぱい)となり、両者がダマテンに構えていた。

 そんな事になっていると知らない残りの2人は、このまま何も出来ずに負けて折檻を受けるのだけは回避したいと考えている。

 ズークはマライアを破っており、ジョーは言うまでもなく格上の相手だ。敗北は仕方ないと思われたとしても、無様な敗北となれば話は変わる。

 そんな焦りに飲まれると視野は狭くなり、周囲の状況にも意識が行き難くなってしまう。追い詰められた彼らは、ズークとジョーのスピードについて行けていない。


「ロン」


「俺もロンだ」


「なっ!? バカな!?」


 ズークの対面(といめん)である南家(なんちゃ)の男が、ダブロンを喰らって3900と5800点を支払った。

 両者ともに3翻の手役と互角の戦いを繰り広げている。ズークは宣言通りに素早く終わらせに行けていた。

 しかし親のジョーも和了(あが)っているので、南入はせずに東場が継続。東4局1本場となり、ジョーの親はまだ終わらない。

 スピード勝負が続く為、点数の動きは小さい。しかし異常に早い和了りが続く展開は、他の2人に更なるプレッシャーを与えてしまう。

 結果的にドツボにハマってしまい、全く勝負に参加出来ていなかった。実質的にはズークとジョーの一騎打ちと化してしまっていた。


「っし、ツモだ! これでアンタの親は終わりだな」


「まだオーラスが残っているけどね」


「アンタに回さなけりゃあ良いんだろ?」


 まくりのジョーはオーラスで強い雀士であり、一番の対策は彼に南4局の親を渡さない事だ。

 それまでに他の誰かがトビで終了となれば、彼の得意な逆転勝利は起こせない。だからこそズークは、このイカサマバトルに乗っかった。

 勝負を受けたという意味もあるが、何よりも彼を倒す為でもあったのだ。ズークの狙いはこの1度目の半荘戦で、ジョーよりも高い点数で終わる事だった。

 激化したイカサマバトルは更に続き、ズークとジョーの点数だけが伸びて行く。2人の持ち点は3万点を超え、残る2人はもう殆ど虫の息だった。


 そして回って来たズークの親番で、これまでに見せて来なかった手を使用する。自分の山に積み込みを行い、狙い通りの目が出る様にサイコロを振る。

 狙った目を出すテクニックを、ズークは習得していたが、今まで一度も見せていなかった。狙い通りズークの山が使用され、積み込まれたズークの配牌は満貫の聴牌だ。

 ここで必要なのは自分の点数ではなくトビで対局を終わらせる事。3巡目に対面の捨て牌でロン和了りし、親満の1万2千点支払いでトビ終了。

 しっかり対策を打たれたジョーは、鋭い視線でズークを見つめていた。

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