第72話 ダンジョンの存在意義
ムーエルトの回廊を踏破したズークとリーシュは、Bランクダンジョンの踏破報酬を入手した。
このシステムも相変わらず良く分からないルールだが、ダンジョンを最深部までクリアすると報酬が貰える。
そこで得られるものは基本的に同じで、人やパーティによって違う事は殆どない。得られる物が分かっていても、それでも挑み続ける理由がある。
特定のクリア回数を達成すれば、それまでと違う報酬を得られる場合があるのだ。その回数が100回なのか1000回なのか、それとも111回目の様なゾロ目なのか。そこについては誰も分かっていない。
「思ったよりも稼げたな」
「道中で色々あったからでしょうね。」
「それじゃあ俺はこれで」
「待ちなさいズーク、そのお金は借金返済に充てるわよ」
言うまでもなくリーシュに捕まったズークは、現金を手にする事なく返済に全額を回される。
途中で遭遇したモンスターボックスで獲得した、ユニークアイテムの売却によってそれなりの報酬を得られたのが大きい。
それでもズークが抱えた借金の総額を思えば、雀の涙よりどっちがマシかと言う程度。まあまあなレアアイテムを手に入れたとしても、いきなり1億マニー以上の高値になる事は無い。
ダンジョンで得られるアイテムの中で、実用性が高いモノは高い査定額を受け易い。今回ズークが入手したアイテムも、十分な有用性のある魔道具だった。
モンスターボックスをクリアして得たのが、モンスターボックスというダンジョントラップを感知する為の物というのはどうかとは思うが。
「ちぇっ。にしてもダンジョン産のアイテムって不思議だよな」
「急に何よ?」
「いやだって、妙にピンポイントな魔道具が多くないか?」
ズークが持った疑問はおかしくはない。理由は良く分からないが、ダンジョンで入手出来るアイテムは何らかの目的に特化した物が多い。
以前にズーク達が調査を依頼されたデアゴの洞窟がそうだった様に、異世界の人間が作ったダンジョンはそれなりにある。
それらは大体が何かしらの意図があって作られたものだ。意味も無く作られた場合も無くは無いが、割合的にはそう多くはない。
恐らくは神々が作ったと思われるダンジョンでも、何らかの意図を感じるアイテムが報酬として入手出来る。
しかしそれらのダンジョンであっても、明確な答えが得られる事は無い。何がしたくてこんなダンジョンを? という疑問は誰が作っても消えない。
「……言われてみればそうね」
「だろ? 何の意味があるんだよ?」
「そんなの作った存在にしか分からないよ」
尽きる事の無いモンスター資源と、ダンジョン産のアイテム達。そこから得られるメリットが大きい為に、ダンジョンが何故存在するのか深く考える者はそう多くない。
何の目的で存在していて、何故最深部までクリアされてもこの世界から無くならないのか。消える理由も不明で、生まれる理由も不明なままだ。
消えて生まれて、また消えて生まれる。この繰り返しにどの様な意味があるのか、知っているものは誰も居ない。
ただ利益が得られるからと、ダンジョンが発生した地域は発展していく。国が行う下手な経済対策よりも、遥かに簡単な方法で利益を得られる。
そういう意味ではこの世界にとって、ダンジョンという存在は有難いものだ。ただしダンジョンの発生するしないをコントロールは出来ないので、狙って利益を得続けるのは少々難しい。
「こんなもん用意して、何がしたいんだろうな?」
「人類への試練だって、私は聞いたけど」
「試練、ねぇ……」
ダンジョンを放置していると、成長し過ぎて大変な事になるのはこの世界で周知の事実だ。
資源が得られるからと、核を成しているダンジョンコアを破壊せずにいると急拡大する事がある。
そうなった場合はダンジョンからモンスターが溢れ出したり、大きな地形変動が怒ったりしてしまう。総じて周辺への迷惑であり、適度な管理が重要とされて来た。
ダンジョンの拡大期と思われる兆候があったら、有力な冒険者達を雇って徹底した調査を行う。
異常が発見されたら強者達を送り込み、状況次第ではダンジョンコアを破壊して消滅させる。その場合は相乗りして稼ぎに来た者達が、痛い目を見てしまう事も珍しくない。
早い段階で目を付けて、飲食店でもやっていれば。それだけで稼げた時期を見逃し、後から随分と送れてから参加する者も居る。
「今回だってクリアしたけど、特に何もないぞ」
「それを私に言われても」
「確かにそうだけどさ」
ダンジョンが生み出す利益は馬鹿に出来ないし、その存在が不利益を齎す事もあって。だから一概にどうとは言い切れず、人によっては様々な見解がある。
正しいか正しくないかは分からない。だけどこうして、問題視される様になるのはそれだけで価値がある。
正しい評価を得られ無くて、消えていった言論は大して珍しくもない。そんな環境においてズークは、それ程に悪いキャラクターではない。
ただちょっとバカで、女性関係がだらしなくて借金を抱えているだけだ。それが良いか悪いかはともかくとして。




